7、くそっ、やりずらい!
そして、夜明けと共に勇者達を叩き起こし、簡単な食事を摂らせる。
今日の朝食は干し肉とキノコのスープに固パンだ。準備も片付けも簡単と、エミーリオとルシアちゃんでテキパキと出発準備が整えられていく。
「それじゃ、手筈通り、結界を解くと同時にリージェが空から攻撃と挑発。引き付けてくれている間に勇者たちは先行し、縄張りを過ぎたところで待機」
アルベルトが改めて作戦を説明するのを、真剣に聞く生徒達。それでも道中襲われる可能性があり、青褪め震えている者も。まぁ、実際襲われたらアルベルト達が何とかするだろ。
「行くぞ!」
戦闘に参加しない奴らが馬車に乗り込み、殿組が武器を構えたのを確認してバルトヴィーノが叫ぶ。それと同時にルシアちゃんが結界を解除した。
グォォォオオオオオオ!!
一晩中結界を取り囲んでいた熊達は即座にそれに気づき、歓喜の咆哮を上げる。
一斉に駆け寄ろうとする黒い塊目掛け、俺は両翼から光線を放った。
『ヴィー、すまん! 討ち漏らした!』
「問題ない! 大きい奴は任せる!」
眼下からガキッと金属がぶつかり合うような音が聞こえる。ガラガラと遠ざかる音は馬車だろうか? 手筈通り脱出できたようだ。
『こっちだウスノロ!』
俺は急降下すると、馬車を追おうとする熊達の鼻先ギリギリのところを飛び回って挑発する。
噛み付こうとする奴、叩き落とそうとする奴を華麗に躱しながら目の前を飛び回ってやると、狙い通り俺に引きつけられてくれたようだ。
最初の攻撃で仕留めたのは二頭。俺が大きいのを引き受けるとして、バルトヴィーノ達で残りが一対一か。まぁ何とかなる、……よな?
「はぁぁっ!」
クドウが気合と共に斬りかかる。武器は大剣か。
ただ罪人を処刑させられていただけではないらしく、なかなか様になっている。
一方、ミドウは杖を構えているところから察するに魔法メインのようだが、最初の熊の咆哮ですっかり戦意を挫かれてしまったらしく腰を抜かしてプルプル震えて泣いていた。
『ミドウ、戦えないならルシアの所まで下がれ! ルシア、結界を!』
「はいっ!」
俺の声に応え、ルシアがミドウを下がらせ小さな結界を張る。
まぁ、初戦じゃこんなもんだろ。女の子が好戦的なのもどうかと思うからこれで良かったんだ。
「血飛沫と共に踊れ!」
大きい個体だけでなく、バルトヴィーノ達と切り結んでいる奴も巻き込むことを狙って上空から広範囲に斬撃を飛ばす。
バルトヴィーノと比べるとまだまだ危なっかしいクドウと切り結んでいた奴の両前足が綺麗な弧を描いて吹き飛んでいった。すかさずクドウが止めを刺す。これで残り三頭。
上からブレスを連発すれば楽そうなんだが、バルトヴィーノ達を巻き込むわけにはいかないので使えないのがもどかしい。
まぁ、このままこうして空にいる限り奴らには手も足も出せないがな。楽勝モード、と思っていたら翼の先を巨大な炎の塊が掠めていった。
「!?」
飛んできた先を見ると、あの一番大きな巨体の口から炎が噴き出しているではないか。熊の分際で炎を吐くとは! くそ、俺もブレス使いてぇ!!
そのまま二撃三撃と炎を飛ばしてくる。掠めるだけでけっこうな熱量だ。直撃すれば消し炭になってしまうかもしれない。バルトヴィーノ達を気にかけてる場合じゃないな。
とにかくこいつをバルトヴィーノ達から引き離そう、と顔先を右へ左へ飛びながら少しずつ森の方へ飛んでみる。しかし、数歩はついてくるのだが一定の距離まで来ると、バルトヴィーノ達の方へと向き直ってしまう。
まるで俺が彼らを庇いながら戦っているのがわかっているかのようだった。
「くそっ、やりずらい!」
どうする?!
俺の持っている攻撃技はブレスか竜爪斬かメルトスラッシュ。どれも広範囲の遠距離攻撃だ。バルトヴィーノ達を巻き込まないためには、バルトヴィーノ達と熊の間に入って攻撃しなければならない。だが、バルトヴィーノ達を背にした時にあの炎弾が飛んで来たら? 避けられない。
「待てよ?」
俺は何だ? 暗黒破壊神様だ。俺に不可能はない。俺様こそが最強!
俺は自分に暗示をかけ、一か八かの攻撃に出た。
夜中にこっそり練習していた接近戦。イメージはダンジョンの中で遭遇したあの黒いドラゴンの戦い方。
俺はドラゴンだ。鋭利な爪、強靭な牙、そして頑強な尻尾。全てが武器になるはずなんだ。
「グォォォォォ!」
「うるせぇぇええええ!」
俺は再び俺めがけて炎を吐きだそうとしている熊の真上に飛び上がると、身体を丸めて翼を畳んだ。俺自身が一個の弾丸となりくるくると回転しながら一直線に熊の頭へと体当たりする。
ドッ、と強い衝撃の後、地面に落ちる。
『――≪リージェ≫がスキル≪星堕とし≫を習得しました――』
あ、なんかスキル判定された。
練習すれば威力も上がりそうだな。
「目が、まわ……うっぷ」
目の前で星がチカチカ回っている。そうとしか表現のしようがない感覚の中ふらふらと立ち上がると、顎のなくなった熊が怒りの形相で俺を睨んでいた。どうやら吐こうとしていた炎弾が口の中で爆発したらしい。
一瞬背筋がぞわっとして、咄嗟に身を捩る。俺がさっきまで転がっていた場所が大きく抉れていた。