解放
「お待たせ」
顔を上げると、さっきの少年が大きな斧を抱えて立っていた。どこからそんな物を持ってきたのだろう。鎖を切るには十分すぎるほどで、鎖どころか体まで切れてしまいそうな大きさだった。
「少し鎖が残ると思うけれど、我慢してね」
「鎖は残ってもいいから、手や足は切らないようにやってもらえるかしら」
「頑張ってみるよ」
頑張ったからって、間違えて体を切ってしまったらたまったもんじゃないわ。少年は斧を持ちあげる。重いのかプルプルと震えているようだ。こちらも緊張からか身体が震えてきた。
「動かないで」
いや、貴方の方こそ動かないでほしいものですわ。少年がゆっくりと斧をさらに上へ上へと持ち上げる。恐怖から目線を逸らしてしまう。
しばらくして、鈍い金属音が響いた。
………
……
…
「もっと上手に切って欲しかったわね」
「鎖が残ってもいいって言ってたじゃん。それに感謝されてもいいと思うけどな」
「なっ、奴隷のくせにあなたはさっきから生意気なのよ!」
「奴隷って何を言っているのさ。それよりも、ここはどこなの?」
「あなた、自分がいる場所も分かっていないのね。ここはアネルダム王国の森の外れにある廃墟よ」
「アネルダム?聞いたことがない場所だな」
「アネルダムを知らないっていう人は初めて見たわ。教育はちゃんと受けたの?あなたこそどこから来たのよ」
「来たというか日本っていう国に居たんだけど、気が付いたら突然この廃墟で目を覚ましたんだ」
「日本?聞いたことがない場所だわ」
「僕も日本を知らない人は初めて会ったよ」
彼がどのような人物なのか全然掴めない。もっと情報を引き出さないと。
「私の名前はソフィア。ディアリス公爵家の長女よ。あなたのことも教えてもらえる?」
「僕はアケル。16歳。貴族なんて立派な身分でもなければ奴隷でもない、ただの平和を願う一般市民さ」
「アケル……? 変な名前ね」
「僕もそう思う。なんでこんな名前付けたんだか。おかげで小さい頃はよくイジられてたよ」
アケルという少年……と言っても私と1つしか歳が違わないことに驚いた。日本という国の人は見た目が老けにくいのだろうか。名前と年齢は聞き出せたけど、まだ分からないことが多いわね……。
「こんな牢獄で話をしていたら気が変になりそうだ。とりあえずここから出ようよ。ソフィアさん」
「さん? 私の名前はただのソフィアよ」
「分かった、ソフィア」
彼の言う通り、こんな牢獄にいつまでも居たくはなかった。ここから出ようと、久しぶりに立ってみる。すると、思うように足に力が入らず倒れてしまう。そう思った瞬間。
「あっ……」
アケルが私の肩を支えてくれたお陰で、なんとか倒れずに済む。
「大丈夫? あんな状態から急に歩くのは辛いだろうから僕の肩に掴まって。ゆっくり歩いて行こう」
「悪いわね……」
足首に残った鎖を引きずりながら、暗闇の中を進んでいく。