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贈り物3

 そんな場所で休んでいる人達の様子を確認してみると、どうやらほとんどが水に関係する場所で住んでいた種族なのだろう事が窺えた。
 小さいながらも手足の指の間に皮膜があったり、エラのようなモノ、ヒレっぽいものとか色々在ったので、おそらく間違いないだろう。
 他にも小規模ながら木々が植えられている場所も在るし、岩が置かれてちょっとした山岳地帯っぽくなっている場所も在った。これは様々な種族が憩えるように、という事なのだろう。
 よく見れば、置かれている椅子も大きさや形も様々だ。ボクはその一つに腰掛ける。背もたれは無いが、大きさは丁度いい。

「ふぅ」

 椅子に腰掛けて息を吐く。やはり人混みというのは慣れないな。大して移動していないのに、なんだか疲れてしまった。
 お弁当を背負っていた背嚢から取り出すも、暫し風景でも楽しむとしよう。子ども達の元気な笑い声を聞きながら、周囲をのんびりと見回す。
 地形は様々用意されているが、何処も盛況なようだ。子どもやその親らしき者達が一杯集まっている。
 基本的にはその地形を得意とする種族で集まっているようだが、中にはそうではない者達も混ざっていて、異種族間の交流もしっかりとなされているようだ。
 大通りの盛況な賑わいとはまた違う賑わいに、口元がつい綻んでしまう。やはり子ども達の元気な姿というのは、種族が違っても大変喜ばしく、癒される。
 それにしても、思っていた以上に子どもが多いな。家族ごと移住してきた者達も相当数居ただろうが、子どもの数がそれにしても多い。種族によっては多産なので、その影響も在るのかもしれない。
 そんな事を考えながら一通り周囲を眺めた後、さてお弁当でも広げるかと思ったところで、広間の一角に植えられている木々の合間から、ちらりと何かが見えた気がした。

「ん?」

 気になってお弁当に向けた視線を直ぐに上げて、何かが見えた気がする木々の間へと目を凝らす。
 そうすると、木々の合間から木で出来た人形が目に入った。その木の人形は大きさが様々在り、形もまた様々。
 望遠視を用いて覗いてみると、木の人形は棒に括りつけられており、それが地面に突き刺さっている。
 人形は形や大きさこそ違えども、何も描かれていないつるりとした無貌の姿はどれも同じ。そして、木の人形の前には、剣や槍などの形に彫られた木を持つ様々な種族の子ども達。中には弓を持っている者も居る。
 子ども達の近くには大人も居て、何やら手振りを交えながら話しているが、あれはどうみても戦闘訓練の様子だろうな。
 そう思っていると、大人に指導された子どもの一人が、木の人形へとやや長いだけの単なる木の棒を振りかぶって攻撃する。その光景にああやはりと思っていると、木の棒で打たれた木の人形が、何故だが切断された。

「は?」

 子どもが手にしている木の棒は魔法で多少丈夫さが増しているようだが、それでも木の人形を切断出来る訳がない。
 木の人形は厚さもそれなりで、人間に近い形や大きさの木の人形では、厚さもしっかりと再現されていた。つまりは十分な厚みがあるという事。
 というか、あれで木の人形を両断出来るのだとしたら、人間なんて大した手応えも無く切断されそうだ。
 原理はよく分からないが、ほとんど魔法を使うことなく、木の棒で厚さがそこそこある木の人形を切断した事になる。それも指導を受けている様な小さな子どもが。

「・・・・・・凄いものだ」

 一瞬色々と考え、面倒になって考えを放棄する。こういった類にももう慣れたというか、そうでもしなければ無駄に考え込みそうだったからな。もう変に考えなくとも、世界は広いでいいだろう。
 誰に言い訳をするでもなくそんな事を考えていると、先程切断された木の人形を遠隔魔法でくっ付けて修復している。
 切断されながらも修復したのは、おそらくあの人形の特性なのだろう。
 何事もなかったかのように修復されてもう一度立たされた人形と、離れた場所に立つ教導官。先程の遠隔操作でも教えているのか、綺麗に修復された木の人形を指差しながら、教導官は近くに立つ子どもに何かを教えている。
 暫くそうした後、教導官が少し下がり、教わっていた子どもが前に出た。視線を木の人形の方へと動かすと、いつの間にか切断された木の人形が在った。
 それはどんどん量産されているが、木の人形は数が在るからな。
 教導官に教わった子どもが、その切断された木の人形の一つへと遠隔操作を行い、木の人形をくっ付けて修復していく。切断された部分を遠隔魔法で持ち上げたり、それと残っていた部分の切断面を奇麗に合わせるのに苦労した為に教導官の時よりは時間が掛かったものの、それでも問題なく修復された。
 そんな訓練場と思しき広場を覗きながら、戦闘訓練の場所が結構広間に近いなと思う。それで不便がないのなら別にそれでいいのだが。
 まぁ、その辺りで要望が在ればプラタの方に上がるだろう。そんなことよりも、まずは昼食を摂る事にしよう。昼食を食べた後は、再度店を巡る予定なのだから。

