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半分。
この言葉から受ける印象は人それぞれだと思う。
あと半分も残っているのか、半分しか残っていないのか。
俺は場合によって使い分けるという曖昧な答えを提示するが、今この状況では確実に後者として使っていないと、俺の精神が耐えきれない。
つまり何が言いたいかというと、期末が半分終わったということだ。
というわけで今日は期末二日目。七月の上旬だ。
帰りのHRすらも特にないこの日々は、学校に居残って勉強しようとする奴や直帰する奴らで、教室はざわざわしつつも人をだんだんと吐きだしていた。
俺はというと、観念して自習室で勉強しようなんて、我ながら殊勝な行動を取ろうと決心していたのだが、やはり嫌なことは後回しにしてしまうもので、まだ残っている友達と少しだべっていた。
「あと何教科?」
「七!」
「いやぁー! 半分終わったべ!」
「終わった? どういう意味で?」
「レッドポイント!」
「英語にする意味!」
あはは、と余裕ぶちかまして笑いあっていると、肩を誰かが後ろから小さな力でトントンと叩いた。
振りかえると背の高い女の子が控えめに立っている。
「あの、少し、お話、いいですか……?」
青いし、透けてるし、影はない。
過去に死んでしまったらしい女の子は申し訳なさそうに右手で小さく手招きをした。
「あ、俺もう帰る」
「おぉー、またなー!」
同じくらいの成績を取るであろう仲間に手を振って教室から出ると、女の子は人のよさそうな笑いをしたので、俺もそれに返して笑いながら、ポケットに入っていた笛を取り出して吹いた。
多分、俺一人で解決できることじゃないと思う。
ポケットにどっちの笛を入れていたかなんて把握してなかったけど、手の中を見たら白い方だった。
試験終了後の学校に残る生徒なんて、俺みたいにだべってる奴ぐらいで、学校で勉強しようなんてやつは図書室や自習室に行っているから、廊下はがらんとしていた。
「すいません、急に呼んじゃって……。でもあなた、私のこと見えますよね? それが分かったらいてもたってもいられなくて……」
女の子は百七十を超えていそうな長身。俺と同じくらい。髪が長くて、胸の下ぐらいまであるストレート。
「あぁ、いいですよ、別に。きっと俺が解決することじゃないだろうし」
「え?」
女の子が少し眉を動かした時、だるそうな声が背中に振りかかった。
「なんだよつぐ、女の子のナンパに成功したから見せびらかすために呼んだのか?」
頭をぼりぼり掻きながら近づいてくるソラの後頭部をロクさんが引っぱたいた。
「そんな理由で呼ぶわけないだろう」
ロクさんは女の子と目が合うと、やあ、という風に微笑んだ。なんとイケメンで紳士なことだろう。
女の子はというと、そんなロクさんに特に大した反応はなく、頭を小さくぺこりと下げただけだった。図書室の葉奈さんは頰を赤くしていたというのに。
ロクさんに対する意外な態度にちょっと驚いていると、ソラがぐい、と俺の腕を引っ張って耳打ちしてきた。
「なぁ、あの子胸でかくね?」
黙っとれ!
「いった!!」
思いっきり足を踵で踏んでやると、思った以上にダメージがあったらしく、ソラは足の甲を押さえながらぴょんぴょんと跳ねた。
「なんだよ、お前もそう思っただろ?」
「…………」
……確かに気づいてはいた。学校ですれ違う人に比べては、やたら前に出ているなと。
だがいくら小声だと言っても、本人の前でそんな話をできる度胸を俺は持ち合わせていない。
「デリカシーないんだよ、お前は」
「だからちっちぇ声で話したじゃん」
俺とソラの争いにため息をついたロクさんが、茫然としていたその子をやっと促した。
「それで、何の用なんだい?」