聳える雲入道
「namaḥ samanta vajrāṇāṃ hāṃ」
空中の妖しを狙っていた少年は、勢い余って
思わず抱き留める。人の温もりがする。
「おいら、受け止めてもらわなくても着地できるよ。」
少年はそう言って元道を振り払うと、他の妖しに向かって
3本の突起のある金色の仏具。妖しに対しては
「妖しを操っている大物がいそうだな。」
時は平安末期。
戦いになるのは稀で、今回のように宮殿の天子様を守るということがない限り、一般の衛士に任せる。
「狙われてるよ!」
「朱雀、大きい奴に行くぞ。」
共闘の彼の名は朱雀。自称であり四神とは関係ないが、身長程度は飛べるという身の軽さを持つ。
一度に数本の苦無を投げられるという特技は、焔の霊鳥の羽ばたきを想わせる。
「グォォォォ、ォォォォオオオオン。」
向こうに聳える雲入道。朱雀の三鈷に呪言を込めて攻撃させる。敵に対しても呪言を放つ。
呪言と共に礼装が靡いて、仄かに
「namaḥ samanta vajrāṇāṃ caṇḍamahāroṣaṇa」
「うりゃああああああああ。」
雲入道は妖力の核を破壊され、消滅する。
大物が消えていくにつれて、他の妖しは引いていく。