ウチと惑星テネンス Fractal.2
地平線から青の天幕と緑の
「クルちゃんの言うた通り、自然がいっぱいやね?」
『キュキューゥ ♪ 』
イザーナも喜んどる。
うん、ウチとリンちゃんは〈イザーナ〉と〈ミヴィーク〉で惑星へと降下した。ついでに言えば、今回はクルちゃんも〈エイ〉で同行や。
せやねん。
この子達、大気圏内でも運用可能やねん。
ほんでも、さすがに〈ツェレーク〉は無理や。
『大気濃度は……正常値か。バイザーメット無しで降りても問題無さそうね』
地表データの計測結果を把握するリンちゃん。
『天条リン、
クルちゃんからの通信指示や。
『
『間違いなく、その辺りに存在する』
『その辺りですって? あやふやな情報で
『私は所有する〈ネクラナミコン〉の意思を感受し、それを伝えているだけ。位置詳細までは特定できない』
う~ん、相変わらず『水と油』やんね?
ウチ、仲良うしてほしいのに……。
あ、せや!
「あんな? クルちゃん?」
『何?
「その子、何て名前なん?」
『その子?』
「うん、その〈エイさん〉」
『名前は、まだ無い』
文学猫みたいな返答されたわ。
「名無しの権兵衛はアカンよ? 可哀想やん?」
『じゃあ〈ゴンベエ〉でいい』
クルちゃん、短絡過ぎや。
『どーでもいいッつーの! 名前なんて!』
「アカン! ちゃんと考えてあげな可哀想やん!」
『名前の使用目的は個体識別。それなら〈ゴンベエ〉でも問題無いはず』
『う~ん……だけでもないのよね』
優しい苦笑いで通信を挟んできたのは、表マリーやった。
一方でクルちゃんは腑に落ちない様子や。
『マリー・ハウゼン、他にも用途があるの?』
『そうね。とりわけ共感性を意識したコミュニケーションでは名前って大事よ?』
「なら、マリー・ハウゼン……アナタに一任する』
『え? 私?』
「せや! マリーなら名付け親に適任やん? この子達や〈ツェレーク〉は、マリーが名付けたんやし?」
『私……って言うか、お爺ちゃんだけどね?』
ウチらにしてみれば大差ないよ? マリー?
『う~ん? そうねえ? 〈ツェレーク〉や〈イザーナ〉達は〈ハウゼン語〉なのよね……』と、
っていうか、いま聞き捨てならへん単語聞いたよ?
『……マリー?』
『何かしら? リン?』
『いや、その〈ハウゼン語〉って……何?』
『ああ、私のお爺ちゃんが作り出した新言語よ?
『ヤバい
……道理で聞き覚えのあらへん響きやったワケや。
『まあ、浸透しないで消えちゃったから、ハウゼン家にしか通じないけどね?』と、淡い苦笑に肩を
『いや、でしょうね! 意図的に
『で、確か〈イザーナ〉が〝博愛〟で〈ミヴィーク〉が〝勇敢〟……この〈ツェレーク〉は〝
どんだけ浸透しなかったか分かる気もしたわ。
だって、孫娘のマリーがウロ覚えやし。
『あと覚えているのは……えっと……そうそう〈ドフィオン〉辺りは、どうかしら?』
いや「どうかしら?」言われても分からへんよ? そもそも?
ハウゼン家だけに伝わる暗号みたいなモンやんか?
『んで、
『意味は〝不思議〟よ?』
何で此処に来て、その意味を選びはったん? マリー?
『はいはい、それでいいッつーの!』
リンちゃん、ついに丸投げや。
『了承した。では今後、本機を〈ドフィオン〉とする』
……受け入れはったねぇ?
何の
何や分からん展開に軽く困惑を覚えたウチは、眼下の大自然へと関心を逃がした。
延々と敷き広がる深緑の樹海。
と、変な物を見つけた。
「……あんな? リンちゃん?」
『は? 何だッつーのよ?』
「アレ、何?」
ウチからの示唆に、リンちゃんは対象を視認した。
『……異常なし』
リンちゃん、視認物体を無視しよったわ。
何や繁る樹々に紛れて、大きい脚が
ドデーンと逆立ちに
鋼鉄製の脚が……。
まるで『 犬●さん
「リンちゃん、アレってドクロ──」
『異常なし!』
無下に遮って断定しはった。
「天条リン、アレはドクロイ──」
『異常なしッ!』
クルちゃんからの指摘も無下に遮りはった。
語気強く。
どうあっても〝見なかった事〟にする気やね?
