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リンちゃんと惑星レトロナ Fractal.3

 
挿絵


 何やかんやあったけど誤解は解けた。
 うん、あの後、和解してん。
 え? 具体的には……って?
 色々や★
 ええやん?
 ウチ、細々したの嫌いやねん。
 せやからな?
 例の〝ケインはん〟と〝ジョニーはん〟に導かれ、ウチらは基地に招待されてん。
 機体格納は通天閣や。
 せやけど、たぶん本物よりデカイよ?
 展望台に当たる所が開くと、格納庫(ドッグ)になってはるもん。
 ウチらの〈宇宙航行艇(コスモクルーザー)〉を回収しはったもん。
 懐古的外見の割に、中身は如何(いか)にもハイテクな基地やってん。
 ちなみに〈レトロナナンタラ〉は分離して、発進してきた格納庫(ドッグ)へと回収された。
 せやよ?
 あの〈奈良の大仏〉と〈自由の女神〉と〈お台場ガ ● ダム〉や。
 つまり、この通天閣格納庫(ドッグ)は、ウチらのような〝来客用〟やねんな?
 ……っていうか、やっぱりええのん? 最後の?
「ったく! ただじゃおかない! 文句言ってやる!」
 格納された〈ミヴィーク〉から降りるなり、リンちゃんプリプリや。
「リンちゃん、何でそないにカリカリしとんの?」
 ツカツカとエレベーターへ向かう後ろ姿に追いついて、ウチは(たず)ねた。
「はぁ? 当事者が何をのほほんとしてんだッつーの! 聞く耳持たずで、よってたかって女の子をイジめるなんて、大の男がやる事か! 女ナメンなッつーの!」
「……原因、ウチ?」
「……アンタじゃない」
「せやかて、ウチのせいでリンちゃんカリカリしてるん(ちゃ)うの?」
「アンタは何も悪くない!」
 ……やっぱりウチや。
 何や悲しなった。
 ウチ、明るいリンちゃんがええ。
 怒ったリンちゃん、イヤや。
 悲しなった。
 すごく悲しなったよ?
 せやから……。
「ふぐぅ!」
「アダダダダーーッ?」
 えへへ ♪
 思いっきり(うし)ろからハグしたった ♪
 ギュッとしたら温かいねん ♪
 イライラ無くなるよ?
「痛いッつーの! 放せ! モモ!」
 あれ?
 イライラ収まらへんねぇ?
 もっとや!
「ふぐぅぅぅ!」
「アダダダダダダダダッ!」
()(さき)モモカ、そのまま後方へと投げ捨てれば、天条リンは気絶する。そうなれば報復行動は起こせない。とりあえずは問題解決」
「せやの? クルちゃん?」
 ウチの確認にクルコク肯定。
「上手くいけば記憶もトぶ……一石二丁(いっせきにちょう)
「せやったら……せーの!」
「何が『せーの!』だぁぁぁーーーーッ!」
「ふぐぅ!」
 後頭部ハリセンスパーン来たよ?
 リンちゃん、えらい焦って無理矢理振りほどいたよ?
「ぅぅ……リンちゃん、痛いよ?」
潤々(うるうる)しながら『痛いよ?』じゃないッつーの! 忘れた頃に懐かしいパターンを再活用すんな! この脳味噌スポ根バカ娘!」
 リンちゃん、あんまりや!
「せやかて! ウチ、リンちゃん怒るのイヤや!」
「だからって、いきなり〈ブレーンバスター〉かますバカが何処にいる! 気絶どころか死ぬわ!」
「天条リン、それは誤解」
「何がだ! クル!」
()(さき)モモカが実践しようとしていた技は〈バックドロップ〉──よく誤認されているけど〈ブレーンバスター〉ではない。ちなみに解放せずにホールド体勢を維持したのが〈スープレックス〉と呼ばれる技で──」
「知るかーーッ!」
 カリカリ増した……不思議や!
