校外学習と過去の因縁④
夜 ホテル 未来の部屋
今日は不良の高校生に出会った以外は特に事件はなく、今日という校外学習一日目は終わりを迎えようとしていた。 皆は無事ホテルへ着き、それぞれ友達との時間を楽しんでいる。
そこで同じ部屋である未来、悠斗、夜月は、これからの自由な時間を使って遊ぼうとしていた。
「二人共! 今日はこの時間が暇になると思って、予めトランプを用意していたんだ! だから一緒にやろうぜ!」
そう言って未来は、バッグから取り出したトランプを仁王立ちしながら前へ突き出し、仲間に堂々と見せる。
「いいね、やろう!」
未来の案に賛成した悠斗は、3人が集まれるよう夜月のいるベッドの方へ移動しようとした。 その時、夜月が二人に向かって口を開く。
「トランプをする前に、先に今日の分の課題を終わらせておこうぜ」
「あ、そっか。 楽しい時間は後でとっておいた方がいいもんね」
そう言って悠斗は踵を返し、自分のベッドへ戻った。 未来はそんな二人を見て、空気を読み渋々自分も課題をやろうとする。
―コンコン。
「悠斗、出て」
始めようとすると突然ノックが聞こえ、ドアから一番遠い夜月がドアから一番近い悠斗にそう頼んだ。 彼は素直に言うことを聞き、扉へと向かう。
「よっ。 遊びに来てやったぜ」
「伊達!」
開けるとそこに立っていたのは同じクラスの伊達であり、彼が来たことにより嬉しく思った悠斗は笑顔で名を呼んだ。
「伊達は課題終わったかー?」
伊達を中へ通すと、課題をやりながら夜月がそう尋ねる。
「あぁ。 ついさっき終わったから、遊びに来たんだ」
「もう終わらせたなんて流石だな。 これが終わったらトランプをするみたいだから、それまで待っていてくれるか」
「もちろんだよ」
そう言って、3人の邪魔にならないよう部屋に備え付けられている椅子にそっと腰を下ろし、待機した。
そんな彼らが静かに課題に集中する中――――突然この部屋に、未来の怒鳴り声が響き渡る。
「おい、誰だよこれ書いたの!」
そう言って未来は、しおりに既に書かれている“今日一日の感想”のページを開き、悠斗の目の前に突き付けた。
「これをやったの悠斗だろ」
「違うよ」
「未来が寝ぼけて、朝バスん中でやっていたぞ」
悠斗が冷静な口調でそう返すと、夜月は課題に目を通しながら淡々とした口調でそう付け加える。 だがそんな彼らに対し、未来は反抗し続けた。
「そんなわけねぇ! 俺は記憶にないぞ! それにこんなに字が汚いし! これは俺の字じゃねぇ!」
「俺の字が汚いとでもいうのかよ・・・」
今もなおしおりを突き付けられている悠斗は、呆れ口調でそう呟く。
「それに、未来は寝ぼけていたから憶えていないだけだ」
「さっきから寝ぼけた寝ぼけたうるさいな! とにかく俺は、今日課題はやってねぇ! つか朝なら俺がトイレへ行く時、悠斗に俺のバッグを渡しただろ」
「だから俺は未来の課題をやっていない。 それにバッグを受け取ったからって、面倒な課題をやるわけがないだろ」
「ッ、もういい! 悠斗なんて知らねぇ!」
未来はそう言ってしおりをベッドに叩き付け、そのまま部屋から出ていってしまった。 そしてこの場には気まずい沈黙が訪れるが、夜月と悠斗は構わずに淡々と課題を進めていく。
「え、ちょ・・・。 追いかけなくていいのか?」
その二人を見て違和感を感じた伊達は、悠斗に向かって恐る恐るそう口を開いた。
「大丈夫。 すぐに戻ってくるさ」
だが彼はこちらの方へは目を向けず、課題を進めながらそう答える。 そんな冷たい態度を見て、今度は夜月に助けを求めた。
「・・・夜月」
「大丈夫だって」
「・・・」
だが彼も同様、課題に集中しておりそのようなことを適当に口にする。 そんな二人の返事を聞いて少し呆れた伊達は、もう何も言うことができず仕方なく口を噤んだ。
そして、未来が部屋を出て行ってから一分後――――
―ガチャ。
再びドアが開く音が聞こえ、そこからは未来が姿を現した。
「早ッ!」
予想もしていなかった戻ってくる早さに、伊達は驚きのあまり小さな声でそう突っ込みを入れる。
そして未来は複雑そうな面持ちをしながら悠斗の目の前に立ち、そっと口を開いた。
「悠斗。 ・・・悪い、言い過ぎた」
「いいよ」
「こっちも早ッ!」
未来が謝ったことに対して悠斗はすぐに許すと、仲直りする時間も一瞬だったため伊達は再び驚きの声を上げる。
「・・・でも、本当にこれを書いた記憶はないんだ。 だから悠斗や夜月が言った通り、俺は寝ぼけていたのかもな。 それに・・・悠斗は、嘘を言わねぇし」
悠斗のことを気まずそうにチラチラと見ながらそう言うと、彼は未来に向かって優しく微笑んだ。 それを見て、慌てて視線をそらし声を張り上げる。
「あー、何か喉が渇いた! 悠斗、何か飲み物を買いに行くぞ」
「うん」
そう言って未来は、バッグから財布を取り出し悠斗と共に部屋を出て行った。 そんな彼らの後ろ姿を最後まで見送った後、伊達は二人を羨ましそうに見つめながら小さく呟く。
「二人は、やっぱり仲がいいよな。 未来は悠斗に素直過ぎる」
その言葉を聞いた夜月は、なおも課題を進めながら小さな声で返事をした。
「まぁ・・・。 すぐに許してしまう悠斗も、どうかと思うけどな」
そう言うも夜月は一度課題をする手を休め、二人が出ていったドアを見つめて小さく微笑んだ。