第18話 ジャミスの野望
その頃、外ではアーマーやハマたちが警備のシーフたちに見つかり、追いかけられていた。
「ちっきしょ~! 琴ちゃんを見つけられないままになるなんて……」
「しょうがないばってん一旦この場所から離れるっちゃ! 宿屋で合流ばい!」
アーマーがみんなに言い、各々散開していった。
それからしばらくすると追っ手を撒いてみんなが宿屋に戻りはじめ合流した。
「アーマー!」
「みんな、無事に撒けたっちゃね」
「くそ。琴ちゃんを見つけられなかった」
「大丈夫よきっと……」
「そおったい、琴はそう簡単に捕まる様なヘマはやらかさん」
深琴を探し出せなかったハマの顔つきは暗く、ミワンとアーマーがそんな彼を慰めていた。
「しかしラスグーンの街の中にシーフの街があるなんて……思いもしませんでしたよ」
ディープが思わず言う。それは予想外の事態で侵入方法や捜索の練り直しをしなければいけなくなった一行は、場所を酒場に移す、そこはまだ夕方だと言うのに大勢の客で賑わっていた。
店の奥に円卓が一席空いていたので、そこに腰を下ろし話始めた。
「あのシーフの街にどうやってまた入り込んで、琴ちゃんを見つけるかだけど……誰か良い案はないかな?」
ハマがみんなに向けて話し出す。まずはヒロサスがオーソドックスな提案をしてきた。
「もう一回同じ方法で忍び込むのはダメですよね?」
「それは難しいっちゃんね~……俺たちが見つかってしまった事と、中での騒ぎがあったことが警戒を強めている可能性が高いけんね……それに次の侵入もこのメンバーだけやと人数不足っちゃんね」
アーマーが冷静に答えるとその言葉で思い出したかのように、ディープがクラン申請予定の人を思い出し、それにハマが反応した。
「あ~!! 忘れてた~クラメンになりたいって人たちどうしよう!」
「あ~すっかり俺も忘れてた……せっかく二人も居たのに」
ハマはみんなにその二人の内容を説明した。
「その二人が今どこに居るのかわからないのか?」
ピロが聞いたが、それに答えられなかったハマたちはお粗末な対応をしていたことがバレてしまった。
「いや……何も聞かずに離れてしまって」
「できれば、その二人も次の作戦に参加してもらえると助かるっちゃね…」
そんな対応をした事を気に留めず、アーマーは前向きな意見で立て直そうとしていた。
「え? 何か作戦があるのアーマー?」
アーマーがみんなに語ったその作戦は、単純なものだったが確実性があった。
ハマも作戦の内容を聞いて自信をもってみんなに言った。
「それなら絶対琴ちゃんを見つけ出せるよ!」
しかしアーマーは現時点での問題は人数だと付け加えた。
「こちらの人数もそれなりにいないと出来んし、もう少し人数が必要っちゃね」
アーマーの話を聞いてミワンがハマに、はっぱをかける。
「その二人を探し出さないといけないわね!」
ハマも頷きながら力強く言った。
「わかった! 必ずその二人は探して協力してもらう」
「それにまだクランに入りたいって人もいるかも知れませんし」
「探してみましょう!」
ヒロサスとディープが明るい面持ちで言うと、その場の雰囲気は良くなっていた。
「ピロは桔梗の様子を見て来てほしいっちゃが、どのくらいかかる?」
「桔梗がこっちに向かって来てれば、三、四日あれば戻って来られるだろう」
「ミワンはシーフの街の様子を伺っておいてほしいっちゃ 何か動きがあれば知らせてくれ」
「わかったわ」
「四日後に、集合ばい!それまで各自の行動してくれ!頼むっちゃね!」
そう言うとみんなは一時解散し、目的の行動に向かうのであった。
ジャミスはマスターシーフが不在状態なのを利用して、独断で宝物庫で起った騒ぎがレバンナの仕業でありその結果、多大な損害がこのシーフギルド内に興ったとでっち上げて、レバンナとマスターシーフを処断する方法を画策していた。そして報告してきたシーフに問いかけた。
「では宝物庫で起こった光は異常があって起きた訳ではないのですね?」
「はい、あの後に宝物庫の中を調べましたが、荒らされたり失くなっている物はありませんでした。」
そのシーフの答えを聞いたジャミスはあごに手をあてて考える。
「それは困りましたね……」
「は?」
「それではレバンナの処分が出来なくなってしまいます。」
「はあ?」
「ではお前が宝物庫からシーフの誓約書を盗って隠しておきなさい」
ジャミスはこの件を利用してラスグーンのマスターシーフを一気に追い落とそうと画策し、留守を預かる他のシーフ幹部までも言いくるめられる材料を作ろうとしていた。
「え? それは……あの」
「それを盗ったのがレバンナだということにするんですよ」
頭の回らない部下に簡単に説明するとジャミスは手で退室を促うながした。
「わかりました。では」
部屋に一人残ったジャミスはゆっくり椅子から立ち上がると、部屋にあるもう一つの扉を開けた。すこし歩くともう一つの扉が現れ、その扉を開けて中に入る。その部屋にはこのシーフの街を管理する幹部四人が待っていた。部屋に入って来たジャミスに幹部の一人レミーが待っていたように問いかけた。