「やれやれ……その元気じゃ、どうやら大丈夫そうだな?」
 不意に男の人が声を掛けて来はった。
 別なエレベーターからや。
 聞き覚えあるよ?
「あぁん?」
 ギンッと殺気紛いに振り向くリンちゃん。
 目ェ怖いよ?
 不良(ヤンキー)みたいやよ? 大企業の御嬢様?
 格納庫(ドッグ)片隅からコツリコツリと歩き出て来たんは、精悍で誠実そうな青年やった。
 凛々しく太い眉毛に、真っ直ぐ澄んだ瞳。
 黒い髪は、快活さと清潔感を印象付ける。
 真っ赤な〈PHW〉には、胸に黄色い『V』の字があしらってはった。
 ウチ、自分の〈PHW〉を見比べた。
 あんまし好きやないけど……アレの恥ずかしさよりはマシやんな?
「さっきは済まなかったな? 俺の名は〝ケイン〟──レトロナマシン1号機〈レトロナギュギューン〉のパイロット〝神谷(かみや)ケイン〟だ」
 ああ、やっぱり〝ケインはん〟や……っていうか、機体名ッ!
 それ、変えた方がええよッ?
 まだ〈ハウゼン語〉の方がマシやよッ?
 リンちゃんは相手を見据えて固まったままやった。
 たぶん食って掛かるタイミングを見計らっとるんやね?
 これ、あんま良くないねぇ?
 せやから、ウチは明るい自己紹介で流れを変えようと思うた。
「こんにちは★ ウチ〝()(さき)モモカ〟言うねんよ?」
「な……何ィ? き……(きみ)が〝()(さき)モモカ〟だっただとォ!」
 ……またブルートーン入った。
 ……世界が青く染まった。
 超能力?
「私は〝クルロリ〟でいい」
「な……何ィ?」
「それは()らない」
 ブルートーンが打ち消された。
 クルちゃんの醒めた淡白で。
 超能力対決でも繰り広げられとったん?
 ウチが気付けへんだけで?
「それで? そっちの(きみ)が……?」
「…………」
 関心を移されるも、リンちゃんは答えへん。
 固まったままや。
 まだ攻撃心が軟化しとらへんようやね?
 う~ん、どないしたらええんやろ?
「あの……(きみ)?」
「天条リンで~す♡ 」
 一転してキャピルン挨拶や!
 握り拳を口元へ添えて、片足跳ねや!
 リンちゃん? まさか!
「気軽に〝リン〟って呼んで下さ~い ♪ 」
「あ……ああ……え?」
「あ、でもでもぉ~? アタシだけ〝さん付け〟じゃ他人行儀よね? それってば、不・公・平♡  だからだからぁ~? アタシも〝ケ・イ・ン♡ 〟って呼んじゃおっかなァ~? ダメェ?」
 人差し指を唇に添えて、甘えん坊の上目遣いや!
 これ、アカン!
「あ、いや……構わないが?」
「ヤ~ン ♪  アタシってばラッキー♡ 」
 跳ねとる!
 ピョンピョン小兎アピール入った!
「……()(さき)モモカ? 天条リンがおかしい? どうした? 何か悪い物でも拾い食いした?」
「……イケメン好きやねん」
「ふむ?」
 不可解とばかりにクルコクン。
「せやねん……リンちゃん、イケメン大好きやねん! ()れると、ああなんねん! ほんでもって、実は()(やす)いねーーん!」
 ややこし展開の確約に、ウチは(あたま)(かか)えて大絶叫!
 一方で、クルちゃんは平静に(まと)めはった。
「やはり〝変〟なキャラクターだった」



 司令室へ案内された。
 一際(ひときわ)物々しい自動扉が開くと、計測器やコンピューターが並ぶ機能美的な大部屋やった。
 四方は硝子(ガラス)()りに見晴らしも良く、海原や森林が豊かな息吹を視覚に伝えとる。
 っていうか……リンちゃん、ケインはんにベッタリや!
