42話 温泉小旅行
駅前のバス停からバスに乗って1時間ほど揺られる。バス停から乗る乗客は全て某有名温泉街へ向かうお客様達が。
某有名温泉街は山奥にあり、一般の人々は車を使うことが多い。よって、バスに乗っているのは車を持っていない老齢のお爺ちゃん、お婆ちゃんが多い。
「あら、珍しい。お若い方、新婚旅行?」
何処から見ても高校生にしか見えない刀祢と心寧を見て、お婆ちゃんが笑顔で声をかけて来る。声をかけられた刀祢と心寧は新婚旅行という言葉を聞いて顔を真っ赤にしてドギマギしている。
「いえ、私達、学生で、グループ旅行です」
莉奈がおっとりした口調で、お爺ちゃん、お婆ちゃんに応える。
「若いもんはええのー」
「お爺ちゃんも温泉を楽しんでな」
お爺ちゃんは莉奈と直哉と話ができて嬉しそうに笑っている。
このバスに乗っている乗客の中で高校生は刀祢達4人だけだったので、乗客のお爺ちゃん、お婆ちゃん達から、よく声をかけられることになった。
特に初々しい反応をする刀祢と心寧は人気者となっていた。
温泉街のバス停でバスを降りて、お爺ちゃん、お婆ちゃん達と別れて、10分ほど歩くと、川沿いに立ち並ぶ温泉街の旅館街へ続く道に差しかかる。
直哉が先頭に立って、旅館街を歩いて行くと、刀祢達が予想していたよりも立派な旅館に直哉が入っていく。
「立派な旅館ね」
「ああ、予想外だった」
心寧と刀祢は玄関の豪華さに目を奪われる。
「いらっしゃいませ」
「予約している斎藤です。今日はよろしくお願いします」
「斎藤さんの息子さんですね。予約は承っています。どうぞ、お進みください」
女中さんはニコニコと笑顔で刀祢達を部屋へ案内してくれる。心寧と莉奈の部屋と刀祢と直哉の部屋は隣同士だった。
全員で男部屋へ入って、座布団を敷いて座卓に座って、座卓の上に用意されているお茶を心寧が淹れて、全員でお茶を飲む。
「バスで1時間、街から離れただけなのに、小旅行の気分だな」
「ああ、そうだな」
「心寧、川がとってもきれいよ」
「本当ね、莉奈」
直哉も刀祢も小旅行気分になっている。莉奈と心寧は川を見て喜ぶ。
「この川は夜になるとライトアップされるんだ」
直哉はこの旅館に何度か泊まったことがあるらしく、大浴場がきれいで大きく、露天風呂も景色がきれいだと説明してくれた。
「せっかく温泉街に来たんだから、さっそく温泉へ入ろうぜ」
「ああ、そうだな」
「お風呂からあがったら、大浴場の目の前にあるゲームコーナーで待ち合わせね」
「私達は用意してくるね」
莉奈と心寧は温泉に入る為、隣の部屋へと戻って行った。
刀祢と直哉もシャツの上から浴衣を着て、バスタオルを持って大浴場へ向かう。男湯ののれんを潜って、脱衣所で裸になり、大浴場の中へ入っていく。
先に身体と髪を洗って、その後にかけ湯をして大浴場の湯船に浸かる。
「フー! 気持ちいいー!」
直哉は気持ちよさそうに息を吐く。自然と刀祢も体が湯の中で伸びる。
「刀祢とノンビリするなんて、久しぶりだな」
「本当だな。最近、直哉の家にも行ってなかったな」
何気ない会話でも温泉に浸かりながらだと楽しくなるから不思議だ。しばらく大浴場の湯に浸かった後に露天風呂へ行く。
「外も気持ちがいいな」
「ああ、そうだな」
露天風呂に入って体をゆったりさせて空を見ると、空に飛行機雲の跡が残っているのが見える。とても気持ちが良い。
「直哉ー! 聞こえるー! 今、女風呂は誰もいないのよー!」
「莉奈か! 男風呂も刀祢と2人だけだ!」
露天風呂からは川が見え、とても景色がきれいだ。
女風呂では何が起こっているのかわからないが、莉奈と心寧の楽しく笑い合う声が聞こえてくる。
莉奈も心寧も楽しそうで良かった。
「いい湯だな」
直哉が湯で顔を洗って、爽やかに笑う。
直哉とは長い付き合いになるが、一緒に小旅行に来るのは初めてだ。直哉がこんなにはしゃいでいるのを見るのも初めて見る。
「俺、中学の時から、莉奈に夢中だったんだ」
「そうか、知らなかった」
莉奈はおっとり系の美人でお淑やかで、穏やかで気遣いのできる美少女だと直哉が惚気る。直哉と莉奈は本当にお似合のカップルだと刀祢は思った。
最近の心寧は物静かにしていることも多く、上品さ、清楚さがあり、生粋の美少女だと刀祢は思う。刀祢には勿体ないくらいの良い女性になってきたと思う。
今では口喧嘩をすることもなく、互いに喧嘩をすることもない。何でも2人で相談できる良い関係になっている。
大浴場から出ると、浴衣に着替えた莉奈と心寧が髪を結い上げて待っていた。項がピンク色に染まってとても艶がある。
刀祢は心寧に、直哉は莉奈にしばしの間、見惚れていた。
「待たせたか?」
「ううん! 私達も今、出た所!」
心寧は嬉しそうに刀祢に寄り添い、浴衣の裾を持つ。