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廃都へ

ゲートセンターから東ゲートを抜けると、そこは廃墟だった。

そのゲートは建物のなかにあったが、それがなんの建物なのかはわからないくらいに崩壊していた。

天井は半分くらい崩れていたし、窓ガラスはほとんどが割れていた。

壁はどうにか残っていたが、それもひび割れが走り、危うい状態であることをうかがわせた。

ゲートの周囲も似たようなものだった。道路にそって高い建物が並んでいたが、どれも無人であることは一目でわかった。

まともに外観を保っているビルはなかったし、すでに倒壊している建物も目についた。

道路にはモンスターの姿もあった。両手に剣を持った骸骨が歩いていた。おれたちは建物のなかにとどまったまま、外の様子を眺めていた。

「あれはスケルトンナイトだな」

拓真がスマホを取り出して言った。おれたち契約者もスマホは持っている。

というか支給されている。モンスターの情報はデータベース化されていて、スマホのアプリからランクなどを知ることができる。

ただ、用途は限られていて、基本的な検索機能は制限されている。

電話やメール以外には、写真を撮る機能くらいしか使えない。もっとも、その写真がおれたち契約者と召喚師を繋いでいるわけだが。

「スケルトンナイトはランクはCだな。頑張れば颯太、お前でも倒せないことはないと思う」

「大して強そうには見えないな。あんな骨だけのモンスターと契約をしてもあんまり意味はないんじゃないのか?」

「そんなことはないぞ。スケルトンナイトには痛覚がないから、少しくらいの攻撃には耐えられるらしい」

「それはかえって危険なんじゃ」

「あ、空を見てみてよ」

紗英が空のほうを指差した。

そこには一体のモンスターが空を泳いでいた。細長い胴体に大きな翼を広げている飛行型。

「あれはワイバーンか。A クラスのモンスターだな」

A クラスか。ゲートの近くにそんなレベルのモンスターがいるということはやはり、ここは難易度が高いのだろう。

「それにしても、あんな高いところを飛んでるモンスター、どうやって倒せばいいんだ?」

「やりようはいくらでもあるだろ。もっとランクの低い飛行型のモンスターと契約して正面から戦いを挑むとか、遠距離から攻めるとか」

「遠距離?」

「炎を吐くモンスターとかの力を使うとか、銃で攻撃するとかだな」

「ハンドガンじゃあんな高いところまで届かないだろ」

センターの受付で貸してくれる銃には、火力の高いものはない。

全体的に扱いやすいものが揃っている。武器に頼りすぎることを防ぐ意味合いがあるそうだ。

「そんなの、拾えばいいんだよ」

「どこで?」

「ここで」

拓真は自分の足元を指差した。

「この廃都には結構武器が落ちてたりするんだよ。受付なんかでは手に入らない強力な武器なんかもあるんだ。そいつを探せばワイバーンにも対抗できるだろ」

「やけに詳しいな」

「おまえとは経験が違うんだよ」

どの道、おれはここから離れることはできそうにない。

スケルトンナイトは複数歩いているし、ワイバーンにもいつ襲われるかわからない。

「ワイバーンと契約したら空とか飛べるのかな?」

梨乃が空を見上げままそんなことを呟く。

「ある程度なら飛べるな。でも、何時間も飛び続けることは難しいだろう。おれたちは結局、その力だけを譲り受けるわけだからな。体の骨格なんかがかわるわけじゃない」

「……夢がない」

拓真の答えに、梨乃がつまらなそうに答える。

「じゃあ、今日はこれで帰るか。おれの実力じゃ、一歩でも外に出たら即死間違いなしだからな」

「なら、他のゲートを試してみる?」

紗英の提案に、おれはしばらく考え込む。

「あの、あれを見てください」

芹沢の声に、おれの思考は中断された。

「もしかしてあれは、人ではありませんか?」

「人?」

芹沢の指先が示すほうに視線を移すと、そこには確かに人がいた。

