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第16話 仲直り

 朝起きて小屋で寝た事を思い出した。
 昨日は頭に来て出て来たんだったな。大人げなかったかもしれないけど、我慢できなかったもんな。これ以上は耐えられないからキレちゃったんだよな。クラマ達とも顔を合わせ辛いし、ケーキ屋が順調に行き出したらどこか違う町にでも移り住もうかなぁ。

 今日の予定を考えながら、朝食を食べ、町へ向かうために外に出た。

 うっ!
「ふ、二人とも、そ、そんな所で何やってるのかな~」
 小屋から出るとクラマとマイアが土下座して待っていた。
 ビックリしてすぐに言葉にできなかったよ。挨拶も忘れるぐらい驚いた。

「申し訳ございませんでした。少し調子に乗り過ぎていたようです。ご勘弁願えませんでしょうか」
 いつもの口調はどこ行ったの? 全然クラマじゃないみたいなんだけど。もしかして別人?

「申し訳ありませんでした。クラマに唆されたとはいえ、ご主人様に対する態度ではありませんでした。以後、慎みますので、どうかお許しください」
 クラマに唆されたね……こっちはマイアで間違いないわ。

「二人とも頭を下げてないで立ってよ。でも、この場所がよく分かったね」
「それでは、お許しいただけるのですか」
「許してくださるのですね?」
「そうだね、俺も大人げなかったとは思ってたんだよ。そこまでして謝ってもらって許さない訳にはいかないでしょ」

「おお、安心したのじゃ~」
「ホッとしましたわ」
 いつもの二人に戻ったね。そんなに許して欲しかったのかな?

「でも、なんでここにいるって分かったの?」
「ここは森の中です。森の中の事で分からない事はありませんから」
 あ、マイアは森の精霊だったね。そんな事まで分かるんだね。

「#妾__わらわ__#は此奴に聞いたのじゃ」
 クラマが示す先にはノワールがいた。

 裏切者め。

 でも、出て行く時にノワールで出て行ったのは見てただろうし、ノワールがクラマに逆らう事はできないだろうから仕方が無いか。
「じゃ、俺はこのまま町に用事があるし、お前達は砂糖の事でやる事があるんだろ? 夜には仲直りを兼ねて飲もうか」
「それは嬉しい申し出じゃが、今日はもう離れたくないのじゃ」

 ガシッ!

「私もこのままお供しますわ」

 ガシッ!

 クラマとマイアに片方ずつ腕をロックされて身動きできなくなった。
 柔らかいのが当たってるね、気持ちいい。じゃなくて!

「お、おい。お前達は砂糖畑を作るんじゃなかったの?」
「そんなのはいつでも作れるのじゃ。今はエイジといたいのじゃ」
「そうです、あんなのはいつでもいいんです。今日はずっとどこまでもお供します」
「でも、まだ小屋も収納して無いし」
「そんなのは#妾__わらわ__#が収納しておくぞえ」
 クラマが小屋を収納し、俺は町までドナドナされた。

 この前、マスターとランレイさんにドナドナされたとこなのに、今度はクラマとマイアにされるの? 
 結果、元孤児院までドナドナされました。
 ついでだから、お互いの自己紹介をした。俺からの話でお互いの事は知ってるんだけど、会うのは初めてだ。男組は何度も顔を合わせてるんだけど、女性陣は初めてだからね。

 男組も今は奴隷じゃなくなったし、市民証を発行してもらって馬で【星の家】との行き来をしてるから、俺がずっと付いてる必要もない。
 今日も俺より先に来ていたみたいだ。ピエールは来てない所をみると、【星の家】に残ってるんだな。

 今日もケーキ作りの練習をすると言うので、俺達は退散して店舗に立ち寄った。
 後は外装だけだから、周囲の建物から浮かないようなものにしたいな。それだと西洋風か、ケーキだし俺的には違和感は無いね。
 窓も大きく取ってあるし、壁の色の塗り替えとちょっと目立つ看板だけでなんとかなるか。
 それだと外注の方がいいかな? 衛星に頼めば簡単だけど、この世界の仕事ぶりも見てみたいし、頼んでみようかな。
 領主様の所は昼過ぎに行けばいいから、まだ時間はあるし、商業ギルドに寄ってみよ。


 商業ギルドに入ると受付に座ってたセシールさんがすぐに飛んで来た。
 あなた、今接客中じゃなかった? いいの?

