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第3話 「消すな命の灯」

入学、進学から一月経った五月。
桜も散り、慣れや落ち着きや倦怠感に襲われゴールデンウィークや五月病の季節でもある。
フェリス学園にも当然のことながらゴールデンウィークは存在し。
晴華、美奈代、真由美の三人もそれぞれ余暇を楽しんだ。
いや、楽しかったかどうかはともかく休暇だった。
晴華は休暇とはいえ情報収集に忙しく。
真由美は格闘技の修行の為山篭り。
そして美奈代は連日の墓参りだった。
美奈代は生者よりも死者の方が、知りあいが多い・・・
そんなこんなでゴールデンウィーク明けの初登校初日。

三人とも元気に再会を果たした。
そのうちの真由美だけは修行のたまものなのか生傷が絶えなかったが。
幸いにしてされとて、深い傷は無く概ね元気といった様子である。
内面的には解りかねたが(特に美奈代)

「どう?」
「修行の成果は?」
「男子三日会わざれば活目して見よ!」
「って言うしね!」
ひとりだけGW前と様子が違っている真由美に晴華が早速つっこむ。
「男じゃない!」
ショートカットでボーイッシュな真由美は流石に即座に反応した。
「まあまあ!」
「一応男子ですけど能力のある人間は短期間に恐るべき成長を遂げるといあう意味の諺ですから!」
美奈代が意味を教えながら間に入った。
「いやまあ・・・」真由美が口ごもった。
晴華には別に悪気はないし真由美の態度にもにも気分を害していなかったので晴華は話を続けた。
「短髪で活発だと!」
「よく男に間違われたりするのよね?」
人間の目は一部分にしか着目しないもんだから。
だが真由美の反応は鈍い。
晴華と美奈代は二人して真由美の顔を覗き込んだ。
「えと!」真由美はゆっくりと話し始めた。
実はあたしセックスチェック受けたことあるんだ。
「SEX?」
「そんな、私達まだ結婚もしてないのに!」
「そんな!」
「そんな・・・」
顔を真っ赤にしている美奈代をよそに晴華は頷き。
理解したようだった。
今度は晴華が説明を始めた。
「セックスチェック!」
「プロのスポーツ選手やオリンピック選手などに実施される事のある!」
「男女判定検査!」
「確か、口内の粘膜を少し剥がして調べるの!」
「そして染色体を調べれば!」
「染色体のX染色体とY染色体の組み合わせで!」
「女だとXX !」
「男だとXY!」
「と判定されるわけ!」
「どうしてそんなことを?」 
美奈代が質問した。

「男子と女子は能力的に差があるから競技では分けてるのに!」
なんとしても勝とうと女装して参加しようとする男がいるからよ!」
「それにしてもプロやオリンピックでも無いのに惨いわね!」
「真由美!」
「もしその気があるなら好きにやらせてあげるわ!」
「新城財閥が全面的にバックアップするから!」
「オリンピックでもプロでも誰にも文句は言わせないわよ!」
「晴華さん!」
「ありがとう!」
真由美は涙した。
「あれ?」
「目から汗が?」
晴華は何も言わず真由美を抱きしめた。
「ううううううう!」
美奈代は大泣きしていた。

その日以来三人の関係はより強固になったようだった。
無論、晴華と真由美は相変わらずよく喧嘩するかので傍目にはそうは見えなかったとしても・・・
そしていつもの生徒会室。
「そうそう、今度の任務はこれよ!」
晴華は2人に新聞を広げ見せた。
「またもや飛び降り、若者の自殺」
「ネットで知り合い集団自殺」
「自殺か?無気力のはてに部屋で餓死」
そのての記事が軒を連ねていた。
五月病の倦怠感かはたまた新しい環境になじめないのか。
就職難、長引く不景気、日本の暗い将来。
このところテレビ、新聞、あるゆるメディアで自殺の言葉を耳にし、眼にする話題ではあるが。
任務というにはあまりにもとっぴょうしない。
思わず二人は唖然としていた。
「え?」
「命の電話開設?」
「カウンセリングでもしようって言うの?」
真由美は我に変えるとそれだけ口にした。
「そんなことしないわ!」
「死ぬなんてどうせ正常な判断が出来なくなっているんでしょう?」
「自殺の名所をはるのよ!」
「捕まえて!」
「更生させてあげれば!」
「死ぬなんて馬鹿げているわ!」
「パーン」その時大きな音とともに晴華の顔に衝撃が走る。
なんと美奈代が晴華に平手打ちを放ったのだった。
みるみる晴華の頬が赤く染まる。