髪の長い女性のように見えた。遠目ではあるが、彼女は瓦礫の散乱する道路を一人で歩いていた。

「な、なんでこんなところに人がいるんだよ」

拓真が驚愕の声をあげる。

先に入った契約者でないことは確かだった。ゲートセンターでは子供が勝手に入らないように人の出入りを監視している。

もしも誰かがダンジョンに挑戦をしていたのなら、そのような指摘もする決まりとなっている。そうしないと、現場が混乱してしまうからだ。

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。いますぐに助けないと襲われるわよ」

切迫感のある紗英の声。

スケルトンナイトはすでにその存在に気づいていた。両手の剣を揺らしながら、彼女へと近づいていく。

自分に敵意を向けてくる骨のモンスターを目にとめ、彼女は腰を抜かしたように倒れこんだ。

表情も何もないスケルトンナイトがにやついているように感じられる。いますぐ助けにいかないと、殺されるのは確実だ。

「じゃ、わたしが」

梨乃が軽く手をあげると、一人で建物の外に出て、その場で両手を地面に手をついて四つん這いになった。

次の瞬間、梨乃の姿はそこにはなかった。地面に手をついたまま、両手両足を使って一気に彼女のところへと移動した。

そしてその口に彼女をくわえ、再びこちらへと戻ってくる。

「ふう、疲れた」

彼女を口から離し、梨乃は立ち上がる。

「おまえ、もしかして契約の力を使ったのか」

「うん」

「よくやったとは思うが、怖くはなかったのか。もしかしたら周りをモンスターに囲まれていたのかもしれないんだぞ」

「平気。わたし、ケルベロスと契約してるから」

「け、ケルベロス?」

「うん。だからあの程度のモンスターには集団でも負ける気がしない」

ケルベロスはA ランクのモンスターだ。それくらいおれでも知っている。

「すごいな、おまえ」

「誉められた」

「どうやって契約をしたんだ」

「まあ、努力。それよりもその子のことを心配したほうがいいと思う」

「あ、ああ」

おれは屈んで、床に寝かされた女性を観察した。

おれたちと年齢が変わらないくらいの少女だった。髪は赤く、肌は透き通るように白い。気絶しているのか、一切目は開けようとはしない。

来ているのは布切れのようなボロ服だった。

「まさかこの娘、モンスターとかじゃないわよね」

「そんなわけないだろ。人型のモンスターなんて聞いたことかない。しかも襲われてたんだぞ」

「確かに、ここには登録はされてないみたいだな」

拓真がスマホを操作しながら言う。

「なら、あたしが言ったSクラスを超えるモンスターなのかもしれないわね。 一応、契約を試してみたら? うまくいくかもしれないわよ」

「……やめておくよ」

そういった行為はこの少女に対して失礼な気がした。見た目は完全に人間だし、意志も交わすことができそうだった。

まずは本人が目を覚ますのを待って、どうしてこんなところにいたのかを聞かないといけない。

「その女の子はもしかして、異世界人ですか?」

芹沢の発言に、おれたち契約者四人は顔わ見合わせた。

ここは異世界の一部。なら、そこに住んでいた人間がいてもおかしくはない。

あくまでもダンジョンはモンスターのみの世界だとは教えられたが、あまりにも広大なのではっきりと隅々までは把握できていないのかもしれない。

「だが、こんなところで生き延びることなんてできるのか? モンスターはたくさんいるし、街の様子を見る限りじゃ、人が生活している気配なんて全くないんだぞ」

「可能性はあるんじゃないの? この娘にも不思議な力があるかもしれないし」

「それよりもいまは、この女の子を病院に運んだほうがいいと思う」

梨乃の言うように、ここで議論をしていても仕方がなかった。細かいことは後で本人に聞けばいいだけのこと。

おれは少女を背負い、ゲートへと向かった。

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