「・・・・・・」

 少し前の通りの様子を思い出し、再度あの中に入らなければならないのかと考えると、流石にげんなりしてくる。今度こそもう少しゆっくりと店を回る事が出来るかな? あまり期待しないようにしておこう。
 帰りの事もあるので、今回は先に進まずに来た道を戻る事にする。来た時の時間を参考に考えれば、拠点に帰り着く頃には日が暮れているかもしれない。
 人混みに飛び込むのはげんなりするが、店が集中している通りなのでしょうがない。帰り道になる他の通りにも一応店は出ているが、それも少数。
 扱っているのは、大通りでも売っている食料品がほとんどだとか。プラタ曰くまだ市が育っていないので、店の数も多くはないらしい。
 その分大通りに店を集めているらしいが、結果としてのこの混雑である。現在は別の場所に商業区画を設けている最中らしいが、各種族が住む場所との位置や移動手段なども加味しなければならないので、予定では複数ヵ所に分散させるらしい。その為に今は各種族の商業の代表と話を詰めている最中だとか。
 その話をもう少し詳しく聞いた感じ、商業区画もあと数日で完成しそうだ。流石はプラタ達といったところ。
 正直なところ、それが出来るまで待ってもよかったのだが、商業区画はボクが住んでいる拠点からやや離れた場所に出来る予定だと聞いたので、とりあえず大通りに来てみたのだ。
 しかし、本当に人通りが多いな。ぎゅうぎゅう詰めで、通り抜けるには流れに乗るしかない。大通りは狭くはないというのに、それでも通り抜ける隙間もない。
 そんな中でも各人買い物をしているのだから、凄いものだと感心する。ここで暮らしているだけにもう慣れているのかもしれないが、それでも凄いな。
 しかし、そんな高密度の状態だというのに、大きな問題は起きていないと聞く。ちょっとした口論はあっても、犯罪までは起きていないらしい。プラタ達のおかげで治安はいいという事だ。
 さて、それじゃあ休憩も十分にしたことだし、そろそろ人混みの中に戻ろうかな。広場も道の方は混雑しているけれど。
 小さく気合いを入れると、大通りに戻る。
 戻った瞬間流され始めたが、流れの端の方なのでまだ何とかなる。そうして流されていると、最初の店に到着した。

