第０１話 久し振りの帰宅
久し振りに帰ってきた。
【星の家】とその隣にある我が家まであと十分もあれば着くだろう。
皆、病気なんかしてないだろうな、畑の方は順調かな？ などと考えて、衛星に作ってもらった道に入った。
ノワールに乗る俺が先頭、クラマ、マイアと続き、領主様に貰った馬が三頭付いてくる。
トレントが開けてくれる道を進む。あと、もう僅かで到着するという所でストップがかかった。
精霊三人衆だ。
三人横並びで平伏し、俺の行く手を阻む。
んー、後回しにしたい。今はこいつらと関わりたくないな。
そう思って、道の端にノワールを寄せて、何とか三人の横を通り抜けようとした。
こいつらが用事があるのはマイアなんだろうし、俺の事はスルーだろ？
と、思ってたら、三人も同じように横へ移動し俺の前を塞ぐ。
え―――、俺？ 何を絡まれるの？ もうちょっとで家に着くんだから勘弁してよ。
三人の前でノワールに止まってもらった。
「えーと……なにか？」
「はい、エイジ様。おかえりなさいませ」
「「おかえりなさいませ」」
真ん中のサンフェアリーが挨拶をすると、左のドライアドと右のフラウが声を揃えて挨拶を続けた。
「え、えーと…ただいま？ ……えっと、マイアは後ろだよ？」
「はい、存じております」
「あのー…」
「はい、なんでしょうか」
「間違ってない？ 俺はほら、前に君達が言ってた、弱そうで貧乏そうでモテないエイジだよ？ 君達の主のマイアは後ろだけど」
前に言われた事をそのまま言ったけど、かなりダメージが大きいな。自分で言うのは問題ないって言う人がいるけど、あれは間違いだな。かなりキテルよ、もう落馬寸前だ。
「エイジ様！ 私は弱そうや貧乏そうなどと言ってはおりません」
「エイジ様！ 私も貧乏そうやモテないなどと言ってはおりません」
「エイジ様、私は弱そうやモテないとは言ってない」
上手い！ 君達上手いな。でも、上手く言ったつもりなんだろうけど、俺にはバレてるから。言ってない事を説明しただけで、言ってる事は隠したんだな。
初めのサンフェアリーがモテないって言ったんだな。で、ドライアドが弱そうでフラウが貧乏そうか。ちゃんと聞けば自白したのと同じになってるよ、君たち。
でも、エイジってちゃんと言えてるね。前の時は言えなかったのに、練習したのかな？
「それにエイジ様って……急にどうしたの？」
「マイアドーランセ様からお聞きになっていませんか？」
「えーと……」
何か言ってたような……
そう思ってマイアの方を振り返る。
「この者達はエイジの従者になったと言いましたよね？」
「あっ！ そういえば！」
そういえばそんな話をしたなぁ。
「確か、還れって言えばいいって」
「きゃー！ お待ちください！ 少し話を聞いてください」
「キャー！ 少しお待ちを少しお待ちを」
「ひゃー！ ごめんなさいー！」
慌てて弁解を始める三精霊。
急にどうしたの？
「なんでそんなに慌ててるのか知らないけど、俺達は早く帰りたいから用があるなら早く言ってくれる？」
前の事で苦手意識もあるから、早くここから離れたいんだよね。
そんな中、マイアの呟きが聞こえた。
「エイジも中々の#悪__わる__#ですね」
「そうじゃ、エイジは#悪__わる__#なのじゃ」
クラマの同意も聞こえた。
今の会話のどこが悪なのさ。俺は早く帰りたいだけなんだよ。
「そんなにお時間は取らせません。ただ、私がエイジ様の従者としてこの地に留まる許可を頂きたいのです」
「私もです。できれば名前も付けて頂ければと思いますが、それは今すぐとは言いません。まずはこの地に留まる許可をください」
「私はここにいれればいい。エイジ様、お願い」
なんかフラウだけテンションが違うね。でも、言ってる事は同じなんだよな。
マイアに言われて名前は一応考えてたんだよね。ここにいたいんならいればいいし、道を守ってくれるんなら俺にとっても都合がいいし、この感じだともう悪口も言われないかもしれないしな。
「ここにいたければいればいいよ。道を守ってくれれば俺も安心するし、偶には畑やマイアの手伝いをしてくれれば助かるけど。そういうのもお願いできるかな」
「はい！ もちろんでございます」
「はい！ 他にも何かあれば何なりとお申し付けください」
「大丈夫、任せて。じゃあ、いてもいいの？」
「ありがとう、じゃあお願いするよ。あと名前だね。サンフェアリーはサーフェ、ドライアドはドーラ、フラウはプーランでどう？ ちょっと安易かもしれないけど、覚えやすいし可愛いと思うんだよね」
「おお！ 素晴らしい名前をありがとうございます」
「私がドーラ……ありがとうございます、非常にいい名前です。名付けのセンスも素晴らしいですね」
「プーちゃん……んふ、いい名前。気に入った。エイジ様、ありがとう」
それぞれに喜んでくれたけど、フラウはプーランだよ？ プーちゃんじゃないんだけど。
なんか気に入ってくれてるから訂正しづらいな。ニックネームという事にしておくか。