 強引に腕組みや!
 ウチ、おもろない!
 胸中プンプンや!
「それはそうと、さっきは悪かったな? モモカくん?」
「全然気にしてないですぅ~♡ 」
 ウチやないよ?
 ウチの台詞やないよ?
 このキャピルンは、リンちゃんや。
「いや、しかし……」
「ケガとかしてないんでぇ ♪  気にしないで下さ~い ♪ 」
 リンちゃん、あんまりや!
 それ、ホンマのあんまり(・・・・)や!
「だが、男としてあるまじき……」
「間違いなんて誰にもありますからぁ♡  ノー・プ・ロ・ブ・レ・ム ♪ 」
 人差し指でケインはんの唇へ「シッ」と触れた。
 ウチ、数分前に戻りたい!
 ふぐぅ!
「それで、神谷(かみや)ケイン? あのロボットは何?」
 クルちゃんが平然とした抑揚に質問する。
 一人(ひとり)だけ通常運転やね?
 他人事(ひとごと)やね?
「アレは〈超リニアロボ・レトロナ(ファイブ)〉──この惑星レトロナを防衛する(ため)に造られた超科学の結晶だ」
「防衛?」
 怪訝(けげん)そうなクルちゃん。
「ああ……〈レトロナ(ファイブ)〉は、レトロナ星からやって来たレトロナ星人が送り込んで来る〈レトロナ(じゅう)〉と戦う(ため)に造られたのさ」
 うん?
 何や、ややこしい事を言い始めたよ?
「あんな? ちょっとええ?」
「何だい? モモカくん?」
「この惑星(ほし)は、何て言うん?」
「惑星レトロナだ」
「あのロボットは?」
「レトロナ(ファイブ)だ」
「……敵は?」
「レトロナ星人だ」
「……どっから来てん?」
「レトロナ星だ」
「…………()と戦ってるん?」
「レトロナ(じゅう)だ」
 全部〈レトロナ〉や!
 何故か全部〈レトロナ〉や!
 説明されたフォーマットは単純なんに、ややこししてる原因それ(・・)や!
「ちなみに、此処は惑星レトロナの防衛を一手に(にな)う最新鋭基地〈レトロナベース〉だ」
「また出た!」
 思わず声が()れたわ!
 ウチが驚愕した直後、自動扉が開いて誰かが入って来た。
 小柄やけど恰幅(かっぷく)のいい髭オジサンや。
 白衣姿にヨレヨレのズボン。そして、下駄履き。
 鼻を発端に顔は真っ赤で、腰から濁酒(ドブロク)ぶら下げとる。
 要するに〝だらしのない酔っ払い〟やね?
「あ、博士」
「博士なんッ?」
 またまた声()れたわ!
 どっからか不審者が入り込んだ思うたよ!
「みんな、紹介しよう。この基地の最高責任者〝()乙女(おとめ)()博士〟だ」
 ……スゴい名前を紹介された。
「博士、彼女達は──」
「うるせーーッ! さっさと酒持って来ーーーーい!」
 博士、酒乱やよッ?
 重度のアル中やよッ?
「呑んでも尽きない養老乃瀧(ようろうのたき)……呑んでも尽きない養老乃瀧(ようろうのたき)…………」
 プルプル手を震わせて、何を言うてんの?
「アルコールプールひゃっほーーーーう!」
 何を吠えてんのんッ?
 惑星レトロナ、壊滅秒読みやん!