「・・・・・・」

 しかし、立ち止まることは出来ずにそのまま流れていく。
 そのまま二軒目三軒目と同じように流れていったので、満足に商品を見る事は叶わなかった。
 どうしようかと思いながら、流れに乗りつつ店の様子を確かめていく。こんな状況でも買い物している人はしっかりと買い物が出来ているので、参考にする為だ。
 そうすると、少しだけ観察できた買い物客は、人混みから抜けて店の横の隙間に入って買い物をしていた。
 その様子を見て、なるほどと納得する。確かにゆっくり買い物をするなら流れから抜けるべきだよな。考えてみれば当然の事だが、盲点であった。
 納得したところで次の店に到着したので、とりあえず飛び出るような勢いで流れから出ると、上手く店の横に出る。
 そうして店の横に出るも、店主は慣れているのか驚きもしないで、ちらりとこちらに目を向けただけ。それは反対側の店主も同じ。やはりこれが普通なのか。
 とりあえず折角流れから抜け出せたので、左右の露店に目を向ける。
 片方の店の前には、色とりどりの果物が並んでいる。以前プラタが持ってきてくれた果物と同じ物が多いが、中には見た事ない物もあった。果物の甘い匂いがここまで漂ってくる。
 視線を反対側に転じれば、そこには様々な形の刃物が並んでいる。長さは大体五十センチメートルから百センチメートルぐらいか。人間より少し大きな種族向けだろう。
 どちらも興味は無いが、折角ゆっくり見る事が出来るのだから、もう少し見てみるか。
 果物の方は、一つ金貨一枚らしい。大きさはおおよそこぶし大。知っている果物は、そのまま食べられる物ばかり。ただ、中には虫が好む果実が在るらしいので、そういった果実の皮と実の間には虫がいる可能性が在るとかで、気をつけなければいけない。と、以前プラタに聞いた。
 刃物の方は、金貨六枚から銅貨六枚と幅が在るも、全体的に露店で売っているにしては良いモノだと思うので、安い方だろう。まぁ、ボクは刃物の目利きは出来ないので、何となくそう思っただけだが。
 それにしても、相場がいまいち分からない。プラタから話を少し聞いたといっても、それがどこを基準にしているか分からないからな。
 そもそも他種族の生活とかよく知らないから、銀貨一枚で夫婦の一月分ぐらいとか言われてもいまいちピンとこない訳で。それでも銀貨が高いのは分かったが。
 まぁ、もう少し見ていけばその辺りは把握出来るだろう。そう思うことにして、次の店を目指して再度人混みに身を投じた。
 相変わらず窮屈だなと思いながら流れに乗って移動していき、少し先の店を眺めていく。
 そうして気になる店を見つけると、先程と同じように店の横に飛び出す。間違っても店に飛び出さないように気をつけなければならない。
 無事に店の横の隙間に出ると、左右に並んでいる露店に目を向ける。
 今回も片方は食料を売っているようで、どうやら売り物は木の実のようだ。見た感じ量り売りをしているようで、大きな箱に入った木の実が店主を囲むように置かれていた。
 もう片方は香辛料を売っているようで、粉末状から小さな粒まで様々な形で置いてある。ただ、形状は様々だが種類は少ないらしい。
 どちらも基準としている値段は似たようなモノ。粒の大きさも同じぐらいだ。
 香辛料を売っている店をよく見ると、すり鉢や小型の粉砕機が在るので、粒を買ったら好みの荒さにしてくれるのかもしれない。もしくは粉状の香辛料をその場で追加で作る為か。
 まぁ、どちらでもいいか。とにかく多少は要望を聞いてくれそうだ。もっとも、ボクには香辛料が必要そうな用事もないので、購入はしないのだけれど。
 店先に並ぶ商品を見た後、ボクには必要ないと人混みの中に戻る。
 そうした後、拠点に戻るまでに数回同様の事を繰り返した。しかし気に入った物はなく、手ぶらで拠点に戻った。やはりまだ市場が安定していないからか、めぼしい物は少ない。
 商業区画が出来て新たな市場が形成されれば、魔法道具などを取り扱う店も増えていくだろう。その時になったら再度市を見に行きたいが、さてどうなることやら。
 拠点に帰ってきた時には日が暮れていたので、そのまま食堂に行って用意された夕食を食べる。
 夕食を終えたら自室に戻り、疲れを取る為にお風呂に入る。そして、入浴しながら今日の事を振り返ってみるも、新鮮だったのは最初の少しだけで、終始疲れただけのような気がするな。

「ふぅ。やっぱり人混みは苦手だな。新しい市場は分散するらしいし、もう少し余裕があればいいな。せめて品物ぐらいはゆっくりと吟味する余裕が欲しいものだ」

 湯船に身を浸しながらそう思う。やはり買い物は余裕をもって行いたいものだ。

「それにしても、人間界の外の魔法道具とか本とか気になっていたけれど、結局今回は目にする機会がなかったな。まぁ、仮に見つけていたとしても、ゆっくり吟味する時間もなかっただろうが」

 人混みから店の横に出て、店先に並ぶ商品を見ていたが、何もそれをしているのはボクだけではない。つまりは商品を見ている間にも新しいお客さんが次々とやって来るのだ。店の横は隙間なので、二三人が並んで立つと窮屈なほどに狭い場所だし、そうすると縦長に並ぶので、また人混みの中に戻るのも一苦労。