「イージ様、今日はどうなさいましたか?」
「え、あの、外装工事の相談に来たんですが、あちらはよかったんですか?」
「あー、あの方の事ですか。後ろに控えていた者と代わって来ましたから問題ありません。外装工事の相談ですね」
 いや、問題アリアリでしょ。さっきまでセシールさんが応対してた人が呆気に取られてるよ。
 俺も焦って挨拶するのも忘れちゃったよ。

「では、どうぞこちらに」
 まったく気にする素振りも見せないセシールさんに、仕方なく付いていく。
 ホントすみません。俺のせいじゃ無いですからね。と、心の中で謝っておいた。

 今日は、初日に来た時と同じような一階の個室。
 その部屋に通されると、別の女性が飲み物を運んでくれた。
「え? 頼んでませんし、これって有料の時にしか出ないんじゃなかったですか?」
「もうイージ様はお得意様ですので、無料でございます。昨日の店舗買い取りだけで、この先十年分の貢献をされたのと同じでございます。普通の商売をされている方でしたら、分割払いをされる所を一括で支払って頂いておりますのに、飲み物程度の事でしたら無料で提供させて頂きます」

 普通は分割なんだね。でも、持ってるから一括でもいいんじゃない? でも、十年分の貢献度って凄いね。

「しかも、食材の購入ルートも我々を通して頂いてるものもあります。今後はより発展させて頂いて二号店三号店と規模を拡張されて行かれる事を期待しております」
 上手く行けばいいんだけどね。そこまで期待されてもどうなるか分かんないよ。

「それで、本日は外装工事の件という事でしたが」
「はい、外壁の色の塗り替えと補修をお願いできる業者を紹介して頂けたらと思いまして」
「外装だけですか?」
 意外な顔をするセシールさん。内装を言わなかったので意外だったのかも。

「はい、内装は自分なりの構想がありますので、外装だけをお願いしたいのです」
 もう大型冷蔵庫も入れちゃったしね。内装は完成しちゃってるんですよ。

「企業秘密もございますし、それは当然ですね。今まで無かった新商品なのですから、警戒する気持ちも分かります。分かりました、業者の手配はこちらで致します。ご希望の日時はございますか?」
「特にありませんけど、早い方がいいですね」
「では、早速確認して参ります。少しお待ちください」
 そう言ってセシールさんは急いで退出して行った。
 え? 今分かるの? 電話とか無いと思うんだけど。

 待つ事数分。
 思ってたより随分と早くセシールさんが戻って来た。
 待ってる間は、クラマとマイアにここがどこなのか、何しに来てるのか、昨日こういう事があったとか説明していた。

「お待たせしました」
「早かったですね、殆ど待ってないですよ」
 セシールさんは一礼して席に座った。

「今回は外装だけという事でしたので、この三件に絞らせて頂きました」
 セシールさんが三枚の紙を見せてくれた。
 連絡するんじゃなくてリストを持って来てくれたのね。

「内装もとなると、やはり建築業の方にお願いするのですが、今回は外装だけという事ですので、魔術師も入れてあります。早くて割高な魔術師と通常価格ですが魔法を使わず昔ながらの方法で壁塗りをする業者を選びました」
 と言って、三枚の内の二枚を紹介してくれた。

「それで、これはギルマスのボダコリーから提示するようにと言われた職人です」
 最後の一枚も見せてくれた。
 ボダコリーさん推薦か、凄そうだな。でも、なんでセシールさんのリストには入って無かったんだろ。

「ボダコリーさんの推薦ですか」
「……やはりそうなりますよね。お持ちするべきではありませんでした。それは忘れてください、こちらの二枚のどちらかを選んでください」
 少し後悔したように話すセシールさん。

「……もう見てしまったので忘れる事はできませんが、こちらから選んだ方がいいとセシールさんが言うなら従います。でも、事情だけでも教えてもらえませんか?」
「……わかりました」
 セシールさんは一息入れた後、話してくれた。

「この方はこの町一番の鍛冶師と言われていた方です。最近は何故か鍛冶仕事を一切やらなくなり、こういう建築や土木、料理など鍛冶とは関係のない仕事ばかりをしています。仕事内容は悪くは無いのですが、専門でもありませんので専門職の方と比べると少し出来栄えは落ちます。その分、割安の価格で雇えるのですが、私としてはこういう仕事をせずに鍛冶仕事に戻ってほしいのです」
「何か思い入れのある人なんですか?」
「…はい、私が長く担当を務めた方です。それはもう素晴らしい腕前の鍛冶師でした」
「なのに鍛冶師を辞めたと」
「はい、ある日突然店の看板を下ろしました。理由は誰が聞いても教えてもらえません。私はそんな彼のする事に納得が行きませんから、私から彼の事を勧める事はしていないのです」

