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第12話 半分達成

 翌朝も、俺がというか、衛星に朝食を用意してもらった。
 依頼主の三人にも大好評で、専属の料理人になってくれと言われた。
 もちろん、即、断ったよ。これはアイリスも泣かなかった、残念そうな顔はしてたけどね。

 出発のため、御者のネコ耳ターニャが馬を馬車に付けるため先に行った。
 他の馬はクラマが命令すると、クラマの後を付いてくる。
 天馬の三頭は、なぜかクラマを通り過ぎ、俺の所まで来てお礼を言ってくれた。

 口に出して話すことはできないんだけど、頭の中に言葉が響いて来たんだ。
 【念話】というらしいんだけど、天馬って話せたんだね。

 【念話】。クラマもマイアも持ってたな。クラマと出会った頃にも同じように頭の中に響く声を体験したけど、あれと同じだよ。
 さすが天馬だね、馬が話せるとは思って無かったよ。
 昨夜の食事が殊の外、美味しかったって言われた。衛星が何をあげたのかは知らないけど、満足してくれたんならオッケーだ。

 ただ、ちょっと面倒な事になった。
 クラマの#下僕__しもべ__#を辞めると言い出したのだ。『これからはあなたに付いて行きます』って言うんだ。#下僕__しもべ__#って辞める事ができるの?
 クラマは「好きにせい」って言うし、俺が天馬三頭の面倒を見る事になってしまった。
 #主__あるじ__#であるクラマが許可すれば問題ないらしい。

 俺は問題ありまくりなんだけど。
 もうターニャが待ってると思うので、道中に話し合うとしよう。

 昨日の続きを走り出した一行。
 まずは昨夜の継続を衛星にお願いしようか。

《衛星、ハイグラッドの町に着くまではここにいる人間も馬も天馬も守ってね。魔物からはもちろんだけど、人間からもね。それと、人間は殺しちゃダメだよ》

『Sir, yes, sir』

 これで大丈夫かな。あとは天馬と話し合おうか。

「えっと…ベエヤードさん? 少し話をしましょうか」
 俺が乗ってる天馬に話しかけてみた。

 あれ? 返事をしてくれないね。
「ベエヤードさん?」
「エイジ、そんな事では返事をせぬわ。ベエヤードというのは種族の名じゃ。エイジは人間と呼ばれて返事をするのか?」

 別の種族から呼ばれたら、しなくも無いだろうけど、気分のいいものじゃないな。
「だったらなんて呼ぶの? 名前があるの?」
「名前などあるわけが無かろう。おいと呼べばいいのじゃ」

 そんな呼び方だったら、もっと失礼にならない?
「それはちょっと……」
「だったら名前を付けてやればいいのじゃ。もうエイジの#下僕__しもべ__#になっておるようじゃからの」
 えっ! そうだったの? 俺の#下僕__しもべ__#って道を守ってくれてるトレントと一緒? 違うか、トレントは奴隷だったな。従者と#下僕__しもべ__#と奴隷の違いってなんなのさ。

 従者はお付きの者だろ? 身の回りの事とか世話をしてくれたり尽くしてくれる人の事だよな。うちのクラマとマイアは違うみたいだけど。
 #下僕__しもべ__#は無条件で命令された事をする人だよな。奴隷は? もっと下って事かな?
 それなのに#下僕__しもべ__#って辞められるんだ。俺のイメージしてるものとは全然違うなぁ。

 もう、難しく考えても分からなくなるだけだね。皆、仲間でいいか。

「名前なんか自分で好きな名前を名乗ればいいんじゃないの?」
「エイジが#主__あるじ__#になったのじゃ、エイジが名付けてやればいいのじゃ」
 さっきまでクラマが#主__あるじ__#だったんじゃないの? お前が付けてやってれば良かったんだよ。なんで俺が名付ける流れになってるの? 面倒なものは俺任せって事か? #主__あるじ__#って損じゃん!