「ジャミス!どうでした?」
四人に見えないよう口元を手で隠し、笑みを一瞬うかべたジャミスだったが、直ぐに表情を変えて答える。
「…やはりレバンナ様は盗みを行なっていましたよ……よりによって我々の大切なシーフの誓約書のようです」
その答えを聞いた幹部の四人は愕然がくぜんとなった。
「そんな!レバンナ様は何も盗っていないと言っていた!」
当然ながら抗議の声が上がった。
「そうだ!それは何かの間違いだ!」
幹部にジャミスが反論する。退けばこの好機を逃してしまう――ましてレバンナには自分の本心を話しているので、無罪などという結果にもっていかれては計画が台無しになり、自分の立場は最悪になってしまう。
「まあ、レバンナ様への処罰はこれからの決議で決めるとして、このような事がおこった以上、我々の体制も変えなければいけませんな」
ジャミスが幹部を畳み込むように発言を続けた。
「どういう意味だ?」
「今回、宝物庫の警備はレミーさんの部下の時でしたな?」
「そうですが……」
「今までの規定により、今回の裁定の権利を外させていただきます。よろしいですね」
「決まりですから仕方ないですね」
「そして今回の騒動の発見と対応を私と部下の者が行いましたので、レミーさんの裁定権を私が引き継ぎます」
ジャミスにとりあえず流れを任せる幹部の四人はまだ気が付いていなかった。ジャミスがこれから悪意のある裁定をしようとするのを。
「そうですな……規定通りですし、その対応は間違っておりません」
「今回の騒動の裁定においては各々考えがあるとは思いますが、私はレバンナ様……いやレバンナの極刑の裁定を申し上げる」
幹部の顔を見ながらジャミスは驚愕のことを言うと、その発言に耳を疑う幹部達から大きく異論の声が上がった。
「それはどういう事だ? ジャミス! まだ盗まれたのかも明確に判明していないのになんて事をいいだす!」
「極刑とは!? それほどの事をしたとは思えませんが!」
「それは別に構いません。各々おのおのの主観ですから……私はこのシーフギルドの重要物を盗んだことを我々の裁定において極刑が妥当だとうだと思い、このように判断を下したまでの事……もしこの裁定に不満であれば、他の裁定を提案すれば良いだけのこと」
「確かに……他の者がそれ以外の裁定を出して、その判断の方に意見が傾けば、ジャミスのだした裁定が採用にはならないという事か……」
冷静な一人が解説をしたことで少し落ち着きを取り戻した。
「そうです……ですから私の裁定にそんなにムキにならないでください……それでは裁定を進めますがよろしいですね」
しかしジャミスの提案した裁定は幹部たちにかなりの反感と動揺を生んだ。
「レバンナ様にそのような裁定をするとは……ジャミス! 貴様何を考えている」
「私は全てに公平にこれはマスターアランの口癖です。それと同じことを皆さんに言っているのです……私はマスターアランの理念に従って裁定の提案をしたまでですよ」
ジャミスは余裕の顔付きに変わっていた。その理由は分からなかったが、幹部の一人が対抗策として別の裁定案を示した。
「わかった……ならば私はレバンナ様に宝物庫侵入の罪で謹慎処分が相当だと裁定する」
「私もそれに賛同する」
二人目の幹部もその裁定に賛同した。
「私もその裁定に」
そして三人目の幹部も賛同する意見を言おうとすると、ジャミスが言葉を遮って来る。
「あなたの裁定権を私が持っている事をお忘れですか?」
「え!?」
「前回の裁定決議の時にあなたの権利を私が保持していて、それを行使せずにとっておいたことをお忘れではないですか?」
そう言われた幹部は思いだしたかのようにハッとした顔になる。そしてジャミスは完全に幹部たちを畳み込むように言いだした。
「あなた方二人の裁定権を私が行使してレバンナの極刑に三票という事になりました。そしてマスターアランがご不在時には、この決議は最高決議となり有効になるという事もお忘れなきように……」
一人の幹部が声を荒げた。
「ジャミス! 貴様謀ったな! この時の為に裁定権を使わなかったのか?」
「そんな未来を予期した行動など私は出来ませんよ……ですがこれで決まりましたな、ではこの結果で準備させていただきます。それでは」
その場に居合わせた幹部たちは皆――顔が青ざめており、ジャミスの発言を聞くだけしかできなかった。ジャミスは幹部にレバンナの処刑日時を後日伝える旨をいうと、会議室を出て行った。
残された幹部は項垂うなだれる者、テーブルを叩く者、呆然とする者、顔を覆う者となっていた。
部屋を出るとジャミスは部下を呼び、処刑の日時を勝手に決めて伝えた。
「決議の結果レバンナを処刑する……日時は五日後の昼となる……準備と通達をせよ」
「はっ!」
ジャミスはそれだけを言うと高笑いしながら廊下を歩き去って行った。その笑い声は
廊下全体に響き渡っていた。