だが晴華は手で押さえもせずじっと美奈代を見ている。
美奈代はいつもとうって変わって声を荒げていた。
「自ら死ぬ人間は皆!」
「正常な判断が出来ない人ですか?」
「死ぬのは馬鹿者のする事ですか?」
「晴華さんは恵まれていて順風万番な人生しか送って来なかったから!」
「わからないんでしょうね!」
「とてつもない大きな困難に打ちのめされ!」
「もがきながら生きている!」

「もがき苦しんでいる!」
「そしてこの苦しみから解放されたいと願っている!」
「誰だって死にたいと願っている訳ではありません!」
「でも全てを失い生きる気力を失った人間は!」
「楽になりたいと願うのです!」
「その結果導き出した答えが自殺であったなら・・・」
「自分は幸福だからと言って不幸な人間に対して死ぬのは馬鹿馬鹿しいからお止めなさいなんて!」
「そんなことどうして言えましょうか!」

「ふう!」
「ごめんなさい晴華さん、真由美ちゃん!」
「私はこの作戦には参加出来ません!」
「しばらく学校にも来ません!」
「では・・・・」
そういうと美奈代は帰ろうとした。
真由美が止めようとしたので美奈代は腕をまくって見せた。
左手首には無数の傷がある。
自殺を図った者が手首につける通称ためらい傷というやつだった。
真由美はそれを見ると何も言えずただ見送るしかなかった。
晴華は微動だにせず見送った。

とり残された二人。
「あなたはどうするの?」
背を向けたまま晴華が問う。
「解散かしらね?」
「あたしは止めたくない!」
「きっと美奈代は戻ってくる」
「さっきのすごい剣幕だったでしょ?」

晴華は苦笑いしながら脹れた頬を撫でる。
「そうね!」
「あの子はきっと大丈夫ね!」
「では早速情報を集めましょうか?」
「うーん?自殺の名所ねえ!」
「そうだ!」
「ちょっと寄ってくれない?」
「待ちなさいよ!」
晴華は校門脇の駐車場へと駆けていく真由美を追いかけた。
「速く速く!」
既に晴華のバイクの後部に乗った真由美がせかす。
晴華は仕方な
くバイクを走らせた。
「そこ右!」
「そこ左!」
「ここ!」
30分ほど走っただろうか真由美の案内で連れてこられたのはお神社だった。
鳥居をくぐり長い石段を登りかなり高地にある場所だった。
神社の境内とは思えないほど木が鬱蒼と茂り昼尚暗い。
しかしもっと奇妙だったのは建物の様なものが無く
長い間人の来た気配が無いことだった。
真由美はぽつんとそこだけ木がなく平らな大きな石が置いてある場所に正座をし姿勢を正し。
いつになく礼儀正しく「さよさん」「相談があります」と木々以外は何も無い辺りに向かって話し始めた。すると闇の中から一人の少女の姿が浮かび上がる。
よくは見えないが年のころ13か14位の巫女姿の少女だった。
「よかろう、申してみよ!」
真由美はこれまでのいきさつを話し死者の呼ぶ場所。
人が死にたくなる場所を教えて欲しいと頼んだ。
「ふむ!」
少女は頷き語り掛けた。
俗世間とは他界したわしじゃが、お前は気に入っておる。
出来る限り力を貸すとも。
後ろで離れて見ていた晴華は色々聞きたいことが山ほどあったが二人の間に話しかけられずにいた。
「ふむ!」
「そこの娘よ!」
「薄々気づいておろうがわが身はこの世の者では無い!」
「この地も昔は神社だったのだが今は誰も立ち入る者とてない!」
「わしもこの地で眠りについていたのだが!」
「その娘がこの地で修行をしておったことがあってな!」
「人と会うのも珍しいので興味もあり目ざめることにしたのじゃ!」
「わしの正体を知ればこの娘もすぐに逃げ出すと思って姿を現してやったのだか!」
「この娘はわしを恐れなかったのでな!」
「またこの世に関わるのも悪くないと思っておるのじゃ!」
「まあ余計な話を良いな!」
「死を呼ぶ場所と言っても人気が無くて!」
「死角が多く死にやすい地形や器具がある場所を今の世の者は好むからな!」
「だがその場所で死んだものの霊が霊を呼び人を死に誘う場所はいくつかあるが!」
「関係無しに死ぬものもおるのでな!」
「今日はかの地の霊が騒いでおるな!」
「今日の深夜二時にこの地に行くが良い!」
「どこからともなく古ぼけた地図を出し場所を指し示す!」
晴華は身を乗り出し地図の形と地点を記憶した。
「そうとう古い地図ね、ちょっと調べてみないといけないわね!」
「真由美、私はこれから今の地図の位置で調べてくるからゆっくりしててね!」
そう言うと早速バイクを飛ばして自宅へ向かう晴華。
古い事柄については未だにインターネットより書物で調べるほうが確実である。
晴華の家には大きな書庫がありありとあらゆる書物があった。
大英図書館並? 
いやそれどころではない。
そこには全世界のありとあらゆる書物が揃っている。
貸し出し禁止や一般には見ることの出来ない希少本でさえここには難なく置いてある。
正式に入手が不可能な物については無論レプリカだが。
合法違法を問わずあらゆる手段を使い持ち出しレプリカを作ってからまたあらゆる手段を使い戻した書物も多い。