「あれは事前にプラタに何処に何が在るのか訊いておくべきだったな。そうすれば、少しは見たいモノが見られたかもしれない」

 振り返ればそう思うも、それも今更だ。次に市場に出る機会があったら、忘れずに事前に訊いておくとしよう。
 さて、まあ今日の反省はそれぐらいでいいか。それで明日だが・・・何をするのだろうか?
 今日街に出た事からも分かる通り、ある程度は拠点回りと責任者との顔合わせは終わった。まだ少しは残っているだろうが、それでも必要分は終わっているだろう。
 であれば、この後はどうするのだろうか? まだ国の外に出るには準備は終わっていないようなことを言われたし・・・勝手に出ていってもな。案内役が居なければ何処に何の種族が居るかも分からないし、海の種族のように言葉が通じない相手も居るだろう。
 それに、これ以上迷惑を掛けるのも気が引ける。プラタであれば直ぐに場所を特定するだろうが、それも手間だろう。現在はこの国の管理もプラタがしているのだから。
 その状態でボクが勝手に外に出てしまうと、おそらくプラタの場合は国の事など二の次にしてボクの事を探すだろう。そうなっても大きな問題にはならないかもしれないが、何か起きてしまえば住民に迷惑が掛かってしまう。
 そういった事を踏まえてみても、やはり勝手には外には出られないな。名ばかりとはいえこれでも国主だし、そこまでして我を通すほどやりたい事でもない。

「もう少しここで魔法道具の創造や魔法の修練なんかをするかな。外に出たくはあるが、考えてみればここでやりたい事も結構色々とあるんだよな」

 中途半端に手を付けている事柄も結構ある。各方面に興味が向いて、あれもこれもと手を付けたからだ。その成果は出ているが、それも微々たるもの。

「もう少し一つの事に集中するべきなのかな?」

 そう思いながらも、きっと無理なんだろうなと、我が事ながらに呆れたように思う。直ぐに何かしらの成果が出たり、新しい発見が次々出来るのであれば興味も続くのだろうが、それは中々に難しい。
 今までの経験からも、そのおかげで何かしらの成果が出たものはあまり多くはない。大半が途中で別の事柄に興味が移ってしまっていたからな。
 もっとも、一概にそれが悪いとは言い難い。というのも、何かしらの事が切っ掛けで新たな考えが浮かぶという事も珍しくないのだから。
 それを考えれば、様々な事柄に興味を抱くというのも悪くないような気になってくるが、やはりそう上手くいかないだろう。確かに新たな発想を得た事もあったが、それ以上に中途半端に終わった事の方が多い。
 その辺りは中々上手くいかないものだとは思うが、それでも様々な事に目を向けるのは大事なことだろうとも思う。

「発想力が貧困だからな。それを鍛えるためにも、色々な事を経験するのは必要な事だろうさ」

 言い訳じみた言葉を口にするも、それも事実である。ボクはどうも発想力が貧困で、閃きというものがあまりにも無さ過ぎるのだ。
 その辺りを鍛えるには、やはり様々な経験する必要があると思う。それは見当違いではないとは思うが、そこまで自信がある訳ではない。

「もっとも、今のこの状況も経験ではあるのだが」

 何せ、お飾りとはいえ国主である。そうそう経験出来るものではない。それも多数の種族を纏める国家のである。もの凄く貴重な経験だろう。

「ま、全てプラタ任せだが」

 問題があるとすればそこだろうが、こればかりはな。ボクに任されてもろくな事にはならないのが目に見えている。
 ふぅと小さく息を吐き出すと、天井に目を向ける。天井に目を向けるも、湯気に阻まれて天井が見えない。それは別にいいのだが、相変わらずここの湯気は濃いな。
 そういえば、もしも世界に出たとしたら、ここのお風呂にも当分入れなくなるのか。

「・・・・・・いや、転移魔法が・・・あれの有効範囲はまだそこまで広くないからな」

 現在この拠点に設置してある転移装置は、対になる転移装置以外からの干渉を受けないように秘匿性を重視してはいるが、効果範囲については、まだそこまで改良出来ていない。環境にもよるが、何にも影響されないのであれば、おおよそ半径百キロメートルほどは有効だろう。・・・大して広くはないな。

「実際は色々と影響されるし、それこそ様々設置されているプラタの魔法の影響からは完全に脱せていないからな。大分マシになったといっても、設置場所が地下である事を考慮するとして・・・他にも幾つか思い当たる節があるから、有効範囲は半分あればいい方かな? そうなると大して意味が無いな。あと最低でも十倍は欲しいが、そうなると出力を強化して・・・いや、駄目だな。それだと容量が大分圧迫されてしまう。組み込めない事もないが、干渉を妨害する魔法の容量が結構膨大になったからな、それが響いている。かといって転移装置の容量を増やすのは、現状では転移装置を大きくするぐらいしか方法が無いからな・・・」

