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第十四話 ハットリさん、勇者候補に出会う

 食堂の朝勤務までは時間がある。
 そんなわけで今は総合斡旋所の角を借りてのお話しあい。
 ここで無視しては食堂まで押しかけられないと危惧しての事だった。

「俺たちは、勇者候補のパーティなんだ!!」

 そうなのか、と職員に目線で尋ねれば、肯定が返ってくる。

「数ある勇者候補の中でも彼女らはトップクラスです。それは、私が保証します」

 そんな保証は要らない。

 その言葉を飲み込む。
 こちらとしては断る口実が欲しいのに、断りにくい理由を言わないで欲しい。

 改めて、四人を観察する。

 少年は、金髪がやや茶透けて見える高貴さの薄い人物だ。この国では貴族はオール金髪。その金具合で高貴さが問われる。茶色が入る為、少年はただの貴族よりは柔らかい印象を受けるのだが、おそらく末端とは言え貴族に属してはいるのだろう。非常識さも納得だ。
 確かに勇者だと言われたら納得の雰囲気と、フェイス。イケメンめ。
 金属の胸部鎧に手甲、スネ当てと騎士には及ばないがそれなりに固い装備をしている。

 女性三人は、それぞれ妖艶、清楚、幼げの三種類。よくもここまできれいに属性を振り分けたのだと感心してしまうギャルゲーみたいなメンツだ。三人とも後衛のようで、杖を持ち、軽装。

 冒険者は何でも屋だが、傭兵まがいも多い。
 戦いを生業とする者たちだ。
 そう言う者たちのパーティはどんな任務にも対応できるよう、バランスよく人員を選ぶと聞く。
 前衛が少年なら、残る三人は火力、回復、索敵に優れているのだろう。
 魔法使いを索敵に回す贅沢は、さすが貴族がリーダーだな。
 魔法の索敵力は忍者一人に匹敵する。広い範囲の索敵に、仲間ごと姿を消す魔法もある。しかも魔法使いは空を飛ぶ。熟練の索敵魔法使いはすごいのだ。
 そう、メイド長のようにね。

 ちなみに一度メイド長に飛んでいる姿を見せてもらったが、とてもシュールだった。だってあの人、直立不動のまま空をギュインギュインと飛ぶんですよ? 高速で。あんなの忍者じゃ無理ですわー。

 懐かしい人物の奇行を思い出して心の中で笑っていると、少年がメンバーの紹介を始めた。

「まず俺たちのことを知ってもらいたい。そうすればきっとパーティに入ってくれると思うんだ!」

 彼らはこの街で有名人、知らぬ人はいない、とは先の職員の言だ。
 最近この街に入り、日中はずっと食堂にいて、夜間でしか冒険者らしい活動をしていなかった私は知らなかったが、昨日の食堂でも彼らの話題で持ちきりだったくらいには信の置ける情報だった。

 つまり皆、彼らの事を知っているのだ。あの食堂には腕利きの冒険者もいた。それなのにパーティに入ろうとはしなかった。

「見てる分にはいいんだけどなぁ」
「そうだな、観賞用だな」

 なんて話も聞いた。

 職員は目を逸らしている。
 きっと、私が彼らの自己紹介を聞いてパーティに入るとは思えないのだろう。それは今までの実績が物語っている、という訳だ。

「そうか……、時間はあまりないが好きにしてくれ」

 投げやり気味に答えれば、なぜか少年は嬉しそうだった。
 ああ、きっと皆はもう彼の話を聞きすぎてすげなくあしらっているのだろうな。久しぶりにまともに相手されて喜んでいるのが伝わってくる。
 その純粋な喜びように、悪い人物ではないのは分かる。しかし同時に思う。ではどうしてその人物のパーティに誰も入ろうとしないのか。不安が募る。

 そんな渋い心情のまま彼らの話を笑顔で聞く。
 紹介は、妖艶、幼げ、清楚の順番のようだ。いつもそうしているのだろう。その自然な流れに、何度自己紹介を人にしたのか。それが勝手に身につくほどの繰り返しだった過去に苦労が透けて見えて少しホロリと来る。