ウチの釈然としない思いを残したまま、イザーナとミヴィークとドフィオンは茫洋とした青空を泳ぎ去って行く。
ゴメンね?
ドクロさん?
「ほんなら、此処で待っとってね?」
『キュウキュウ ♪ 』
『ケルル! ケルル!』
『クルルルル……』
イザーナとミヴィーク──そして、ドフィオン──を森の中で待機させて、ウチらは惑星探索に降りた。
「とは言うものの、こっからどーしたモンかしら?」
パモカナビと周囲を見比べて、リンちゃんが零す。
「街で聞き込みする?」
森の中を並び歩き、ウチは顔を覗き込んで提案した。
ウチの半歩後ろには、トテトテと無表情でついてくるクルちゃん。ちなみにクルちゃんの〈 PHW〉は紫色や。
「そもそも街が在るかも分からないッつーの」
「リンちゃん、ナビ見とるやん?」
「初遭遇の惑星で地図なんか有るか。これは単に磁極を確かめてるのよ。方角だけは把握しておくように」
「ふ~ん?」
「だいたい在ったら在ったで、どう
「素直に
「……見知らぬ女がゾロゾロ集まって、マニアックなミスコン状態になるわ」
と、不意にクルちゃんが
「
「……えへへ ♪ 」
「何?
「クルちゃん、やっと会話に参加したねぇ?」
「……それが?」
「ウチ、何や嬉しい ♪ 」
「……そう」
「うん ♪ 」
「どーでもいいッつーの」
リンちゃん、物臭そうに
けど、ウチ見てたよ?
肩越しに盗み見て、クスッと優しく苦笑してたの……。
せやからウチ、リンちゃん大好きやねん ♪
テコテコと三人揃って歩き続けていると、ややあって正面に白い光が射し込んどった。樹木のトンネルや。
どうやら出口みたいやね?
ようやくにして繁る緑を抜けると、拓けた草原が
そこで一旦、ウチらは足を休めた。
作戦会議や。
「地図も手掛かりも無し……はてさて、どうしたモンかしら? 座標IP1600/EP800には間違いないけど、人間縮尺にすれば結構な広範囲だし……」
立ち尽くしながら思索に
「ねぇ、アンタ? 何か知らないの? その〈ネクラナミコン〉とやらの
「さて?」
振られたクルちゃんは、クルコクンで返しはった。
可愛いねぇ?
ウチより小柄やから、何や妹みたいや ♪
「眠たそうな顔して『さて?』じゃないッつーの! アンタ、その石コロと話せるんでしょ!」
「天条リン、
「……使えねー」
リンちゃん、ゲンナリ顔や。
ウチは
と、正面の樹林から女の人が出てきはった。
何や鎧装束を着た美人さんや。
うん、昆虫みたいな鎧やった。
ヘルメットの頭頂には大きな複眼が据えられとって、長い触覚が生えとる。
そういえば旧暦には『仮面ナンタラ』いう変身ヒーローものがあったらしいけど、あんな感じやろか?
せやけどフルフェイスやなくてオープンヘルム形状やから、可愛らしい美少女顔は露出してはった。繊細な線で
零れる銀色のロングへアが揺れると、まるで光のカーテンを思わせる綺麗さが演出された。
見た感じ、ウチより
妙に大人っぽくて、穏やかな雰囲気のわりには凛々しく引き締まったカッコよさも印象付ける。
あ、目が合った。
アッチもウチを見つけたねぇ?
予測外の遭遇に戸惑っているようやから、ウチはニコニコ笑顔で手を振った。
何や?
「磁力的には、あっちが北だから……」
リンちゃん、まだ考えとるねぇ?
あ、せや!
あの人、何か知ってへんやろか?
教えてもろうたら、リンちゃんの手間も省けるやんな?
ウチ、相手の所までトテテテテッと駆け寄った。