第十六話 真の能力
レッドアイの放った一撃は空を切る。
焔は体を右に傾け、レッドアイの攻撃をかわす。
(さすがは俺に啖呵を切っただけのことはあるな……だが、お前に時間をかけるわけにはいかないんだよ!!)
レッドアイはナイフを90度回転させ、刃を焔の方に向ける。
(悪いがこれで終わりだ……焔!!)
そのまま間髪入れず、焔にかわされたナイフを顔の横、つまり死角から焔の顔に切りつけた。
だが、またしてもレッドアイの攻撃は空を切る。
焔は刃が顔に届く瞬間、素早く体を屈めることでレッドアイの攻撃をかわした。
(馬鹿な!! 完全に死角からの攻撃だった。考える隙は与えなかった。なのになぜこいつは反応できた!?)
レッドアイはこのひと振りで終わると思っており、次の攻撃のことなど全く考えてなかった。
そのため、一旦焔から距離をとった。
「おい焔、お前いったいどう……」
レッドアイはここまで言いかけてその先は言わなかった。
(なるほど。今は全神経集中して俺の動きだけを見ている。そういう目だ。……フッ、少し相手を下に見すぎていたか……)
「次からはお前を実力者と認めて相手をする……行くぞ!!焔!!」
そう言うとレッドアイは素早く焔を間合いに捉えると、尋常じゃない速さで何度も焔に向かって切りかかる。
顔、胴体、足、そのすべての攻撃を焔はさばいていく。
キーン!! キーン!!
ナイフとはさみがぶつかり合う音が廊下中に響く。
そして次第に教室の中がざわめきだしだ。
「おい、まじであれ焔かよ……」
「焔ってあんな強かったか……」
「……あれ焔君なの」
みんな焔の見たことのない姿を目の当たりにして驚き、唖然としていた。
そんな中、二人だけは違う目で焔を見ていた。
「龍二……やっぱり焔はすごいね」
まっすぐ焔を見ながら綾香は言った。
「ああ」
それから一分が経過した。
そこでレッドアイはある違和感に気づく。
(なんなんだこの違和感は……こいつが俺の攻撃をかわせるのはすさまじい反射神経があるからだと思ったが何か違う。俺の攻撃を見透かしているかのような……そんな感じがする……。
それになぜいとも簡単に俺の攻撃をはじけるんだ……とてもそれだけの筋力はもっているようには見えないが……)
―――「彼リミッターが外れちゃってるね」
向かいの棟の屋上で焔たちを眺めている男が言った。
「ああ……というか助けなくてもいいのかよ、おい。レッドアイを捕まえるのが俺たちの任務だろ」
隣でヤンキー座りをしていた男が少しキレ気味で言う。
「んー俺も助けたいのは山々なんだけど、どうも気になってね、彼が」
「まあ、確かに素人にしてはよくしのいでるほうだが、それはリミッターが外れてるのと反射神経が人よりも優れてるからだろ。とても戦力になるとは思わない。見るだけ無駄だろ」
男はニヤッと笑った。
「確かに反射神経は良いけど、おそらくただ反射神経が良いだけじゃないんだよなー」
「あ? じゃあどういうことだよ?」
「それは……予測するのが尋常じゃなく速く、そして予測してから動くまでの時間が極端に短い……っていうことだと思うんだよね」