 若くして苦労しているんだな、と。

 そうやって同情したのはここまでだった。

「彼女は……、火属性の魔法を扱う魔法使いだ」
「得意はファイアショット、それの弾幕よ。よろしくね」

「そして彼女が――」
「私は火属性を扱う魔法使いよ。爆炎で相手は木っ端みじんにするの!」
「おいおい、ちゃんと紹介させてくれよ」
「いいじゃない。私、自分の事は自分で出来るわ」
「そうかい? 最初に出会った頃なんか、一人で着替えも」
「それ以上は言わなくていいわ!!」

 ……、なんだろうこれは。
 いやな予感がすごくする。

「そして彼女が、火魔法使いだ」
「業火で燃やし尽くしてあげる」

 おい。
 おい!
 おい!!

 後衛の女性、三人とも攻撃魔法使いかよ!! それも全員火属性!!
 偏り! 偏り考えろよ! パーティバランスおかしいだろ!!

 いや、待てよ。
 ゲームだとこう言うのもあったな。
 確か前衛が盾持ちで、しかも回復能力持ち。負担を一手に引き受けて大火力でごり押しする。
 もしかするとそんなバランスの取り方なのかもしれない。火力が高ければ高いほど、確かに前衛の負担は減る。そう言う構成なのかもしれない。

 いやいや、ゲームならいざ知らず、死んだら終わり、腕が飛んでも足が切れても終わりな現実で、そんな事するか? 普通、しないだろ……。

 半ばやけになりつつも、私は尋ねざるを得なかった。

「それで、勇者候補たる君は?」

 よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに胸を張り、

「俺こそは、火属性の聖剣を持つ超火力アタッカーです!!」

 ……ンッ!
 守り!
 守りどこいった!!

「俺たちは――」

 拳を掲げて勇者候補の少年は宣う。

「違う勇者候補のパーティとの合同討伐でも、俺たちのパーティが常にトドメを刺しているんだ!! 他とは実績が違う!」

 火属性の攻撃魔法使い三人に、火属性の聖剣を扱う勇者候補。
 この四人による高火力の力押し。

 それ、

 オメーらがごり押しでラストアタックもぎ取ってるだけじゃねーか!!
 ゲーム的に言うと、ハイエナ行為だろ、それ!!

 ツッコミたい。
 しかし突っ込まない。忍者だから。

 どうです? なんて顔を少年がしている。自分の実績を人に認められたいのか。承認欲求が強いのだろう。勇者を目指すなんて目立ちたがりだと思っていたが、これは純粋ではなく後先考えていないのだと気付いた。

 そりゃ、こんな危険なパーティに誰も入ろうとはしないだろう。

 盾役?
 後ろから燃やされるぞ。

 回復役?
 盾役もおらず火力特化で防御ゼロの仲間にする必要がない。気付けば即死してるぞ、こいつら。

 答えは、もう好きにしてくれ、だった。

「そうか、話は聞いた。もういいな?」
「……、え?」
「もう時間だ。私は以前から契約している仕事に行かなければならない」
「と言うことは、仲間になってくれるんだな!」

 興奮気味に世迷い事を宣う少年に、きっぱりと「ノー」と告げる。

「私はしがない旅の者。勇者候補たちとの行動は身に余る。他を当たられよ」

 呆然とする少年を置いて、私は食堂へと向かう。
 後方で

「仕事は本当の事ですからね。それに、無理な勧誘はダメですよ」

 と職員がきちんと仕事をしていたので大丈夫だろう。

 変な出会いであったが、同時に面白いと少し思ってしまった。

 勇者。
 いるのかよ、と。

「旅に出て良かったな」

 いつか彼らが本当に勇者となって、なにかを成し遂げた時

「あの時、勇者からの勧誘を断った忍者が私だ」

 と誰かに語って聞かせる機会があったらいいな。
 勇者候補のパーティにいきなりスカウトされたと手紙に書いて送ったら、皆はどう思うだろうな。街の冒険者がお断りを入れているような候補だからさもありなんとなるか。勿体ないと言われるか。
 いずれにせよ酒の肴になる程度には面白い話だった。

 と、すっかり終わった話だと私は思っていた。

 彼らは執念深かった。
 あるいは

 私の価値をそれだけ高く見積もっていたのだろう。

 そういう意味では、私の見積もりが、情報収集が甘かったのだ。

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