第6話
「ところで命?」
「今後どうする?」
命は依然としてお札の中に入ったままだった。
そして霊士の服のポケットの中にそのお札が入っているので。
事情を知らぬ者からしたら声色まで変えた霊士のヤバイ独り言に聞こえなくもなかった。
「どうするって?」
「このままお札の中かそれとも!」
「成仏って事?」
「いや、それがな実は!」
「あまり得意では無いので失念していたのだが!」
「もう一つの方法がある!」
「依り代を作れば良いのだ!」
「本来なら依り代というのは神様をこの世に顕現させる為なので!」
「少し違うが、命用の人型を用意しようという事だ!」
「よく解らないけどお札から出れるならなんだっていい!」
「会話は出来ても暗いから嫌なのよ!」
お札の中は閉鎖空間である。
会話は出来るものの真っ暗で視界は無い。
「では今から心当たりを当たってみよう!」
「こちらからいいというまで声は出さないでくれ!」
ここは山深くにある城。
周囲を山に囲まれているのでどうやって建造したのかは不明だし。
ここにたどり着くのもそうとう険しい。
そこに霊士がやって来た。
「ふう、久しぶりだかなんとか出来たな!」
霊士は懐から出した紙型に念を込めた。
そうするとその紙型は大きくなり、霊士が乗ったとたん空高く舞い上がった。
「さて、入るか!」
城門を開け霊士が場内に入ると。
中から一人の少女が姿を現した。
「霊士?」
「何をしに来たの?」
「もちろん京子に会いに来た!」
「相談があるんだ!」
「なんだ、あれには気づいてないんだ!」
「ん?」
「何でもない!」
「暇じゃないからとっとと要件!」
「なるほどね!」
「その娘の為に式神を依り代みたいに使って!」
「その娘を顕現みたいにさせたいと?」
「フッ、相変わらずだな!」
みたいみたいと言っているのは京子の生真面目さを表している。
命は神では無いからだ。
「何がおかしいのよ!」
「いや、相変わらずまじめで良かったなと思って」
「面白味の無い女で悪かったわね!」
「まあ、霊士に好かれようとは思わないし!」
「いや、そのおかけで今俺はこうしていられる!」
「世話になったな!」
「ありがとう!」
「なんだ、やっぱ気づいてたんだ!」
霊士が寝たきりになって以降世話をしていたのは彼女だった。
定期的に念を込めなければ霊士が抜け出たままでは魂は弱っていくし。
手足も動かさなければ寝たきりから回復した後まともに動けない。
「恩着せがましくするつもりはないから聞かれなければだまっていたし!」
「そう思って笑いをスルーされれば黙っておくつもりだった!」
「商売敵的な立場とはいえ、まじめだから放ってはおけないか?」
「敵に塩を送ってそして勝つわ!」
「でも、霊士が忘れていることがあるわね!」
「私はこの手の話には協力しない!」
「すぐに成仏させるべきだわ!」
「そう言うと思って面白いことを考えてきた!」
霊士はお札を取り出し京子に向けた。
「吸出!」
「依り代が駄目なら尸童ってね!」
「命、この体に入って操ってみせろ!」
「えっえっ?」
「どういう事?」
「だから!」
「神じゃないから尸童みたいって!」
「うん、動く!」
「じゃあこの体貰っちゃっていいの?」
「いいぞ!」
「ちょっと!」
「いいわけないじゃない!」
「出てって!」
「どうだ?」
「操作性能は?」
「重いかな?」
京子が抵抗しているから必要以上に負荷がかかっている。
だが、命と京子の本来の体の性能差で命に分があったのだろう。
多少ぎこちないが命の思う様に動かせるようだ。
「この城も好きに使っていいぞ!」
「この城は大月京子という式神使いの天才が住んでいたことから!」
「式神の城と呼ばれていたが!」
「もういないのだから好きな名を付けるがいい!」
「勝手な事言わないで!」
「私はここに居るし!」
「私の名は天野命!」
「そしてここは私の城!」
「違う!」
「違うから!」
「聞いてよ私の話を!」
「何か雑音が聞こえるけど気にしないでね!」
「問題ない!」
「俺が命の声と雑音を聞き間違える訳がないだろ!」
「嫌っ!」
「いやあああ!」
「なんてな!」
命と霊士は口をそろえてそう言った。
「え?」
霊士はお札を取り出し京子に向けた。
「吸引!」
月子は命から解放された。
途端に京子の目から涙が溢れ出す。
「酷い!」
「酷いわ!」
「すまん!」
「少し意地悪をした!」
「命は長い間浮遊霊として誰に気づかれる事もなく!」
「この様な思いをしていたんだ!」
「それを少し知ってほしかっただけだ!」
「力を貸してやってくれ!」
「ごめん、悪乗りしちゃった!」
「でもこの方向で合ってたのよね?」
「だって恩人に霊士が酷いまねする筈ないし!」
「でも、いつもいつもいい加減にしてよ!」
「アドリブは大変なんだから決めといてよ!」
「悪い命!」
「命は戦略とか作戦には向いてない!」
「だがそれがいい!」
「だからこれからもそうする!」
「それ全然フォローになってなくない?」
「解ったわ協力してあげる!」
「いいのか?」
「泣いちゃったからね!」
「こんなつらい目に合ってた人を助けないのは無い!」
「でも霊士!」
「よくも泣かせてくれたわね!」
「覚えてらっしゃい!」
「ところで二人は恋人同士なの?」
「それも無い!」
「だって恋人でも仕事でも無いのに寝たきりの人の世話をすかるって大変じゃない?」
「弱ったライバルをやっつけても面白くないから!」
「最高の状態を維持させるためにやっただけ!」
「なんだかんだ言って真面目で優しいんだ!」
「だって、恋人みたいに呼びあってんじゃん!」
「上の名前で呼ぶと家族全員がその名でしょう?」
「ライバルなんだから敬称なんか付けないし!」
「霊士は?」
「命、この世にはルールというものがあってだな!」
「右へ倣えといってだな!」
「自分を呼んだ相手を呼ぶ時は同じように呼ぶ、当たり前の事だぞ!」
「呼び名と以心伝心のあなたたちこそ付き合ってるんじゃないの?」
「え、私?」
「私の呼び声に答えてくれたのは霊士だけだったから!」
「あの時は霊士も幽霊だと思ってたし!」
「打合せなしでもうまくいったのは私が単純すぎて予想しやすいと霊士が思ってるからで!」
「その通りだったのがまたまた悔しいんですけど!」
「じゃあ、えっと!」
「命だから!」
「みこちゃん!」
「今日からここに住んでもいいわよ!」
「霊士、あとは任せて!」
「次に来たときは立派なみこちゃんを見せてあげるから!」