「ふう、いつ来てもカビ臭いわね!」
その書庫は地下の建物にあったいくつもの部屋に年代別、国別に分かれている。
「そんなに古くないからこのへんかな?」
この書庫を熟知している晴華にはたやすい探し物であった。
しかし、真由美とさよさんの久しぶりの再会に気を使いしばし時間を潰してから戻ることにした。

その頃。
さよと真由美は話し込んでいた。
「確かに死にたいと心底願うものもおるが何かの力に引きずられ!」
「死に急ぐものもおる、自分では死にたがる気持ちを止められず止めてくれるものを願っておる物もる!」「わしはここから動くことは出来んが!」
「おぬしは死ぬでないぞ!」
「死を願うものが幾人も集まれば気の弱いものはもちろん!」
「お主やあの娘の様な気の強いものではひっぱられかねん!」
「よいな!」
「けっして諦めるでないぞ!」
「諦めさえしなければ!」
「わしのように死して尚この世にとどまることもできるかもしれん!」
「しかし、わしの様に成仏することもかなわずたった一人で!」
「永遠と存在していかねばならぬかもしれん!」
「生きるのじゃぞ、お主も、あの娘も、そしてまだ見ぬもう一人の娘と共にな!」
「はい!」
「もちろんです!」
「でも!」
「さよさんは一人ではありません!」
「必ずまた三人で会いに来ます!」
「どうか、さよさんもご無事で」
そんなことを話していたら晴華がやってきた。
いつの間にか私服に着替えてきている。
「行くわよ、暗くなってから動くと怪しまれるから!」
「今から行って潜んでおくのよ!」
「でも、体を動かすのが撮り得のあなたが!」
「長時間じっとしてられるかそれが心配!」
「そうそう、それと歩いていくから!」
晴華が伝えた場所は1時間はゆうにかかるところであったが大型バイクは目立つので仕方ない。
「それとあなたの家まで行くから私服に着換えて来てね!」
「制服は目立つのよ!」
「では!」
「さよさん、さようなら!」

