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校外学習と過去の因縁⑤




コウの部屋


―コンコン。
―ガチャ。
「また来てやったぜ」
「御子紫ぁ!」
ドアをノックするとそこからは優が現れ、御子紫が笑顔でそう口を開くとまたもや彼は抱き着いてきた。
「おー、待っていてくれたのか?」
そんな優に笑顔でそう返すと、お構いなしに部屋の中へと入っていく。
「いらっしゃい」
「課題はもう終わったか?」
ベッドに腰を下ろしたまま優しく迎えてくれたコウに、二人に向かってそう尋ねた。
「今終わったところだよ。 だから今から何をしようか、考えていたところさ」
「そっか。 なら丁度よかったな」
そこでコウは、心配そうな表情をして突然こう聞いてくる。
「てより、御子紫は他の奴らは大丈夫なのか?」
「あ、そうだよ! 他の班のみんなは?」
その言葉を聞いて優もそう乗っかると、御子紫は彼のことを苦笑するような目で見据えながらこう返した。
「じゃあ、日向でも呼んでこようか?」
「それはッ・・・! ・・・嫌だ」
「ま、日向とは班が違うけどなー。 ははッ」
そう言って御子紫は、子供っぽく無邪気に笑う。
「なッ、からかったなぁ!」
「騙された方が悪い。 てか、日向とは違う班っていうことを忘れていた優が悪い」
いたずらっぽい笑顔でそう返し優と言い合っていると、さり気なくコウが口を挟んできた。

「いや、そうじゃなくてさ。 椎野たちは大丈夫なのかなって」

「ん? 椎野?」
「御子紫は、椎野や北野とよく一緒に行動しているだろ。 だから御子紫を借りっぱなしじゃ、何か申し訳ないなって」
「あー・・・。 そっか」
その言葉を聞いて、久々に椎野たちを気にかける。 その様子を見て、コウはその場に立ち上がった。
「じゃあ折角だから、椎野たちの部屋にでも行こうか。 椎野と北野はきっと同じ部屋だろ」
「行く!」
コウの提案に優が即賛成すると、3人は部屋を出て椎野と北野のいる部屋へと歩き出す。 組ごとに階が違うため、移動するのは結構かかった。
そんな時間を潰そうと、御子紫は二人にさり気なく尋ねかける。
「なぁ、二人は明日どこへ行くんだー?」
「行く場所は女子が決めたから、俺たちはどこへ行くのか知らされていないし分からないな」
「あぁ・・・。 俺も」
コウの答えに御子紫も苦笑してそう返すと、優が再び陽気な声を上げてきた。
「男子はこういう行事、何でも女子に任せるよねー。 まぁ『行きたい場所はある?』とは聞かれたけど、男子はそこで楽しめたらどこでもいいしー!」
「あるあるだな」

くだらない学校あるあるを話しているとあっという間に椎野たちの部屋に着き、御子紫が代表してノックをする。
「よ、北野」
「あ・・・。 御子紫」
そう言って御子紫は、またもや許可を得ずに部屋の中へと入っていった。 その後を、北野とコウたちは付いていく。
「椎野ー。 ・・・あれ、いねぇのか。 椎野は?」
部屋の中を見渡すと椎野がいないことに気付き、振り返って北野にそう尋ねた。
「・・・知らない」
俯きながら小さな声でそう呟かれると、御子紫は彼に違和感を憶える。
「椎野と何かあったのか?」
「・・・喧嘩した」
「ッ・・・。 まぁ・・・座れ」
言いにくそうな表情で北野がそう答えると、御子紫は少し驚いた表情を見せるがすぐに気持ちを切り替え、彼をベッドの上に座るよう促した。
北野の隣にはコウが腰を下ろし、北野の目の前には御子紫が腰を下ろす。 そして御子紫の隣に、優も腰を下ろした。
「・・・で、原因は?」
自分の意見を主張しそうな未来や自分以外はあまり喧嘩をしないと思っていた御子紫は、複雑な表情をしたまま早速用件を切り出す。
そして北野は少しの間黙り込んだ後、ゆっくりと今日の出来事を語り始めた。
「・・・今日、屋台がある大きな神社へ行ったでしょ。 その時椎野とははぐれちゃったんだけど、最後にはちゃんと合流できて。 
 そしてその時、椎野が『これをさっき屋台で見つけて買ったんだ』って言って、ストラップを俺に手渡して見せてくれたんだ」
「うん」
ここにいる彼らは、真剣な表情でその話に耳を傾ける。

「それで見た後、俺は椎野に返した。 だけど・・・ホテルに着いた後、そのストラップがなくなっていて。 
 この部屋はちゃんと捜したし、受付にも聞いたけど届いてはいなかった。 そしたら椎野は、急に怒り出して・・・。 
 『北野がストラップを盗んだんだろ!』って言い出すから『俺は盗っていない』っていう口論をしばらくしたんだけど、椎野は信じてはくれなくて。
 それで、そのまま部屋を出ていった・・・」

「・・・そうか」
今の話を聞いて、一方的に北野のせいにする椎野も悪いが、本当に北野がストラップを盗んでいないのかも分からないため、ここにいる彼らは返事に困り口を噤んでしまう。
話を聞いてもどちらが悪いのか判断ができないみんなは黙り込んでしまうが、北野はもう一度、真剣な表情をして自分の思いを主張した。
「でも俺は、椎野にちゃんと返した! だから・・・俺のせいじゃ、ない」
「「「・・・」」」
その力強い主張を聞いて――――3人はまたもや、黙り込む。


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