 現在地下三階に設置している転移装置は、可能な限り容量を増やすように技術の粋を集めて創っているので、大きさを変えないで容量を増やす手段はない。あるとすれば組み込んでいる魔法の改良ぐらいだが、それは成功しても微々たるものだ。今まででも十分改良は行ってきたのだから。
 困りつつ考えるも、名案は浮かばない。そうこうしていると大分身体が温かくなってきたので、そろそろ浴槽から出る事にした。

「今日もいいお湯だったな」

 お風呂場を出て自室に戻ると、伸びをして寝台の縁に腰掛ける。
 そのまま大きく息を吐き出すと、先程までお湯に浸かりながら考えていた事を思い出し、地下三階に設置している転移装置と同じ転移装置を眼前に創造する。

「さて、これをどうやって改良するか」

 結構な大きさの転移装置を目の前に置くと、腕を組んで思案しながら観察していく。大きさは既に大分大きいし、組み込んでいる魔法も十分改良している。この状態から容量を増やすか減らすかしなければならないというのは難しい。

「組み込んでいる魔法の見直し・・・再編して現在と同等かそれ以上の効果で、尚且つ使用する容量を減らす方向で考えるにしても、それもどこまで出来るか。プラタの魔法道具を参考にしたとしても、少し効果範囲が伸びるだけだろうし」

 パッと思い浮かぶのは、組み込んでいる魔法を改良して容量を軽くするか、再編して必要容量を減らす。転移装置の容量の上限を引き上げる。これも転移装置の巨大化から、素材の改良と様々だ。
 とにかく容量を増やすか減らす方法といったらその辺りだろう。

「・・・・・・うーーん。どれも散々やって今がある訳だし、いくら日々成長しているといってもその歩みは微々たるものだ。当時から比べて上がった技量で改良したとしても、やはり微々たるもの。つまりは、現状ではこれが限界か。干渉の妨害を弱めるのはしたくないし、かといって現状では拠点を出れば直ぐに繋がらなくなる。こうなると欠陥品だな。外に出る前にこちらをどうにかしなければならない訳だが・・・むー」

 思わず難しい顔になってしまう。ここからどうやって改良すればいいというのか。
 ひとまず容量を無視して考えるのであれば、転移の有効範囲を拡げる事は可能だ。容量度外視で全力で取り組めば、最大で数千キロメートルぐらいは行くと思う。
 だがその場合、効果範囲を拡げる事だけを念頭に組んだとしたら、現状の転移装置の容量では足りないな。現実的ではない。
 もうあの時のような干渉は阻止したいが、かといって現状の効果範囲では役には立たないし・・・うーん。どうしたものか。

「難題だな。容量をどうにかしないと進まないからな・・・・・・うーーーーん・・・ん? 本当にそうか?」

 転移装置を前にあれやこれやと思案していると、ふと閃くモノが在った。そもそも、目的は転移の有効範囲の拡大だ。であれば、何も容量にこだわる必要もないのではないか? と。
 例えば、現在の転移装置はそのままに、新たに転移装置を補助する魔法道具を創り、それと繋いで転移の有効範囲を拡大させるという方法でもいい訳で。
 他にも、あくまでも案の一つだが、転移装置の設置場所を変えるという方法も在るだろう。要は視点の切り換え。どうもボクはそれが苦手なようで、一つの事にこだわり過ぎるきらいがある。
 今回だって容量の増減に焦点を合わせてしまったので、他が見えていなかった。少し視野を拡げれば、方法は色々とあるものなのに。
 これも今まで何度か感じた事だが、中々身につかないようだな。学習しないというか、一つに絞って考えることに慣れ過ぎてしまったというか。これはもう、一種の癖のようなものだな。この事もこれからは念頭に置くようにしないと。
 その自分の癖について思い出し、引き続きどうしようかと考えていく。
 新たな視点に気がついたといっても、ボクの場合はそこ止まり。そこから先の閃きは期待出来ない。
 それでも諦めずに考えていくも、夜も大分更けて眠くなってきたので、思考を中断して眠ることにする。外に出るとは言っても、明日明後日の話ではないから、そこまで根を詰めて考える必要はないからな。
 目の前に置いた転移装置は、大きくて邪魔なので分解しておく。その後に寝台の上に横になれば、あとは目を瞑るだけだ。
 明日はプラタに改めて国の外に出たいという話をしておこう。色々と事前の準備も必要だろうからな。





