バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

約束

「よく出来ている。完璧な調査だ。もうしばらく辞表は出さないでくれ」
 検査部長の短いメールと本店の調査が添付されていた。これは頭取が支店長で在籍していた頃の私が見つけた架空口座の写しだ。この時に7億のうちの5億が消えている。伝票の写しは経理主任と支店長の印しかない。どうも初めは二人でスタートしたようだ。
 今朝から支店長が本店に検査部長の引継ぎに出かけた。かなり急いでいるようだ。もう陰では次長のことを代理が支店長と呼んでいる。それに女性社員から退職した経理の女性が東京に引っ越しするという噂が流れている。支店長がワンルームマンションを買ったとも言う。もう私の知ったことじゃない。どことなく私は除け者にされている。
 ビルの前に立つと大きな看板がシャッターのところに貼ってある。4月1日から解体工事が始まるようだ。
「何が建つ?」
「ワンルームマンションらしい。1階はコンビニだそうよ。辞表出したの?」
 ぽろんには不正の話もしている。
「いや、検査部長から待ってくれと言われている」
「でもその人も札幌に都落ちでしょう?」
「だがいい思いはなかったけど、信用できる人物ではあったな。最後の奉公だよ」
「石田君がお別れ会をしてくれるんだって。会費制で20日だけど来れる?」
 彼が作った張り紙を見せる。
「まあ間違いなく」
「それより3日後くらいの夜空けててね」
「そのDVD売りに出さない約束なら」
「私も恥ずかしいのよ」

しおり