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5話

只野広は悩んでいた。
「なんとか良いところを見せられないものか!」
おそらく彼女を持つ男なら常に考えていてもおかしくない。
彼の場合。
特に人より秀でた特技も無い。
しかし、特に人より劣るところも無い。
男女間では特に身体能力の差があり。
なんでもそつなくというか、なんでもそこそここなす彼ならば。
大抵の彼女が相手なら良いところを見せるのは容易であっただろう。
しかし相手が相手だ。
良いところを見せられるのがオチだろう。
弱いところを攻めるしかないな。
「定番だがお化けかな?」
大抵の女性はお化けや幽霊を怖がるものだ。
中には怖がるふりをしてハグをする者もいるらしいが。
自分の彼女は万能なので怖がらないかも知れないが。
もし怖がったらどうだろう?
自分の良いところを見せる為だけに彼女を怖がらせるのがカッコイイ彼氏のする事だろうか?

広はパソコンで心霊スポットを調べていたが断念することにした。
その時たまたま見つけたのが廃墟マニアのサイトだった。
「これだ!」
「廃墟にしよう!」
これなら怖くは無いし。
その朽ちた姿からなんらかの曰くを想像し、怖がってくれるだろう。
必要以上に怖がる様ならネタバレをすればいい。


そして廃墟デート。
広がいくつかピックアップした中から選んだのは。
都心にある大きな廃墟ホテルだった。
「今日は廃墟探索という!」
「庶民の間では割とメジャーな事をしたいんだけど!」

都心まで来ればデートスポットはいくらでもある。
和美はまさか廃墟デートなるものを体験する事になろうとは夢にも思っていなかったらしい。
「ちょっと電話して来ますね!」
彼女は呆れ顔でため息をつく。

数十分後、彼女は戻ってきた。
「では入りましょう!」
和美はホテルの入り口から入ろうとする。
 

「こっち!」
広は慌てて引き留める。
「裏口が鍵が壊されてるから!」
「入り口からだと人に見られるから!」
「みんなこっちから入るみたい!」

「はあ!」
和美は構わず入り口から入ろうとする。
和美は自動ドアを押して入る。

「ええ!」

「あら!」
「知らなかったんですか!」
「自動ドアは電源が入ってなければ押して開けられるのを!」
「さあ行きましょう!」

「人に見られるよ!」

「それが何か?」
「許可は取ってあります!」
「不法侵入がしたかったのですか?」

ここにきて広は気付いた。
彼女が無茶苦茶怒っている事に。

彼女はおおらかで寛容だ。
人の失敗を容易く許す事の人間。
広は和美がここまで怒っているのは初めて目にした。

マジで修羅場?
周りに反対されてもっとヤバイ状況も乗り切ってきたのに。
こんな簡単に破局する事ってあるのかな?

だが今更引き返すわけにもいかない。

「じゃ、行こうか!」
広は和美の手を引き。
安全かどうかを確認しつつ目的の場所まで歩を進める。
エスコートじみた真似など広にとっては不慣れなうえ。
いつ床が抜けてもおかしくない廃ホテルでの事。
とても不格好ではたから見ればコントか何かの様に見えただろう。
しかし和美は笑うどころかニコリともしない。

「ここだよ!」
大扉を開けた先にあったのは大きな会場だった。
だいぶ朽ち果ててはいたが真新しい飾りつけも有り。
どんな用途に使う会場なのかはかろうじて見てとれた。

「結婚式場?」

すると広はポケットから指輪を取り出し和美の指にはめる。
「和美好きだ!」
「今まで自分からは口にしなかったけど!」
「怒ってるかもいれないけど!」
「いつか僕と結婚してほしい!」


「呆れた!」
「そんな無茶苦茶なプロポーズがありますか!」
「それにこういう時は!」
「左手の薬指でしょ!」
広は指輪のサイズなど知らなかったので適当に選び。
サイズの合いそうな指に適当にはめたのだった。

和美の表情が徐々に泣き顔にかわっていく。
「私が怒ってるのを知ってて何故このタイミングで?」

「もともと決めてたことだし!」
「タイミングはどうせ下手だから!」


「私は初めて本気で怒りました!」
「嫌われる覚悟で!」
「嫌いにはならなかったの?」

「和美は間違ってないし!」
「間違ってたとしても嫌いになるわけは無い!」


「嬉しい!」
和美の頬を涙がつたわる。

「私、もう嫌われたかもって!」


「悪い事はいけない事だから!」

「違うの!」
「私の中では善悪よりも貴方の優先度の方が上がってしまったから!」
「悪い事に加担してしまってもおかしくない!」
「でも、そうなると!」
「きっと大抵の事はうまくいって!」
「歯止めがきかなくなっちゃうから!」
「嫌われてもしょうがないから!」
「本気で怒ろうと思ったの!」

「うん!」
「これからも僕が間違っていたら本気で怒ってほしい!」
「僕が君を嫌いになる事は絶対に無いから!」
「ところでさっきの返事は?」

「答えないけど!」
「これは絶対に返しません!」
「和美はその指輪を愛おしそうに撫でている。

「で、ここだけど!」
「ここは知る人ぞ知る!」
「許されざる者達の結婚式場なんだ!」

「許されざる?」

「親族に反対された二人が駆け落ち前にひっそり行う!」
「非公式の結婚式のね!」

「その二人も不法侵入は知っている!」
「でも駆け落ちって!」
「家族に捜索願をだされたり!」
「被害届を出されたら!」
「少なくとも片方は犯罪者になっちゃうんだよね!」
「だから不法侵入なんてちっぽけな罪状に!」
「かまってられないんだよ!」
「その二人が今も幸せかどうかはわかんないけどね!」

「いえ!」
「きっと幸せだと思います!」

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