「俺が付けるの?」
「そうじゃ」
 天馬達も期待の眼差しを向けんじゃないよ! 自慢じゃないけど、プレッシャーにはすぐ押しつぶされるんだから。

「白が二頭に黒が一頭だから、ペガサスがヴァイスでエポナがブランシュね、ベエヤードはノワール。これでどうかな?」
『我は気に入ったぞ!』『我もだ!』『ノワールか、良い名だ!』

 と、まぁ天馬達って全員♂で、暑苦しい話し方をするんだよ。
 三頭共、色で名付けたけど呼ぶ事は無いかもね。俺が全部に乗れる訳ないからノワールだけ覚えてればいいかな。
 名付けた限りは覚えようとは思うけど、そんな事言ってたらあの大量にいるトレントにも名付けをさせられかねないからね。それはマジ勘弁だよ。

 チラッとマイアを見たら、何か閃いたって顔をしてたから嫌な予感がするんだよね。

「エ・イジは名付けがうまいのですね」
 ほら来た! やっぱり名付けをさせられる流れになるのか? 絶対断ってやる!

「全然! まったく! あり得ない程うまくないよ。凄く下手くそだよ」
「そんな事はないぞえ。#妾__わらわ__#のクラマという名も気に入ってるのじゃ。エイジは名付けが上手いのじゃ」
「そうですよ、私も上手いと思います。帰ったらお願いしますね」
 こんな時だけ何でクラマが出て来るんだよ。やっぱりトレントに名付けるの? 嫌だよ、あんなたくさん名前を考えたくないよ。

「あの三人も喜ぶでしょう」
「三人?」
「はい、三精霊の事です」
 あー、あの精霊の三人ね。トレントじゃないんだ、それは良かったけど、精霊達には召還したマイアが名付けてやってよ。

「彼女達ははマイアが召還したんだからマイアが付けてやればいいじゃん」
「あの者達は既にエ・イジの従者になっています。エ・イジが名付けてあげてください」
 え? 初耳なんですけど。

「それっていつから?」
「今回、出て来る時に伝えてきました。エ・イジの道を守らせるのです、当然でしょう」
「三人共?」
「はい、三人共です」
 苦手なんだよなぁ、あの精霊達。また色んな事を言われそうで会いたくないんだよ。あいつらの言い方って、凄く傷つくんだよね。

「あいつら苦手なんだ。どうしても従者にしないとダメなの?」
「嫌なら還せばいいだけです。還れと言っておやりなさい」
「そんな事をしたら道を守るものがいなくなっちゃうよ」
 トレントだけでも十分な気はするけど、【星の家】の人たちが通るんだから安全なのに越した事は無いよね。

「その時には別の者を呼び出せばいいのです。こちらが我慢する必要はありません」
 そうなんだ、少しは気が楽になったよ。そうなると名付けは決定か。帰ってからだけど、何か考えといてやろ。


 旅の方は順調で、なーんにも邪魔されずに予定通り進んで行った。
 でも、夜になると、毎晩衛星が人間を拘束して連れて来るんだ。黒と赤の忍者装束を着てるから、噂の隣の領主関係者なんだと思う。
 それと、盗賊達。もう、十人を超えている。
 何かされたわけではないけど、解き放ってもまた連れて来られるだろうと思って、ずっと拘束している。
 衛星に荷馬車を三台作ってもらって、初めに俺達が乗っていた馬に曳かせている。
 馬車は三台作ってもらって一台は間者、二台は盗賊を積んでいる。

 捕らえた者達の管理は衛生に任せている。食事と排泄物だけ頼むと言ってある。ずっと寝かせてあるから、ほとんど必要無さそうだけどね。
 目的地に着いたら、町で引き渡そう。戦争中と言っても、冒険者ギルドもあるんじゃないかと思うし、兵士もそれぐらいの事はしてくれると楽観的に考えている。

 フィッツバーグの町を出てから八日目の昼にハイグラッドの町に着いた。
 荷物が増えただけで、旅自体は順調だった。衛星が捕まえてくるのはいつも夜だったから。
 ターニャもケニーも町にいるより安全だと喜んでいたよ。

 ハイグラッドの町に着くと、捕らえた盗賊を門の兵士に引渡した。面倒だから間者の事も盗賊じゃないかな? と言って引き渡した。アイリスの口添えがあったので、ここの兵士にも信用してもらえたみたいだ。
 もし、俺達だけだったら偽証罪になったかもしれないと、ターニャには脅かされたけどね。
 でも、そんな事は無かったみたいだ、盾が増えたぞって喜んでたから。少々疑わしい者は戦地に送られるみたいだ。実際こんな装束を着てる奴って怪しいしね。