二人はバイクで真由美の家に行き晴華はその家にバイクを預け二人で目的地へと向かった。
街中で何度もナンパの声がかかったが角が立つのもお構い無しに。
冷たくあしらう晴華を制して真由美がやんわりと断るというパターンを何度か繰り返しやがて目的地に着いた。
「ここがそう?」
立ち並ぶビル郡の群れの中ひときわ高い高層ビル。
ざっと20階以上はあろうか、バブル崩壊後持ち主が倒産しそのまま残されている。
ぼろぼろで所々鉄骨が見えていたり錆びや壁がはげていたりひどい有様だった。
「そうよ!」
「行くわよ!」
晴華は気が引ける真由美を尻目に早速中へ入ろうとする。
案の定年数経過の為鍵は鍵として機能しておらずすんなりと二人を中へ迎え入れた。
「うう!」
人の管理を離れ数年が経過しているため快適な環境であろうはずがない。
臭気はそれほど感じなかったが嫌な湿気が二人を襲った。
「まあこれくらいなら大丈夫ですわ!」
真由美は自分はともかく晴華の態度には驚いた。
綺麗な屋敷で育ったものには驚嘆すべき廃墟のはずである。
それにもかかわらず晴華はずんずん進んでいく。
「あっ、待ってよ晴華!」
もちろん電気は止まっているので2人は手持ちの懐中電灯を翳し廃ビルの中を進んでいった。
2人は屋上まで登ってきた。
屋上ももちろん鍵がかかってない。
屋上はフェンスが崩れ落ち飛び降りるのには格好の場所に見えた。
周りにはこのビルより高いビルは立っていない。
いや立っていたとしてもほぼ廃ビルなのだが・・・
晴華は辺りを見回すと給水塔に目をやった
「あの給水タンクに登って潜みましょう!」
「ええ?」
「見つからないかな?」
晴華は首を振って。
「上を向いて歩こうとかいう歌があるでしょ?」
「自殺しようなんて人間は下しか見てないのよ!」
「上になにがあろうと気づくはず無いわ!」
晴華は言い切った。
「また、そんなこと言って!」
「美奈代にぶたれるよ?」
「かもね?」
二人はそんな会話を交わしながら給水塔に潜み刻を待った。
そして刻が満ちた。
数人の気配が近づいてくる。
「複数なの?」
「弱い者同士が集まって一緒にというパターンね!」
二人は気配を殺し入扉を目つめ連中を待った。
「ギィ」そして開かれた扉の向こうから数人の男女が入ってくる。
サラリーマン風、OL風、学生と色々居たが二人を驚愕させたのはその中に美奈代が居たことである。
しかもどうみても一員に溶け込んでいたのである。
「真由美、扉側を死守して!」
「私はフェンス側を死守するわ!」
相手は複数でしかも真由美まで居るとあっては事体は一刻を争う。
晴華は咄嗟にそれだけ決断すると真由美も理解した。
全員入ってきたのを確認すると真由美は貯水槽から飛び降り扉の前に立ちはだかった。
派手なアクションで真由美が全員を引きつけているうちに晴華はさっと貯水槽を降りフェンス側に付いた。
「あなた達こんな夜中になんのつもり?」
「それに美奈代これはどういうこと?」
美奈代は開き直った様子で。
「ふっ、私たちは生きることに絶望して死を願う者の集まりです!」
「多分解っているとは思いますが一人で死ぬ勇気の無い者が集まって自殺をしにきました!」
「それは本当に勇気なの?」
「生きることが勇気では無いの?」
「ねえ美奈代!」

「晴華さん!」
「肯定にしろ否定にしろ決断し行動することは勇気です!」
「別に晴華さんと問答するつもりもありません!」
「説得は無理です!」
「私たちは考えを変えるつもりはありませんから!」
自殺志願者? 
一同は皆虚ろな目をして美奈代に頷いている。
「飛び降りに巻き込まれて死にたくなければかわしてください!」
美奈代を中心として数人の男女は手を繋ぎ横一列になりじりじりとフェンス側に迫ってきた。
「晴華?」
真由美が目配せをした。
「そうね、洗脳か薬物投与かは解らないけど!」
「この人達は正常ではなさそうね、美奈代以外の半分を頼むわ!」
真由美は扉の死守を放棄し美奈代以外の半分に次々と手刀を見舞って行った。
晴華も美奈代以外の半分に次々と蹴りを放っていく。
志願者一同はよけるでもなくまともに攻撃をくらうと次々と倒れていった。
手を握ったまま。
「みんな・・・」
美奈代は怒りを露にした。
「どうしてそうまでして邪魔するんですか?」
「本人が本人の意思で死にたいと願うなら!」
「そっとしておいてくれてもいいじゃないですか!」
「そんなに言うなら・・・」
「私に勝ったら好きにしてもいいよ!」
「そんな、私は喧嘩は・・・」
「それに・・・」
「たいして鍛えてない私達たいして力に違いは無いはずよ!」
「美奈代の死にたいと願う力が強ければ私にも勝てるはず!」
「私の美奈代を死なせたくないという想いが強ければ私が勝つ!」
「どっちの想いが強いか決着を付けましょう!」
言いながら晴華は倒れた人々の手をほどいていく。
すかさず真由美が一人づつ運んでいき入り口付近に寝かせておく。
そして二人の闘いが火蓋を切って落とされた。
「行くわよ美奈代!」
晴華は初っ端からハイペースで攻めていく。
パンチ連打、足払い。
とび蹴り、次から次へと攻撃を放つが美奈代は一向にダメージを受けない。
それどころかコンクリの破片に足をとられ体制を崩し、よろけた美奈代にカウンターをくらい。
何度か攻撃をくらい地面に叩きつけられ傷だらけなのは晴華のほうだった。
「もう止めてください!」
「私を傷つけることは誰にも出来ません!」
「だから自分から死ぬしか

