追放とその後
なんだか最近、パーティ内の雰囲気が悪いと思っていた。飯の時も、以前はオレの作った料理をベタ褒めしていた3人が、妙に静かだ。おかわりもしないなんて。だからこのところ、きちんと人数分だけ作るようになった。
3人だけで話していることも多いと気付いていた。でも、激しくなる戦闘の中で、魔王討伐の責任を負うパーティとしては、色々と詰めなければいけないことは多いだろうと思っていた。
能力値の高くないオレだからこそ、そういった話し合いに参加せずに、他のことに気を回せるのだと、オレなりの役割を認識して役立っていたつもりだった。
「なあ…お前に言っておかなきゃいけないことがある」
ある日、戦闘後に3人の手当をすませたところで、アレクが口を開いた。
「どうしたんだよ?」
何かを察したように、3人が立ち上がった。冷たい瞳に、思わずオレも立ち上がる。
「何だってんだ…?」
「フェリオ。悪いが、パーティを抜けてくれ。これは、皆で話し合った結果だ」
突然の通告に、耳を疑った。
「……なに?」
「お前の実力ではもうついて来られない。お前を守って戦うのはもうたくさんだ!もう器用なだけでは生きていけないレベルに来てるんだよ!!」
吐き捨てるように言われた言葉。
「ここならミラルの町まで近いわ…最後の慈悲よ。送ってなんて…言わないわよね?」
ケイトの言葉が冷たく響く。呆然と3人の顔を眺めても、その無表情に変化はなかった。
「オレが…守られていたってのかよ…?オレが器用なのは知ってるだろ?今回の戦闘だって…」
「お前に傷が少ないのは、俺達が前でお前を守っているからだ!!」
そんなはずはない!オレはいつだって…そう思いはするものの、明らかに実力が上の者が言うことだ。オレが…気付いていなかったのか…?
「だからね!もう邪魔になってるの!出て行ってほしいの!!」
言いたいだけ言って、くるりと背中を向けたカレア。そうかよ、最近雰囲気が悪かったのは、オレのせいかよ。
「いいのかよ…お前ら、飯、作れるのかよ。荷物持ちすらいなくなるんだぞ?!」
「分かってる。旅の終わりはもうすぐだ。お前じゃなくても飯は作れるし、保存食でいい。お前がいることを思えば、荷物くらい分担すればいい。」
「だからもう、行ってちょうだい…休みたいの。」
ケイトの疲れた顔に、オレは本当に邪魔な存在だったのかと、歯を食いしばる。
「そうかよ……じゃあな。」
「ああ……。」
オレは、たったそれだけのやりとりで、小さな道具袋ひとつ持って、勇者パーティを離れることになった。大丈夫、オレは能力こそ低いけど、したたかさは人一倍だ。こんな所でのたれ死んだりしない。
「……行った、か。」
どのくらい無言で立ち尽くしていたのだろう。アレクがどさりと座り込んで俯いた。
「カレア、泣かないって約束じゃない…いきなり泣くんだもの…。」
「だって…だって…!!ケ、ケイトだって泣いてるじゃない!」
「もう、いいのよ…だって、もう…いなくなっちゃったんだもの。」
わあわあと泣き出した二人を見て、アレクが顔を歪める。本当に、本当にこれで良かったのだろうか。脳裏に過ぎるのは、あの明るい笑顔。疲れ切った俺達を、いつも励まし、助けてくれる、強く優しい声。こんな風に辛い時、必ず側に来てくれるはずなのに。
大好きだったよ、ごめん、こんな最後で。
にじむ視界に、どれほど失ったものが大きいか思い知らされる。彼はこんな時、絶対に肩を抱えて言うんだ。その片手に湯気のたつお椀を差し出して。
「…泣き虫アレク、これでも食え。元気出せ?」
ずしりと肩にかかった重みと、鼻先をかすめたいい香り。
がばりと顔を上げた拍子に、ぱたたっと涙が地面へ滴った。
突如俺達の輪の中に現われた男に、ケイトとカレアも呆然と目を見開いた。
「お……お前……なんで…。」
「勇者サマともあろうものが、オレ程度の隠蔽に気付かないなんてな!どうしちゃったんだよ?ほら、泣くな、食え。」
押しつけられた椀を見つめて、ケイトとカレアは子どものように泣いた。
「なんでぇ……だって…あんなこと言ったのに…」
「ごめんなさいぃ…だって…だって…フェリオに…じんでほじくながったからぁ!!」
フェリオは、ふう、と息を吐いた。
「そんなこったろうと思ったぜ。お前らがオレの心配するなんて10年早いっての。」
「でも…でもぉ!フェリオ…このあたりの魔物じゃ一撃で…!!」
「一撃も当たらなければいいんだよ!」
「おま…お前ぇ…俺たちが…俺達がどんな思いでアレをやったと思ってんだ…全部台無しにしやがって~!」
喜びと、照れと、後悔と…複雑に絡まった感情でぼろぼろ泣いたアレクが、フェリオの胸ぐらを掴んだ。
「フン、オレを出し抜くには不器用すぎたな!ざまぁねえな、勇者サン!」
フェリオはにやっと笑うと、ぽんぽんとアレクの頭を撫でた。