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第08話 護衛依頼の前に

 
 翌朝、朝食の時に食堂で、今日から護衛依頼でしばらく留守にする事を告げた。

 少し前からそれらしい事は伝えてあったんだけど、今日から行くっていうのは昨日決まったとこだし、昨夜は反省会でそれどころじゃ無かったからね。

 クラマは当然付いてくると言った。マイアは戻って来てないけど、知らせに行ったら行くって言うかもしれないな。

「キッカ達はどうする?」
「……うん」
 キッカはどうも迷っているみたいだ。何を迷ってるんだろ。
 それはケンの言葉で判明した。

「姐さん、ここはあっしらが守ってますから、どうぞ行ってやってください」
「そっす! おいらもこの辺の魔物には負けないぐらい強くなったっすから!」
「ちょっとばかし強くなったからってヤスは偉そうに言うんじゃねぇよ。お前はまだ五合目をちょっと越えた当たり位までしか行けねぇだろ?」
「そりゃアニキには敵いませんが、ダンジョンでは活躍したじゃないっすかー」
「確かに、ヤスの索敵スキルには助けられたな」
「そうっすよね! おいらもやる時はやる男なんです! もうゴブリンから逃げてた頃と一緒じゃ無いんす!」
 偉そうに言うヤスにはキッカとケンの冷ややかな視線が向けられた。


 もう『#漆黒大蛇迷宮__ピュートーンダンジョン__#』は制覇したそうだ。
 全五十階層からなるダンジョンで、最終のボスにはピュートーンという真っ黒な大蛇がいて、色んなものを吐きまくって来たそうだ。
 猛毒、麻痺毒、炎、酸、神経毒を、その大きな口から吐いて来たらしいが、クラマが岩融(大薙刀)で大連撃を放ち、その風圧で全てを吹き飛ばし、そのまま#なます__・・・__#斬りにしてしまったそうだ。

 なます斬りって……粉々になるまで斬ってしまったって事でいいかな?

 クラマがいるとはいえ、キッカ達のレベリングも兼ねたダンジョン探索だったから、最終ボスみたいな強い魔物以外はできる限りキッカ達が倒していた。その甲斐あって、今では皆レベル100に届こうかというところまで来ている。キッカLV98、ケンLV91、ヤスLV73。

 ヤスだけが少し低いのは、索敵スキルに目覚めた時に、自分だけ先に逃げる事が多かったので、キッカ達よりレベルが低い。
 その後、ケンに怒られ、キッカに怒られ、クラマに見捨てられて一人でダンジョンに置き去りにされてから、心を入れ替えて戦うようになった。
 これがさっきのキッカとケンの冷ややかな視線の理由だ。

 そんな話を朝食と夕食の時に聞かされていた。
 俺もそっち組がいい。だって楽しそうだし、何より俺が望んでいた冒険者の姿だよ。まだ一度も魔物を倒した事が無いんだよ? これで冒険者は名乗れないよな。


 キッカはこの【星の家】まで魔物が来ない事は分かっているが、それでも院長先生をはじめ、戦えない子供達だけを置いて行くのは心配だ。クラマはイージに付いていくだろう。それなら、自分が残って守るしかないと思っていた。
 何事も無ければそれでいい。でも、もしも、何かがあったらと思うとイージに付いて行く訳にはいかないと思ってた。

 それなのに、ケンとヤスはイージに付いて行けと言ってくれる。
 その気持ちだけで十分だった。
 イージには付いて行きたいけど、小さい頃から三人の中でリーダーとして育って来たのに、ここで我儘を言うわけには行かないとキッカは考えていた。

「お前達の気持ちは嬉しいけど、やっぱり私は残るよ」
「姐さん……」「姐さーん」

 キッカとケンとヤスは残るんだな。
「こういうのは今回だけじゃ無いんだし、これからもこういう事が多くなると思うんだ。今回の護衛依頼がうまく行ったら、どんどんと護衛依頼を受けようと思ってるんだよ。次の機会に行けばいいよ」
「そうなんだね。じゃあ、私は次の時に付いて行くよ」
「その時は、あっしがしっかりと留守を守れるようになっておきます」
「おいらも頑張るっす!」

