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 今現在、あと少しで十七時を迎えようとしている。

 迎えようとしているけど、僕は僕で必死に逃げようにも逃げ難い現実とある意味格闘してた。

 理由はごく普通。

 普通すぎて笑えるぐらいおかしい話なんだけど、およそ三十分ほど前からクラスメイトの女の子。

 平たく言えば隣の席に座ってる女の子と言っていいのか、見た目がギャルちっくだから美女と表現したらいいのかわからないが、そんなギャルな彼女がやることがないからといっても六時間目の授業が終わる数分前から今まで本当にぐっすり寝てるかわからないけど、自分の使ってる机に突っ伏している状態がかれこれ一時間以上続いている。

 もちろん、一年の頃からずっと隣の席に座ってる僕は彼女と仲が良いと担任からは見られているようでよく彼女の面倒を見るようにと言われ、ほぼ毎日今のようになっているということなんだけど、寝ている彼女のことだ。

 どうせまた何かを企んでいるに違いない。

 そう思って彼女に指一分触れることなく呼び続けているんだけどピクリとも反応がないから本当に寝ているんだろうか? と疑いたくなる。

 がしかし、彼女にとってその思い違いこそ彼女の策略で、僕以外には普通に反応してありがと〜とかっていうのに、僕が何かするとからかって来るんだから僕からしたらこの小悪魔めっ! としか言いようがない。

「ねぇ天宮さん。ほんとは起きてるんだよね? 数分前まで本当に寝てたけど僕をからかおうと思ってそうしてるんだよね」

 そう言った一分後、寝ているはずの彼女からメッセージが届いた。

 どうやら僕が起こさないとずっと起きないと言ってきたのだ。

 なぜそこまでして僕に起こしてほしいんだ? って悩んでも仕方ない。

 早く帰るためにも彼女を起こさないと……。

 寝ているであろう彼女を起こそうと彼女の肩に触れるとえっちという声と共に若干日差しで顔が赤くなったんだろう。

 机に突っ伏したまま顔を赤くした状態で僕の顔を見ながらそう言ったのだ。

「陽太ってえっちなんだね」

「天宮さんが僕に起こさないとずっと起きないってメッセージ送ってきたから!」

「あたしは触れて起こしてなんて一言も言ってないけど? 陽太は何か良からぬことを考えてたんじゃないのかな?」

 確かに天宮さんは一文字も触って起こしてなんて書いてない。

 ということは、こうなることがわかってた上でわざとこういう結果になるように仕向けたってわけか。

 その上、見た目からは想像できないほど頭の回転が早いし、僕なんかよりも遥かに賢い。

 それは姉妹揃って同じようで……。

 姉妹と言っても姉がこんな見た目だから妹もこんな感じだろうと勝手に想像してたけど、全く違って彼女のトレードマークの一つである銀色のピアスも妹は付けておらず、というかむしろ、この二年間で妹とも話すようにはなったけど、一度たりともそんなアクセサリー類を付けているところを見たことはない。

 むしろ、見た目がいかにも優等生という感じでそれに加えてツンデレ属性もプラスされるから、まあ刺さる人には刺さるとは思う。

 主に僕だけにツンデレだけど。

「……天宮さん起きたし帰る」

「なんでそんなむくれるのさー! それに置いてかないでよっ!」

 起きたなら僕はもう帰らせてもらう。

 そんなことを思い、カバンを持って教室を出ようとすると、天宮さんも慌ててカバンを持って僕を逃すまいとピッタリついてきた。

「なんでついてくんのさ」

「途中まで後ろ乗っけてもらおうと思って?」

「その?っていうのは何? それに僕が天宮さんを途中まで乗っけてくのは決定事項なんだね」

「当たり前じゃん! この前の罰ゲームはまだ1日残ってるけど?」

 罰ゲームと言われてハッとなって思い出す。

 何を思ったのか、通常だったら負けることがほぼ決まっているテストの合計点で罰ゲーム付きで勝負したんだけど、たったの一点差。猛勉強して今回は勝てると勘違いした結果、前回までは十点以上差をつけられていたけど、一点差という僅差まで追いつけたけど、負けは負け。

 素直に負けを認めて罰ゲームを受け入れたんだけど、その内容というのが、今週の月曜から今日の金曜日まで送迎をしてほしいということだったので送迎していたが、すっかり忘れてた。

「……わかった。自転車取ってくるからそこで待ってて」

 変に子供のようなところはそのままのようで、子供のように元気な声であ〜い!と返事をし、僕はその言葉を聞いた後、彼女に見送られながら自転車を取りに行った。

 ◇

 自転車置き場にやってくると、運悪く自転車が倒れていて自分の自転車が出せないのだろうか、一年のバッチをつけているところを見ると一年生なんだろう。

 女の子が倒れた自転車を起こそうと必死に力を振り絞って自転車を起こそうとしていた。

「ほら、抑えててあげるから自分の自転車出して行きなよ」

「……はっ! 先輩ありがとうございます!

 自転車を起こすことに集中しすぎてたのか僕の声に気付かず、僕が倒れた自転車を起こそうと腕を伸ばしたところで目があって礼を言って自転車を取り出して駐輪場を後にした。

 元気な声で礼を言ってくれた女の子を見送った後、ふぅと一息して持ち上げてた自転車を下ろした。

「力仕事はやるもんじゃないな……」

 内気でインドア派な僕は力という力を有していないし、むしろ運動部に所属する女の子たちと握力勝負ではいい勝負をするのではないかと思うほど、非力だと僕はそう自分自身を評価している、

 とりあえず自転車出して早いとこ天宮さんの所に行こう。

 自転車を押しながら天宮さんが待っている場所まで行くと、今までに見たことないくらいのジド目で駐輪場から出てきた僕を見てきた。

「なにかあったの?」

「別に〜だ! 陽太はどんな女の子にも優しくするのが陽太だから別に怒ってないよ!」

 別にと言っているものの、見てからに怒ってるようにしか見えないんだけど……。

 ……あぁ。

 さっきの女の子のことかな?

