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8話

なぜこうなったんだ。
「ミツルさん!剣が!剣が!!」

この山菜たちが触れたものに噛みつくなら、剣に噛みつかせて、そのまま篭に入れてしまえば良いと思っていた。そう、これで完璧だったのだ。予想外のことさえ起こらなければ。

俺は剣を山菜に触れさせた。山菜がピクリと動く。そして、噛みついてきた。よし、いける!そう思って持ち上げようとした。その時だった。

剣は見事に粉砕していた。噛み砕かれたのである。
「山菜強すぎるだろ!」
そう。山菜取りとして生きていく道はこうして断たれたのである。

というか、こんなの採取出来なくないか?
そんな俺の気持ちを悟ったのか、ミシェルが近づいてくる。

「根っこごと持ち上げるのは不可能よ。山菜は噛みつかれる前に刈り取らなきゃいけないの。」
先に言ってくれよ。剣が無きゃ不可能だろうこれ。

「そうなのですね!わかりました!じゃあ、私は手で切りますね!」
何を言ってるんだこの金髪天使は。

訳のわからないことを言いながら、ガブが手をあげ

山菜に対して水平に手を振った。そして
「うわぁぁぁぁぁ!ヒール、ヒール!」
当然のように噛まれた。何がしたいんだこいつ。

「なぁ、何してるんだ?」
「いや、ミツルの国ではこうやって手刀として手を刀にしていたのを思い出したので。」
涙目のバカが訳のわからないことを言い出した。こいつ、手刀が本当に刀になってると思っていたのか。

トラウマになっていたのか、サボりたいのか。木にもたれかかってじっとしているリリーが俺たちに言う。

「なぁ、これ無理じゃねぇか?私らは主な攻撃が魔法だぞ?こういうのは手練れた剣士がやることなんじゃねぇか?」
「あ、ごめん。俺が剣を…」
「あ、いや。ミツルは旅人だからそもそも剣があってもこれは厳しかっただろう。だから、その、気にするな?」

リリーが慌てたように答えていた。俺の鬱を気にしているんだな。
気を変に使ってくる辺りが余計心に刺さる。

にしても、どうにか良い手はないのか。
俺はすがるような思いで、ステータス帳を開いて見た。

スキル欄…?
そうか、旅人にもスキルはあるのか。宴会芸ばかりで話にならないけれど。1つだけ宴会芸以外にも、ランダム・トリップというのがあった。

ランダム・トリップ
深海、氷山、砂漠の中から行きたいところを選ぶとそのカテゴリーの中からランダムの行き先に瞬間移動できる。効果は自分と触れている生物一体のみ。

なんだ、このくそみたいなスキルは。行きたいところに行ける訳じゃなく、カテゴリー以外はランダムなのかよ。しかも、選択肢が深海と氷山と砂漠って。ろくな行き先がねぇじゃねぇか。旅人やめたい。

「なんか良いスキルでもあったの?」
ミシェルが期待しながら聞いてくる。
「いや、特になかった。というかろくなスキルがないな。旅人は。」

そういうと、ミシェルは穏やかに笑っているだけだった。やめろ、その暖かい目で見るな。空しくなる。

にしても、なんの成果もなく帰りたくはない。なんとかして攻略法を考えよう。

山菜は土から出すか切断することで噛みつくことがなくなる。つまり、このどちらかを達成すれば良いということだ。
噛む力は絶大で、鉄すら砕く。これが500ハンスとか納得がいかないな。

さて、何か思い付かないか。触れずに土から出す。
そんなとき、誰かが忘れていったのか、スコップが落ちていた。これだ。

「みんな、集まってくれ!」
そうして、例のごとく円になって座る。なんかこの行き当たりばったりな感じも板についてきたな。

「リーダー待ってました!」
リリーがニヤニヤしながらやって来る。
「いいか、触れずに土から出すんだ。道具を使おう。スコップで草に触れないように土ごと持ち上げるんだ。」
「でも、スコップは1つしかないわ。どうしましょうか。」
「代わりになりそうなものを探そう。くれぐれも足元の山菜に触れないようにな。」

こうして、俺たちは山の中に捨ててあるゴミを漁り始めた。
「見てください!そりがありました!」
嬉々としてゴミを漁り出す元天使。シュールだ。
「おいなんか楽しくなってきたな!お、自転車じゃねぇか!持って帰ろう!」
リリーは貧乏神だからかしっくり来る。
「山菜取りに来て、ゴミ漁り…。これも結婚のため。これも結婚のため…!」
ミシェルは自己暗示をかけ始めている。なんか。こう。なぜか憐れだ。

何だかんだで全員それらしいものを手に持った。リリーは自転車にまたがっている。いや、降りてくれ。

ここで貴重な収穫があった。みんなの器用さがよくわかったのである。

まずガブはそりで土をすくっていたのだが、浅くしかすくわなかったので当然のように山菜に触れていた。
「あぁ、そりが!?」
これはもはや知能の問題のようだ。諦めよう。

ミシェルは丁寧にすくっていく。手際も良い。なるほど、ミシェルは器用だな。もうこの人は一人で生きていけそうだ。

リリーは…。
「あぁ!くそ!イライラする!あー!もう!」
ダメだ。触れないようにすくうにはすこし丁寧さがいるのだが、リリーは不器用すぎてそれが出来ない。こいつに器用さが必要な作業は今後厳禁だな。

そうして、俺とミシェルとでなんとか山菜を20本手に入れた。


「これだけやって、10000ハンス分か…」
リリーがリビングのテーブルにうなだれながら言った。

たしかに山菜採取に行くのが初めてであったこともあったが、効率が非常に悪い。山菜採りは当分行きたくないな。

「まぁまぁ。たしかに、山菜採りは効率悪かったですけど、楽しかったわ。明日からまた、クエストを受けましょう?」
そういってミシェルが微笑んだ。

仕方ないな。明日もクエストに行くとするか。
ミシェルが取れた山菜を調理してくれたものを食べ、寝る支度をしていた。

部屋に戻ると、開けていない引き出しがあった。なんとなく、それを開いてみて、俺は驚いた。

「これは…何の地図?」
引き出しからボロボロになっているその紙を取り出すと、見たこともない土地の名前が見える。その町の近くに何やら×が書かれている。ここに何かが埋めてあるのか?

俺はその紙をそっと机のなかにしまいなおして、眠りについた。面倒になりそうだったので黙っておこう。

しおり