 兵士の話では、あいつらは奴隷の首輪を付けられて、戦地の最前線に送られるだろうと言っていたから、もう会う事も無いだろうな。

 奴隷の首輪か。それがあったら、あんなにグルグル巻きに拘束しなくてもいいんじゃない?
 次からはそうするように衛星に言ってみよう。

 アイリスたちは、このままアイリスの兄である次期領主候補序列一位のアンソニーに会いに行くと言う。
 俺達はその間、護衛はしなくてもいいようだ。アイリス達とは別行動になるので、二日後の昼に門で待ち合わせる事にした。

 俺にはやりたい事があったから、この別行動はちょうどよかった。
 もし、別行動にならなかったら、また来ないといけない所だったよ。

 何にせよ、依頼の半分は達成だ。後は合流して帰るだけだな。

 それで、俺のやりたい事っていうのは、じゃーん! 地図だ。

 冒険者ギルドでランレイさんから貰った地図はアバウト過ぎるので、昨晩衛星に周辺の地図を作ってもらったんだ。
 なんとなく怪しいと思ってたんだけど、衛星の作った正確で緻密な地図ができて確信した。
 #常闇盗賊団__トコトコダン__#から頂戴した20枚の地図のうち、三枚がこの周辺のようなんだ。

 今日と明日の別行動で、行けるだけ行ってみようと思う。
 一枚はダンジョンだから、場所だけ確認できればいいかと思ってるんだ。二日も無いから時間を掛けられないしね。だから最後にして、時間があれば入ってみようかという程度。
 あとの二枚は何を示す地図なのか。凄く楽しみだ。

 へっへっへ、俺って冒険者みたいだろ。


 三頭の馬と馬車は門にいた兵士に預けたままなので、そのまま預かってもらう事にして。クラマとマイアを連れて町の外に出て行った。
 まず、目指すは町の西側。丘陵地帯になっている場所の近くになる。戦場の中心となっている川から少し離れてるだけで、丘の上からは戦地が見渡せるという理由から本部が置かれていた。
 地図を見る限り、同じ丘陵地帯でも広いので、本部があると思われる川から離れてるから大丈夫だと軽く考えていた。

 衛星が作ってくれた地図には、こちら側も相手側も本部を印してくれてたし、激戦地も印してくれてた。
 何ていう国と何ていう国が戦ってるかも知らないんだけどね。だってこの国の名前も知らないんだから。
 それぐらいは知っておかないといけないな。アイリス達と合流したら、それぐらいは聞いておこうか。

 地図が示す一箇所目。ここをAポイントとしよう。次がBポイントでダンジョンがCポイントだな。
 Aポイントには三十分で着いた。馬は預けてきたし、クラマもマイアも俺と同じく天馬に乗っているから速い速い。明るいうちから飛んで目立ちたく無いからと言って走ってもらったけど、それでも馬の何倍も速かった。
 飛べばもっと速いと言われたけど、それは遠慮させて頂きます。ホント飛ばなくて良かったと胸を撫で下ろした。

 いや、速く走って来るのは怖くは無かったんだよ。これは負け惜しみでも見栄を張ってるわけでもなくて、ホントに怖くなかったんだ。
 天馬って速く走っても凄っごく安定してて、乗ってても全く揺れないし風もそんなに受けないんだ。感じる風もそよ風程度、何か魔法で壁でも作ってるのかもしれない。
 だから、スピード感も全然感じないから怖さも無い。負け惜しみじゃないんだよね。飛ばないでって言ったのは怖かったからだけどね。

 ホントこれなら鞍もいらないって言うクラマの言葉も納得だよ。今まではゆっくりだからと思ってたけど、この速さでこの安全性。俺向きだね。

 まずは、この地点を調べてBポイントに向かうんだけど、Bポイントに向かうには激戦地を抜けないと行けないんだよね。
 飛ぶか迂回するか、その時の状況に応じて考えよう。
 飛ぶかもしれないのか……それは無しの方向で考えよう。

しおり