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41話 温泉街へ行こう

 文化祭の演劇で2年1組は優勝することができた。

 優勝したことでクラスの皆は喜び、各グループに分かれて隣街や温泉街へ遊びに行くことになった。

 刀祢も、あの演劇のおかげでクラスの皆と打ち解けて話ができるようになった。

 しかし、文化祭でクラスの皆に直哉と莉奈のことがバレた。直哉と莉奈は演劇が終わった後に2人で文化祭を回ったという。

 そのことが杏里の耳に入った。


「直哉、嘘だよね」


 杏里はか細い声で直哉に問いかけてくる。直哉はいつになく困惑した顔をしている。


「ゴメン、杏里。俺は莉奈のことが好きなんだ。隠していたけど、1学期から莉奈と付き合ってた。杏里にどう説明していいか、わからずに今まで隠していた。ゴメン」

「杏里、私もゴメンなさい」


 直哉と莉奈が杏里に頭を下げる。


「私、色々と男友達も多いけど、直哉のこと、一途だったんだよ」

「知ってる。だから言えなかった」


 直哉は真直ぐな瞳で杏里を見て、頭を下げる。莉奈は頭を下げたままだ。


「わかった。私も直哉のこと諦める。また自分で良い人を探すよ。温泉街へは4人で行ってきて。当分、このグループから私、外れるね」


 杏里はそう言って、違う女子のグループの元へと去って行った。

 直哉から話を聞くと、直哉は中学生の時から、莉奈のことが好きだったのだという。しかし片思いのまま中学を卒業し、高校2年生になって一緒のクラスになるまで莉奈に想いを伝えることができなかった。

 莉奈と一緒のクラスになったことが縁で、直哉は勇気を出して莉奈に告白し、1学期の間に付き合いが始まった。

 しかし、その時には既に、直哉は杏里から猛アタックされている最中で、杏里に付き合ったことを言えなかったらしい。

 莉奈も杏里の想い人と付き合っていると言いづらくて、今まで言えなかった。

 これでイケメンでモテ男の直哉が女友達は多いのに、彼女を作らなかった理由が刀祢にも理解できた。


 そして2学期に入ってから刀祢と心寧が付き合い始めた。

 刀祢と心寧が学校の中でも公然として仲睦まじくしている姿を見て、直哉と莉奈も刀祢達のように学校でも公認で付き合いたいと思うようになったという。

 そして、文化祭の時、この日ぐらいは2人で一緒に行動したいと思い、2人で一緒に文化祭を回って、クラスの皆に発見されて、バレた。


「バレたというか、バラしたというか、そういう感じだ」


 直哉は照れくさそうに髪を掻く。

 刀祢の住んでいる街から車で1時間ほどの場所に、某有名温泉街がある。

 よって、この街から温泉街にバスが通っている。バスの本数は少ないが、日帰りで温泉街へ遊びにも行くことができる。

 当初は5人で温泉街へ遊びに行く予定だったが、杏里が抜けたので4人になってしまった。

 杏里が抜けたことで当惑したが、杏里も他のグループで、遊びに行くみたいだし、刀祢達も4人で温泉街へ行くことにした。


「どうせなら、休みの日を使って、一泊しようぜ。丁度、男子2名、女子2名に別れているし、部屋も取りやすい」

「それもそうね。互いにカップル同士だし、丁度、良いかもね」


 直哉と莉奈が刀祢と心寧を誘う。

 刀祢も心寧の泊りがけで遊びに行ったことはない。行きたい気持ちもあるが、照れるのと、気恥ずかしさで、どうしていいかわらかない。


「俺の親父の知り合いが温泉街で旅館をしてるんだ。親父に頼めば、部屋を用意してくれる。俺のほうで予約しておくから。刀祢と心寧は家の許可を取ってこいよ」

「私の家は両親が海外出張だから、大丈夫。後は刀祢と心寧の家だけね。心寧のご両親なら、私が一緒に話してあげてもいいわよ。心寧のお母さんは許してくれるはずよ」


 直哉と莉奈が話を進めていく。

 温泉街へ行くバスは通っているが、日に10本程度しかバスはなく、夕方以降のバスの往来はない。

 ゆっくりと温泉街で遊ぶとなると一泊しなければならない。

 心寧は照れながら莉奈を見る。


「お母さんとお父さんの説得、莉奈も一緒にお願いね。私だと、どう説明していいかわからなから」

「わかったわ。任せておいて」


 莉奈はそういうと、心寧を軽く抱きしめた。


「刀祢の家は大丈夫だと思うけど、どうだろう?」

「そうだな、俺の家は放任主義だから、たぶん大丈夫だろう。今日の夜にでも母さんに話をして許可をもらうよ」


 刀祢の家は放置主義というか、放任主義だ。刀祢が事情を話せば、両親共、何も反対はしないだろう。


「では、自分達の親の許可が取れたら、俺に連絡してくれ。それから、すぐに予約を取って、皆に予約が取れたことを連絡するから」


 直哉が爽やかに笑った。

 莉奈と心寧は嬉しそうに手を握り合っている。刀祢も心寧と初めての一泊旅行が楽しみで仕方なかった。

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