「スキル? レベル? まるでゲームのようだな」

 新たな世界にやってきたオーガストは、その世界の事について調べてそう呟く。
 その世界では、強さをレベルというモノで表し、技能をスキルというモノによって修得する。スキルの熟達具合も同様にレベルで表した。
 他にも様々な要素を数値で表しており、それらをステータスと呼び表し纏めていた。
 そんな世界の様子に、オーガストは少し呆れたように息を吐く。どうやらこの世界の管理者は、随分と未熟な存在らしい。

(数値やスキルとやらで表記しなければ、満足に世界を管理も出来ないか。もっとも、僕が生まれた世界も元はゲームだったから、似たようなモノだが)

 オーガストが生まれた世界は、元はゲームとして創られた世界だったが、それでもスキルやレベルという概念は存在していなかった。

(確か、リアルにファンタジーをというコンセプトを基に創られたのだったか)

 ここでいうリアルとは、オーガストが生まれた世界を創造した者達が居た世界の事を指すが、そのコンセプトの意味は、現実世界の中にファンタジー要素を取り入れるという意味も在るらしいが、結局のところ、ファンタジーの世界にリアルを混ぜ込むという部分が大きい。
 つまりは創造者達が居た世界と同じように、能力を数値で分かりやすく表記される訳でもなければ、何が出来て何ができないのか、向き不向きなどを手軽に判るようにはせずに、自分達で探っていくというのが目的だったらしい。

(まぁ、もう一つのリアル世界を創るというのを目指していたようだからな・・・実際は創るまでもなかったのだが、それも今更か。管理者でもない者が新たな世界を創造したというだけでも十分に凄い事な訳だし)

 オーガストは元の世界の創造者達を大して覚えていない。それぐらい取るに足らない存在ではあったのだが、それでもあの世界が元はゲームの世界であったことは覚えていた。

(そういう意味では変わった世界だった訳だが、ここはあそことは違ってゲームらしい世界だな。だがここは、あそことは違いゲームの世界ではない。という事は、何かを参考にしたのか、未熟なりに管理の仕方を考えたのか。何にせよ、くだらない世界だな)

 そうは思いながらも、とりあえず世界を回ってみる。もしかしたら興味を惹かれるような事があるかもしれないと、微かな期待を抱きながら。
 しかし、どれだけ調べてみても、興味を惹かれるような事はない。
 レベルに拠る強さの変化。スキルに拠る技量の有無。それらを明記したステータスによる管理。それを行うのは、管理者ではなく人間や魔物だ。
 この世界には、魔物という存在と人間しか居ない。人間も魔物も戦ってレベルを上げる。レベルを上げれば誰でも強くなっていくが、レベルを上げる方法は他者の命を奪う事のみ。特に他種族。人間は魔物を、魔物は人間の命を奪う事でより成長しやすくなる。

(単純で操りやすい世界)

 スキルを修得すれば、誰でもそのスキルに沿った行動が出来る。スキルのレベルによって上達具合は異なるが、それでもスキルがあれば経験は不要。そのスキルもレベルが上がると手に入り、戦闘によってスキルのレベルも上がる。たとえそれが戦闘に関係のないスキルであったとしても。
 であれば、スキルを上げるためには何が何でも戦わなければならない。向き不向きなんて関係ない。そうしなければレベルは上がらないのだから。

(管理しやすいだろうな。単純明快。争いによって管理している世界か)

 そんな世界であればどうなるか。そんな事は簡単だ。人間と魔物が殺し合う世界が出来上がるだけ。
 勝手に数を抑えてくれて、自分達を自分達で管理する。そこは殺伐とした世界なのだろうが、それが生まれた時から当然の住民は疑問にも思わない。
 ステータスによって差別も在るだろう。役割の振り分けが容易なのだから当然だ。
 技術の発展も遅い。戦闘系や医療系は少しは発展しているが、それでもスキルが全てでありながら、スキルのレベルを上げるために戦闘が必要な世界では、それも当然だ。

(発展が遅く、勝手に自分達で自分達を管理する世界。実に管理がしやすい世界だ。この世界にもちゃん管理者は居るが、怠け者の未熟者。この世界同様に存在している価値のない存在だな)

 そんな世界である。少し調べただけで、直ぐに見るべきものが何も無い世界だと解る。
 その結果にオーガストは呆れさえ浮かばずに、早々に立ち去る事にした。狭間の住民がもうすぐ到着するのを捉えながら。

しおり