 いや、でも流石にわかんないと思うんだけど……。

 僕の気のせいなのかな?

「陽太が駐輪場から戻ってくるのが遅かったからって怒ってないよ!」

 女の子のことではないんだね。

 ……ん?

  いや、でも遅かったから怒ってるってことは……。

 とてつもなく嫌な予感がするんだけど、僕の気のせいなのかな?

「早く乗っけてよ陽太」

 ばしばしと僕の背中を叩いてそう呟いた。

「女の子のことは触れないんだね」

「言ったら陽太はどうしてたの?」

「困ってたと思う」

「ほらね? だから言わなかったんだよ。だぁかぁら、早く後ろ乗っけて?」

 早く自転車に乗るようにと強要されなくても乗ったんだけど、強制的に乗らされて早く出ろと言わんばかりにでかい胸を僕の背中に当てながらふぅと生暖かい息を耳に当てていじらしく僕の腰に腕を回して落ちまいとぎゅっと握ってきてる。

「なんで胸当ててるのさ」

「あたしの胸は嫌だっていうの?」

「そ、そそんなことは言ってない」

「じゃあもうちょっとだけ当てとこうかな〜?」

 もうちょっとだけと言ったが自転車をこぎ続けること数分、僕の家から学校までの中間距離に位置するコンビニついたのはいいんだけど、僕の背に天宮さんが故意に当ててる胸が密着しているせいかより当たる面積が増えてる感じもするんだけど降りる気配がしない。

 もしや、僕にうちまで送れということを遠回しに言っているのか?

「ねぇ天宮さん」

「なんだね神原くん」

「もしかして僕に家まで送れって言ってるの?」

 そうやっていうとそんなこと一言も言ってないけど? って顔をされたんだけど、僕の思い違いなのかな?

「じゃあその胸をわざと僕の背中に当ててるのはなんで?」

「私が後ろなんだから陽太にくっつこうと思ったら胸当たるよね?」

「……僕が悪うござんした」

「わかればよろしい」

 そのさ、勝ち誇ったみたいに胸を貼るのやめてほしいんだけど……。

 いや、完全に僕が悪いんだけどさ。

「悪いと思ってるならついでにあたしんちまでレッツゴー!」

 やっぱりそっちが狙いだったか、送迎のこともあるしここは素直に天宮さんを家まで送ることにするか。

「あたしんち行くついでに聞くんだけど。陽太って誕生日いつだっけ?」

「僕の誕生日? クリスマスだけどそれがどうかしたの?」

「うんん。なんか欲しいものあるかなって思って。陽太って無欲だから」

 無欲ではないけど、欲しいものはないかな?

 今までずっと妹を優先してきた生活だったからな。

 姉ちゃんに何が欲しい?って何回か聞かれたけど、正直言ってちょっと困った。

 本当に欲しいものがないから。

 まあでも、せめて欲しいというか一緒になれたらなって思いはあるから。

「強いて言うなら天宮さん……かな?」

 そんなことをつぶやくとピタリと天宮さんからの反応が無くなった。

 俺ってそんな寒いこと言ったかな?

「なんて冗談に決まってるでしょ! 天宮さんも本気にしないでいいからね?」

「……いいよ。本気にしても」

「冗談だってば!」

「クリスマスになったらあたしをあげるねっ。それまでに女として磨き上げとくからさっ!」

 う、うん……。

 からかうつもりで言ったのが本気と捉えられたようでクリスマスの僕の誕生日の日に天宮さんをもらうことが、決定事項となった。

「うち近いからここら辺でいいやっ」

「え、ちょっ……!」

 当の天宮さんは僕の方へ振り向きもせず、走っていった。

 残された僕はあっけにとられてたが、後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。

「車道側によるか内側によるかどっちかにしなさいよ」

「あれ。こんなところで何してるの?」

「あんたがそれを言ってどうするのよ。あたしはお姉ちゃんとあんたがあたしの前を通ったから追ってきてあげたんじゃない」

「それは悪いことしたな。ごめん莉緒」

「私のことは名前呼びなのね。お姉ちゃんは名字呼びなのに」

 声の主は、先程まで一緒にいた天宮さんの妹の天宮莉緒。

 説明は省くとしてあいかわらず僕にだけ棘なんだなぁ……。

「嫌だって言うなら名字呼びにするけど」

「なに? 私を名前で呼ぶことに抵抗でもあるの?」

 えぇ……。

 さっきまで名字呼びがどうのって言ってたのにもう変わったの?

 姉妹揃ってよくわからない。

 なぜ彼女、天宮莉緒と知り合ったのかというと、初めは学校の図書館で出会った。

 ただそれだけの関係だったけど、一年の二学期終盤くらいの時期から外でも合うようになり、ある程度話すような関係になったと思ったら、初めて天宮さんの家に呼ばれた日、名前を聞きそびれてた僕は彼女が天宮さんの妹だということは知らずに家にお邪魔して顔を合わせた時は気まずいなんて生ぬるいものじゃなく、一瞬死期を悟った。

「それでそっちはなんの帰りなの?」

「見てわかんないの?」

「わかんないから聞いてんだけど」

 で、言葉にキャッチボールがまともにできた試しがない。

 嫌われてるのかなと思うけど、天宮さんによると妹なりの愛情表現なの。とは言ってただけど、これのどこが愛情表現なんだろうか。

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