「はあはあ!」
晴華は傷こそたいしたことはなかったが動きづめで息があがり肩で息をしていた。
晴華は仕方なく次の攻撃がラストチャンスとばかりに息を整え最後にもう一発だけ大技を放った。
しかしそれも美奈代がよろけかわされてしまう。
が、美奈代は衝撃につつまれた。
晴華はその効果を狙って放ったわけではないが攻撃が当たらなくても衝撃は確実に美奈代は捕らえていたのであった。
そして美奈代はそのショックで足を滑らせフェンス外へ出てしまった。
「危ない!」
晴華が美奈の手を取ると二人はビル外へ宙ぶらりんになってしまった。
「晴華さん手を離して下さい!」
「さっき足を滑らせたのはわざとです!」
「そうでもなければ私が危険に会うはずがありません!」
「このままでは二人とも落ちてしまいます!」
「何を言ってるのよ場外で私の勝ちでしょ!」
「ルールは守りなさい!」
「生きるのよ!」
しかしそうは言っても二人分の体重が片手にかかっている。
晴華の顔はみるみる青ざめてくる。
「でも・・」
「もうだめ・・・」
晴華の手が震えだし手が離れそうなったその刹那。

「どうりゃああああ!」
二人は中に舞っていた。
「ドスーン!」
「いたた、真由美もうちょっと丁寧にやってよね!」
「それにもっと早くね!」
「あはは、ごめーん!」
「力を貯める時間が要ったのよ!」
真由美が二人ごと引き上げ二人とも助かったのである。

「うう・・・」
その衝撃でサラリーマン風の男が目を覚まし次々と目を覚ました。
全員先程までとはうって変わって焦点の定まった目をしている
全員に事情を聞いてみたが自殺する気など無かったといっている。
サラリーマン風の男。
「ヤケ酒飲んで酒場出てからは記憶が無い!」
OL風の女。
「彼氏に振られたので町の占い師に視てもらった後は覚えてない!」
学生達。
「ネットで自殺ネットとかいうHPを見ていたらいつの間にか・・・」
晴華が全員の腕を調べた結果、薬物を注射した跡は無かった。
「マインドコントロールとかそういうのかもね?」
「あなた達本当に死ぬ気は無いの?」
「死にたいんならこの娘が一緒に死んでくれるって!」
そう言い晴華は美奈代を一同の前に押し出した。
「いや、まだ死にたくねー!」
「死にたくないわ!」
自殺志願者と思しき連中は逃げる様に帰っていった
なんのことはない。
くよくよした隙を狙われ本当は死ぬ気もなかったのにその気にされてしまった弱い人たちだった。
「人間なんだから落ち込むこともあるでしょうね!」
「悩むことも挫ける事も!」
「でもそんな隙をついて自殺傍受を企むなんてひどい連中も居るものね!」
晴華は美奈代を睨みつける。
「わ!」
「私そんなつもりじゃ!」
「本当に一緒に死んでくれる仲間がほしかっただけで・・・」
美奈代は泣き出してしまった。
「冗談よ!」
「あなたはそんな娘じゃないわ!」
晴華は美奈代をなぐさめる様に自分の事を語り始めた。
「私には兄が居たわ!」「
確かに私たちの家は経済的には恵まれてるわ、いわゆるお金持ちね!」
「でも、上流階級には上流階級なりのつらさがあるのよ!」
「なんでもそつなくこなし、周りの期待に応え続ける!」
「私は女だからそれほどでもなかったわ!」
「でも兄さんは・・・・」
「気が弱く優しくて要領の悪い人間だったわ!」
「そしてプレッシャーに耐えられなくなって自ら命を絶ったわ・・・」
「私は兄になにもしてあげられなかった!」
「だからあなたもそうだと解ったとき!」
「絶対死なせないと思ったわ!」
「ま、あくまで自己満足かもね!」