でも、なんでそんなに還りたくないんだろ。ここってそんなにいい所なのかな。
いてくれるって言うんなら別に反対も無いし、こっちとしては助かるけどね。
「エイジ、その精霊達が私を手伝う必要はありません。エイジの好きに使ってください」
「え？ でも、マンドラゴラとアルラウネの世話はどうするの？」
「それは別の者を既に召喚しております。こちらの事はご心配なく」
別の精霊を召喚したの？ そのうちここが精霊と妖精だらけになっちゃわない？
「それにしても良い名付けでした。流石に上手いものですね」
「そうなのじゃ、エイジは名付けが上手いのじゃ」
自分の手柄みたいに言うんだね。そんなに大した名前でも無かったと思うけど、褒められて嫌な気はしないね。
三精霊に道の管理を任せ、俺達はようやく【星の家】に帰って来た。
あともうちょっとってことで足止めを食らったからね、精神的に疲れたーって感じがあるよ。
でもね、そんな疲れを吹き飛ばしてくれる笑顔がここにあったんだよ。
俺達が帰って来た事を見つけた子供達が笑顔で出迎えてくれたんだ。
こういうのって嬉しいもんなんだね、前はそこまで思わなかったけど、半月振りに会う【星の家】子供達の笑顔での出迎えは、ここが俺の帰る場所なんだと思わせてくれる、そんな安心する笑顔だったよ。
疲れも一気に吹き飛んじゃった。
今回は町にいる時間がほとんど無かったからお土産なんて無いけど、次からは何か買って来てあげよう。
子供達は俺が抱えている物に興味津々だったけど、卵だと教えてあげると、「何の卵？」「いつ生まれるの？」「何で抱えてるの？」と、質問の嵐だった。
俺も何の卵か知らないし、いつ生まれるのかも知らないから、「そのうちね」とか「魔物かなぁ？」とか言って誤魔化しておいた。
院長先生にも帰還の報告をして、先に風呂に入った。
衛星の作ってくれた小屋にも風呂はあったけど、やっぱり風呂は大きい方が気持ちがいい。
旅の垢を落とすって昔の人は言ったみたいだけど、昔の人はうまい事言うね。確かに旅の疲れが癒される気分だ。
で、クラマとマイアはって？
あいつらの疲れの取り方は俺とは違うみたい。
帰還の報告が終わると、マイアはマンドラゴラの所へ、クラマはダンジョンに行ったよ。
マイアはマンドラゴラとアルラウネを見ると癒されるらしい。
あんなキモい人面樹で何が癒されるのかね？
クラマは俺といるとバトルが無いからモヤモヤするらしい。
護衛だから、気持ちの上で戦う準備をしてるのに、一度も魔物に出会わないから肩透かしを食らった気分になってモヤモヤするって言ってたよ。
その鬱憤晴らしにダンジョンで運動をしてくると言ってたね。
向こうのダンジョンでもまぁまぁ暴れたんじゃ無いの？ マイアと二人で行ってたよね？
キッカ達にはまだ会ってないけど、今日は山に魔物の討伐＆素材採取に行ってると院長先生は言ってたな。
俺達が出て行ってる間は毎日レッテ山に出掛けてるらしく、いつも日が暮れるまで頑張ってると院長先生も褒めていた。
俺が渡している肉から使うようには言ってるから、料理担当のシスターミニーも床下冷蔵庫から使ってくれてるけど、毎日キッカ達が獲って来る分だけでも十分やっていける程、獲って来るんだとか。
獲って来た分はキッカ達が保管してて、冷蔵庫の中が無くなったら補充してんだって。
凄いな、キッカ達はもう一端の冒険者だよ。
ランクアップはどうするんだろ？ 冒険者ギルドには行ってるのかな？
風呂から上がると部屋に戻り、少し寛ぐつもりで横になったら、いつの間にか寝てしまったようだ。
特に何かと戦った訳では無いんだけど、半月も護衛で旅をしたんだから、精神的には疲れてたんだな。
気がつくと辺りは真っ暗で、部屋には誰もいなかった。
こういう時って、最近ではクラマかマイアが横で寝てたりするんだけど、誰もいないね。
それにしても静かすぎるけど、いったい何時頃なんだろ。
「あーっ！」
卵が割れてる。
風呂上がりだったので抱っこ紐のまま、俺の横に置いてたんだけど、抱っこ紐の中の卵が割れていた。
でも、これって割れたというより、卵が孵ったんじゃないか？ 中身が何も無いぞ？
『I have just updated it.』
え？ 衛星？ 何かした？
英語は分からないけど、アップデートって単語が聞こえたけど。アップデートしたの？
この卵って衛星に関係するものだったの？
おいおい、この卵って地図に書いてあった×印の所にあった卵なんだよ？ なんでそんな卵が衛星と関係があるんだよ。
まさか、この地図って全部衛星に関係するものだったりして……はは…
これは確かめる必要があるな。衛星の事なら確認する必要があるし、俺の転生の秘密が分かるかもしれない。
さっきのアップデートで何かが変わったしれないよな。
変わったとしても、俺には分からないんだけどね。
衛星とは会話も出来ないし、できたとしても英語は分からないからね。
衛星の秘密が隠された地図？
これは、今後は地図を優先的に調べてみようか。
ダンジョンも一度入ってみる必要があるな。