 話は纏まったみたいだね。クラマにもひとつ言っておかないとな。
「クラマも一緒に行くとは言ってるけど、冒険者ギルドに登録できなければ留守番だからね」
「なんじゃ、その登録というのは」
「今回の護衛依頼は人間の冒険者ギルドって組織の仕事なんだ。俺やキッカ達はそこに登録してるから仕事が回って来たんだ。クラマも一緒に行きたければ冒険者ギルドに登録しないとダメなんだよ」
「仕事のぅ。人間とはまた面倒な事をするのじゃのぅ。飯さえ食えればどうとでもなるであろうに」

「そうは行かないんだよ。人間は得意な分野に分かれて仕事をする事によって、生活を豊かにする事ができるんだよ。家を建てる人、料理を作る人、服を作る人、色んな事を一人ではできないだろ? だから、得意な事をする事によって、お金をもらって、そのお金で欲しい物を買ったりするんだよ。食べるにしても、美味しい物が食べられた方がいいだろ?」
「なるほどの。エイジは意外と賢いんじゃのぅ」
 意外とってのは余計だけど、俺だってただの受け売りなんだけどね。誰かがこんな事を言ってた気がするだけだよ。

「あとは、マイアに出発の報告をしてから町に行こうか。じゃ、キッカ、後の事は頼んだよ」
「うん、任せて」

 キッカ達に見送られた後、マイアの所へ寄った。
 一応、毎日来てるんだけど、もっと来いって煩いんだよな。来てもベビー人面樹がたくさんいるだけで、俺には気味が悪いだけなんだよ。ちょっと大きくなってきてるし、あんまり来たい場所じゃないんだよな。

「マイア、今日から出発する事になったから当分帰って来れないと思う。何かあったら……」
「では、参りましょうか」
「えっ? どこへ?」
「エ・イ・ジがこの地を離れるというなら私も付いて行くに決まっております」
「い、いや、別に決まってはいないと思うんだけど。この人面……いや、マンドラゴラとアルラウネはどうするの?」
 確か、育て方が悪いと大変な事になるとか言ってなかった?

「もうここまで育てば任せても大丈夫です。道を守っている三精霊も道の方は一人でも大丈夫だと言ってますので、こちらを交代で見てもらいます。ご安心ください」
「ご安心くださいって……マイアは強いから一緒に言ってくれるのは心強いんだけど」
 本当に付いて来るんだね。
「では、行き掛けに声を掛けますので、その時に少し時間をくださいませ」

 ま、それぐらいは問題ないね。
「それと、クラマにも言ったんだけど、人間の冒険者ギルドに登録をしないと一緒には行けないんだ。もし、登録ができなければ留守番だからね」
「登録ですか。どのような事をするのでしょうか」

 えーと、何をしたっけ? 登録用紙に記入して水晶で能力を測っただけだな。あっ! 登録の前に町に入れるのか? 水晶で思い出したよ。町への入門の時に犯罪歴を調べる水晶に手を翳したよな。クラマなんかヤバいんじゃないの?

「登録もそうだけど、町に入る時に犯罪履歴を調べる水晶でチェックがあったよ。二人とも大丈夫?」
「人間の作った物など#妾__わらわ__#に通用するものか」
「そうですね、私にも通用しないと思います」
 本当に? なんか心配なんだけど、二人がこう言うんならこれ以上はいいか。

「でも、町に入れなかった時点で留守番決定だからね」
「心配無用じゃ」
「はい、問題ありません」

「じゃあ、町に入れるとして、冒険者ギルドの登録は名前と年齢と得意なものを書くんだけど、文字は書けるの?」
「文字とは何じゃ」
「はい、文字って何でしょうか」
「……分かった。それは俺が代わりに書くよ。年齢だけど、人間の振りをするわけだから、二人とも二十歳って事にしておこう。得意なものだと、マイアは精霊魔法でいいと思うけど、クラマは火魔法でいいよね」