「ごめんなさい!」
「そうとも知らず私ぶったりして!」
「それにひどい事言ったりして!」
「私もぶってください!」
美奈代は頬を突き出したがもちろん晴華はそんなことはしなかった。
「とにかく勝負は私の勝ちね、私に勝ったらいつでも一緒に死んであげるから!」
「たった今からいつもどうりに協力してよね?」
「はい!」
美奈代がそう答えると傍らで静かに聞いていた真由美がふたりを抱きしめた。
「良かった良かった本当に・・・」
真由美も涙していた。
しかし晴華は涙を見せない。
上流階級の厳しい規律上人前で感情の変化は見せないように教育されてきたのであろう。
そして三人はまたトリオで行動することになった。

「さあ、こんなとこさっさとおさらばしましょう」
晴華はなにやら携帯電話で話しをしている、どうやら向かえを呼んでいるようだ。
しばらくしてからお屋敷から迎えの車が来た。
「みんな家まで送るわ!」
「真由美バイクは置いといてね!」
真由美は美奈代に話しかけた。
「私もあなたには話があるから今日は泊まってかない?」
「うん!」
美奈代は怒られても当然のつもりで説教も聞かなくてはならないと了承した。
「じゃ!」
「そういう事で!」
真由美は晴華と運転手に愛想良く挨拶をすまし。
美奈代と一緒に真由美の家の前で車を降りた。
「こんな夜分に家の人は?」
「しっ、運動疲れで寝た体にしてあるから!」
そういうと靴を持って外から二階の自室の窓にするすると登っていった。
無論窓に鍵はかかってない。
真由美はロープを降ろすと美奈代に目配せをした。
美奈代は靴を脱ぎロープを登ろうとするがなかなか旨くのぼせれない。
すると上から丸めた紙が飛んできた。
広げてみると。
「引き上げてあげるからロープを体に巻いて窓の擦れ擦れの位置に立ってぶつからないように姿勢を真っ直ぐにして」と書いてある。
美奈代はそのとうりにして誰にも気づかれること無く部屋に入った。
「ようこそ!」「あっ、それと自分がトレーニングとかで多少ドタバタしてもいい様に!」
「多少は防音効いてるから!」
「どならなければ多少大きな声出しても大丈夫だと思うから!」
「まあくつろいで!」
鉄アレイやエキスパンダー等簡単なトレーニング器具がちらばっている。
「真由美ちゃん話しって?」
「まあ、晴華はあんなんだけど」「かなり心配しててあんまり寝てないみたいだったし」
「もしかして真由美ちゃんも?」
「まあ、あたしも少しはね!」
真由美は照れくさそうに言う。
「あと興味本位なんだけど色々聞きたかったから!」
「結局今回の事件はなんだったの?」
「どうやってあの人達と知り合ったの?」
「美奈代だけ正常だったんだよね?」
「私はあの人達の死にたがる思いを感じてあの人達に惹かれたというか!」
「なんとはなしに集まってました!」
「生きてる人だけ?」
「え?」
「どういうこと?」
なにやら話が変な方向に行ってるようなので美奈代は訝しげな顔をした。
真由美はかまわず、「死んだ人の魂に惹かれて死の道へと引っ張られたりとかは無いの?」と
「わたし、霊感とかは無いんです!」
「そういうのは解りません!」
美奈代は霊感は無いらしい。
「とりあえず変な話はここまで!」
「また明日から晴華がなんかしらのトラブルを持ってくると思うから!」
「がんばらなくっちゃいけないわね!」
「私もそこそこの腕前に成長したのよ!」
「格闘大会とかにも出てみたいんだけどほとんど男しか参加出来ないのよね・・・」
「ええ?」
「男の人と闘うんですか?」
話題が変わったのでホッとしたのか美奈代は饒舌になる。
「て、前にも闘ったじゃーん!」
「そ、そう言えば!」
二人はこんなやり取りを繰り返しながらいつしか眠りに付いた。
その頃・・・既に晴華は眠りについていたがふと目を覚ました。
「誠一にいさん!」
「私は兄さんの分まで生きていきます!」
「見守っていてください!」
「そして私に力を与えてください!」
「さて!」
「次はどんな事件を解決しようかしら!」
ふと窓に目をやると夜はもうあけ始めていた
「今日もがんばりましょう・・・」







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