 それって営業妨害にならないの? 不公平な担当って言われかねないよ?
「そんな事をしてもいいの?」
「いい訳ありません。でも、十年以上も担当として付き合って来た私にはそれぐらいの権利はあると思ってます。せめて辞めた理由だけでも教えて欲しかったのですが」
 十年以上って、セシールさんって今何歳なの? 見た目年齢は二十代半ばに見えるんだけど、美人だから若く見えるのか?

「何か変な事を考えてませんか?」
「いえいえいえいえ、全然考えてません! もしかして、付き合ってたとか……みたいな…はは」
「ふ、彼はドワーフなんです。恋愛対象には入っていません。尊敬はしてます……していましたが」

 おお! ドワーフキタ! 魔物、獣人、精霊と来たらドワーフだよね。あと、エルフとドラゴンは見てみたいかな。
 でも、まずはドワーフか。ドワーフだったら鍛冶師でバッチリじゃないの、なんで辞めたんだよ。これはアレだ、何としてもドワーフの鍛冶仕事を見せてもらわないと。

「セシールさん、この方に決めました。このドワーフの……ゼパイルさん。この人に頼みたいです」
「……施主様がどの職人を使うのかは自由ですので、私には止める権利はありませんが、私の思いは聞き届けて頂けなかったようですね」
 それは営業妨害だからね。俺はドワーフが見たいんだよ、そしてその鍛冶仕事も。

「い、いや、ドワーフを見てみたいかなぁって」
「では、こちらが書類です。いつも暇にしてるようですので、行けばすぐに会えると思います」
 あー、機嫌が悪くなっちゃったね。でも、俺はドワーフが見たいんだ!

「なんかすみません」
「いえ、問題ありません。今から行かれるのですか?」
 やっぱり機嫌が悪いよ、目がさっきまでと違うもん。でも、ドワーフは捨てがたい。

「いえ、今から領主様に呼ばれてますので、後日になりますね」
「! 今から領主様の城へ⁉」
「はい」
「という事はアンソニー様のご帰還祝いに出席されるのですか?」
「はい、行きたくは無いんですが」
「何をおっしゃってるんですか⁉ 今からという事は、まさかその格好で行かれる訳ではありませんよね!」
「いえ、僕はいつもこの格好なので。冒険者枠という事で何も言われた事はありませんが」
「そんな枠などありません! これは大変です、急いで手配させて頂きます」

 セシールさんは慌てて部屋から出て行った。
 数分後、戻って来たセシールさんの後には何着かの服を持った人が付いて来ていた。

「さ、イージ様。こちらにお着替えください」
 色もデザインも違う礼服のような堅苦しそうな服が机に置かれた。
「イージ様は少し背が低いようですので、少し大き目かとは思いますがその服装よりは断然こちらがいいです。時間もそんなにありませんので、早くお着替えください。うちのお得意様に恥をかかせるわけにはいきませんから」

 もう強引に服を持たされ更衣室に押し込まれた。拒否権など無い。
 仕方が無いから着替えてみると言われた通り大きい。
 俺が小さいって言うけど、165はあるんだ。まだ17歳だし、まだ伸びる余地はあるって。
 でも、このダブついた感じは嫌だな。

《衛星、この三着と同じものを俺にピッタリのサイズで作ってよ。できれば素材はもっといい物でね》

『Sir, yes, sir』

 青と紺と黒ね。無難に紺にしておこうが。黒でもいいんだけど、髪が黒いしこの世界じゃ真っ黒だと目立つんだよね。悪い意味で。

 じゃあ、借りた紺の衣装を収納して後日返すとして、残りの二着は今返しておこう。

「これがなんかちょうど良かったみたいです」
 部屋で待っていたセシールさんに、惚けて青と黒の衣装を返した。
「そう…でしたか? でも、なにか違うような……」
「じゃ、時間もあまり無いようなので、急いで行く事にします」
「は、はぁ…」

 セシールさんが不審に思ってたようだからさっさと退散した。
 後は領主様の城まで、また両脇をクラマとマイアに抱えられての移動になった。
 本当に今日は離れない気なんだな。気持ちがいいからいいんだけどね。
 でも、ちょっと恥ずかしい。

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