「勝手にするがよい」
「はい、私には分かりませんので、エ・イ・ジに全てお任せします」

「あとは……能力を測る水晶があるんだけど、二人の能力がバレると大騒ぎになるかもしれないな」
「人間の作った物など通用せぬと言ったではないか。本当の事を見せぬようにすればいいのじゃな?」
「そんな事ができるの?」
「エイジには見られてしもうたが、普通は#妾__わらわ__#の能力は見れぬはずなのじゃ。人間の作った魔道具程度に見破られるわけが無かろう。そんな物は#妾__わらわ__#の好きなように操れるぞえ」
「それは私も同じです」

 確かに二人のレベルからすると、そういう事ができてもおかしくないよな。元#主__ぬし__#と森の精霊だしね。
「じゃあ、操作できるんなら名前はそのままでいいから年齢は二十歳、レベルは100ぐらいにして、ステータスも1000平均ぐらいにしててよ。これでも強すぎるかもしれないけど、弱いと一緒に行けないかもしれないし、どうせ二人が強い事はすぐにバレそうだしね」

「あい分かった」
「わかりました」

 ここまで自信を持って言うんだから二人ともできるんだろうな。

 町まで向かう途中で三精霊と会い、マイアがベビー人面樹の世話を申し付けて、樹のドライアドがメインで世話をして他の二人がサポートをする事になった。
 手が空いてる時は、この道だったりキッカ達の様子を見たりするようにも言われていた。

 助かるなぁ、俺も心配はしていたけど、これだけの体制なら安心して出発できるね。

 町の入門審査では、クラマがポカして犯罪者認定を受ける事も無く、無事に入門できた。
 入門料は俺が払ったよ。だって二人ともお金なんて持ってないし。
 でも、普通に審査を受けたら犯罪者認定受けるんだろうか。ちょっと試してみたいけど、黒だった場合の事を考えると、とても試す気にはならないね。

 町に入ると寄り道をせずに冒険者ギルドへ。クラマもマイアも人間の町に入るのは初めてらしく、町並みをキョロキョロして珍しがっては「ほ~」とか「へ~」とは「なんと」とか言ってるから、一緒に歩いていると恥ずかしい。

 今は昼頃だから冒険者ギルドも空いている時間帯だ。
 今日ももちろん犬耳アイファの所に行き、クラマとマイアの登録をしてもらった。

 なんと、二人はBランクスタート。俺が言った通り、レベル100、ステータス1000にしたんだけど、やっぱりレベルが高過ぎたみたいだった。
 実績にもよるけど、ステータス平均が1000を超えたものはAランクになるらしい。

 じゃあ、俺もAランク? いや、まだ回りの人達は俺がレベルは1だという認識みたいだし、実績も無いしね。
 でも、二人は俺の従者なんだし、従者の二人の方がランクが上って格好がつかないよな。
 だけど、この二人は本当に強いし、順当なとこか。
 もちろん二人も『#煌星__きらぼし__#冒険団』のパーティ登録もしておいた。

 でも、今日はアイファと何も話せなかったな。二人の登録をしたらすぐにランレイさんを呼びに行くように後ろに頼んでた。俺もクラマとマイアが煩く言うから依頼ボードを説明したりしてたらランレイさんが来て別室へ。
 ランレイさんがケーキを食べるのを見てクラマとマイアもランレイさんに倣ってホールで食べ始める。
 ホール食いが三人。もうケーキは当分食べたくないな。

 ランレイさんに、今日の日が落ちたら領主の城に行くように言われると、クラマとマイアが町案内を強請るので、仕方なく町案内をする事になった。
 ランレイさんには領主の城の通行証にもなるのでと、依頼書を無くさないようにと渡されると、クラマとマイアに引っ張られるように冒険者ギルドを出る事になった。

 それから町の見物をして時間を潰してたらすぐに時間が経ってしまった。
 俺もそんなに知ってるわけでもなかったので、町の散策が楽しかった。
 楽しく三人で散策してると、あっという間に日が暮れたので領主の城に向かい、城門検査をパスし、領主の城に入った。

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