 何とも()(がた)い気まずさが沈黙に漂う中、クルちゃんが「ふむ?」と一顧(いっこ)を刻む。
「困った。これでは会話が成立しない。有益な情報を引き出す事も不可能」
 そして、物怖じせずに博士へと歩き進んだ。
神谷(かみや)ケイン、少しばかり()乙女(おとめ)()博士を借りる。マンツーマンで話がしたい」
「ああ、それはいいが……」
「感謝する」
「うるせー! 公園はみんなの物(・・・・・)だ! 住んで何が悪いーーッ!」
 そのままズルズルと酔っ払……博士を連れて、オートドアの外へ出る。
 閉まった。
「……ねえ? ケイン?」
「何だい? リン?」
「あの博士、公園に居たの?」
「ああ。出会ったのは偶然だったが、話してみれば、なかなか聡明な人でね。ああ見えて、人生哲学等にも精通しているんだ」
「……へえ」
「家族と別れてから人生観の探究にも余念が無いようでね。博士(いわ)く『家族とは〝血の(つな)がった他人の共同生活環境〟に過ぎない』『人間、死ねば所詮(しょせん)、万人塵芥(ちりあくた)』だそうだ。あまりにも高尚(こうしょう)過ぎて、俺には把握しきれないが……実に深い理念だと思わないか?」
「……そーなんだー」
 リンちゃん、醒めとるねぇ?
 醒めとるけど、ケインはんの手前、いつものツッコミが出来へんでいるねぇ?
「……酔ってた?」
「はははっ! 博士がシラフ(・・・)なところなんて、まず見た事が無いよ」
「……へぇー」
 それ、ただの酔っ払いやん!
 おそらく人生転落した酔っ払いがクダ巻いとっただけやん!
 ──ビビビッ!
「ハウッ!」
 ウチら全員ビクゥなった!
 ドアの外で短い悲鳴と電気音が聞こえたから!
 あ、ドア開いた。
 帰って来た。
 並んで帰って来た。
 ほんでもって、クルちゃんの手には、まだチリチリと帯電してるパモカ。
「ふむ? それで、君達は何者なのかね?」
 爽やかに語り出したよッ?
 博士、スッキリした顔しとるよッ?
 せやけど瞳孔開いとるよッ?
 クルちゃん、何したんッ?



「〈ネクラナミコン〉ねぇ?」
 ウチらから事情説明を受けた博士は、軽く思索を巡らせた。
「博士、何か知っていますか?」
 ケインはんの質問に、重々しく首を振る。
「仮に、そのような物を知っているならば〈レトロナ(ファイブ)〉の強化に役立てておるよ」
「博士、具体的には?」
「…………」
 急に黙りはった。
「具体的には?」
「それは……アレだよ」
アレ(・・)とは?」
 追い詰められた。
「……き……(きみ)の考えている通りだ、ケイン」
「何ですって! そいつはスゴい! 百人力(ひゃくにんりき)だぜ!」
 ええのん? それで?
「おかしい?」と、水を差すクルコクン。
「どないしたん? クルちゃん?」
 ウチの問い掛けに、パモカへと視線を落としたまま答える。
「この〈ネクラナレーダー〉の反応では、確かに、この基地内に〈ネクラナミコン〉は存在する」
「ネクラナレーダー……って、ドクロイガーはんから手に入れたヤツ?」
「そう」
「せやけど、それパモカやん?」
「私が作ったアプリ。ニュートリノブロードバンドを用いて〈ネクラナレーダー〉本体とリンクさせてある。そうでもしなければ、彼のサイズ基準では巨大過ぎるので活用には不向き」
「せやったら、本体は?」
「ツェレークの内部機構として組み込んである。そして、それ(ゆえ)にツェレーク自体にも〈ネクラナレーダー〉の機能が新規実装された」
「ふぇぇ? いつの間にか大改造されてんねんな?」
「それって、確か半径約一〇〇メートルまで特定感知する事が可能なのよね?」
「そのはず。ドクロイガーの技術力が確かならば……」
「じゃあ、ダメじゃん」
 リンちゃん、決めつけはった。
 微塵も信用しとらんねぇ?
「ふむ?」と、納得いかんクルコクン。「()(さき)モモカ、天条リン……(しばら)く、私は別行動を取る」
「はぁ? 何しようってのよ?」
「この基地内を隈無(くまな)く捜してみようと思う」

しおり