(閑話)小さなきのこ達の日常
「ふふふんっふーふーふん♪」
「「ふーふふふふーん♪」」
ここはセントゥロの西にある森の中。
探索を任されたの森はオチデン連合国・ノルド・セントゥロ・アスー皇国に囲まれる形で縦に伸びている広大な土地だ。
そんな広い土地の探索をたった50体ほどでやれっていうんだから、本体も人使いが荒い。まぁ、本体も俺なんだがな!
今日も今日とて輪唱しながら南下中。
最初は200号までの大所帯で西の端まで行って、オチデンにたどり着いた。そこで便宜上101号~200号と呼ばれる俺がそのままオチデン国内の探索に。
で、11号~60号と呼ばれる俺達が北上して今度はノルドにたどり着いた。そこで土からぼこっと生えてきた4号と合流して現在に至るってわけ。
地図の空白もだいぶ埋まってきて、残るはセントゥロの東側の森と、各国の国土とその外側。外側がどの程度世界が広がっているかわからないが、人の住める領域がかなり狭いというのは理解した。
これも暗黒破壊神の影響ってやつかねぇ。モンスターが現れなきゃ、人間どこでも住めるはずだからな。特にこの世界の人間にとっちゃ魔法で水も火も出せるからライフラインとか気にする必要ないし……。
「ん? 何だあれ?」
自然物の中、明らかに不自然な物が見えてきた。
まるで切り出したかのような直角の岩。遠目だと灰色の箱のようにも見える。
しかしたら、岩に偽装した家かもしれない。
「行ってみるか」
ここまで来る間にも、森の中でたくさんの人を保護した。黒髪または黒眼と言うだけで迫害され森に捨てられた子供達の成れの果てだ。衰弱している子もいれば、人間に復讐を誓っているのもいた。
俺が保護できたのはまだ誰かを信じたいって思っているような奴だけだ。
森の中には隠れ棲んでいる黒の使徒と呼ばれる連中もいて、誰かれ構わず襲うような奴らだ。なるべく関わらないよう保護した子達にも言った。
近付くと、入口のような隙間があるのも見えてくる。実際にたどり着くと、やはり真四角の建物のようにしか見えなかった。
中は真っ暗だがかなり広そうだ。誰かが住んでいてもおかしくはない。
「さぁて、何が出るかな?」
鬼が出るか、蛇が出るか。なんて言ったらこの世界じゃマジで鬼が出そうだが。
俺は魔法で明かりを作り出すと、分体達と共に中に踏み込んだ。
♢♦ ♢♦
「なー聞いてるー?」
「聞いてる聞いてる」
11号達の調査も進み、製図作業もだいぶ進んできた。
滅亡したノルドはひとまず後回しにするとして、同時にオチデンの国内やセントゥロの国内も探索しているからそれを図面に起こすのも大変だ。手が足りなすぎる。
「聞いてるから、とっとと分体出しやがれ」
「俺が酷いっ?!」
俺のスキル《増殖》はとても便利だが、制限がないわけではない。
まず、分体である俺達には使えず本体からしか出すことができない。ステータスも本体の約100分の1だし、一度に出せる分体の数も100体までだ。その100体が消えたら、なんて制限じゃないだけましか。一晩経てばまた100体出せるようになるからな。
出てきた分体も本体も全にして個、個にして全。全部俺のはずなのに、考えていることはみんな違う。
「ぶっちゃけ今は
「酷いっ?!」
いやさぁ、だって猫の手も借りたいって時に、目の前で手伝うでもなく分体たちが人使い荒いだの、構ってくれないだのさぁ、こう……イラッ……とね?
そもそも本体が人使い荒いだの酷いだの、俺が人使い荒いだの酷いだの、本体も11号も言ってるけどどっちも
ごめんなさいすいませんごめんなさいごめんなさいと土下座する本体の頭をどつき胞子を出す。しばらく待てばほら、
「村長様村長様―」
もうこれ以上出ないって所まで叩いてたんこぶが山になった本体に手伝わせつつ、分体201号~270号には村の拡張工事を指示して残った30体と再び製図に取り掛かっているとパタパタと軽い足音が聞こえてきた。
入ってきたのは痩せた黒髪の幼女。先日11号が拾った子だ。名前はないと言うのでリナと名付けた。
いっぱいの野菜を両腕で抱えてニコニコと嬉しそうに入ってきたリナは、本体を見て固まった。
「でっかい村長様?!」
「そうそう、実は俺達は100体合体で巨大化できるんだよー」
「凄いです! さすが村長様!」
本体の言葉を疑うことなくキラキラした目で見てくるリナに、罪悪感からか目を逸らす本体に蹴りを入れる。
「嘘だから。それで、どうした?」
「え? 嘘なんですか? え? じゃぁこっちが村長様でこっちは?」
混乱するリナに話を促す。
目的を想い出したリナが野菜を俺に寄越してくる。日本から持ち込んだナスとキュウリだ。他に収穫が早いって理由で豆苗、長期保存ができるってことでジャガイモも持ち込んでいる。
この村に関しては自重していない。どうせ他の集落と交流がないしな。
持ち込んだ野菜の種苗は土魔法と光魔法と水魔法と火魔法のコンビネーションで季節を無視した異常成長した。魔法凄い。
そんな奇跡の収穫物を両腕に抱えたリナは表情がくるくると変わる可愛らしい子供だ。森の中に捨てられていた割には明るさを失わず、他の子達のムードメーカーになってくれている。その笑顔に、俺もつられて笑顔になった。
「えへへ、見てください! こんなに立派な野菜が収穫できました! これも村長様のお陰です!」
「おお、凄いな! 皆頑張って育てたもんな! よし、今夜は初の収穫祭といくか!」
「収穫祭?」
「女神様に、いっぱい実らせてくれてありがとうございます、また次もお願いしますって祈って美味しく食べるんだよ」
「わぁ、楽しみです!」
「良いなぁ」
「ん? 本体は帰るんだからいらないだろ?」
「俺が酷い!」
リナに野菜を厨房に運ぶよう指示し、分体たちを畑の手伝いに回す。
その背を見送りながら、俺は久々に自分の眼で部屋の外の景色を見た。
分体達や保護した子供達が協力し合って家を建て畑を造り土地を開墾した。防護柵だって完璧とは言えないが、いざとなったら逃げる時間を稼ぐ分には十分な出来だ。
初めは何もなかったこの場所が、いつの間にか立派な村と呼べる規模になっている。
子供ばかりという異様な構成ではあるが、笑顔が溢れている。
「やっと生活基盤ができてきたな」
「そうだな。でもまだまだ足りない」
本体も感心したように村を眺めて言う。
だけど、この家も食べ物もまだまだ俺のスキルに頼った部分が大きい。
家の建て方、家具や日用品の作成、野菜の育て方、狩りの仕方、魔法の制御……。まだまだ教えなければいけないことがたくさんある。いずれは文字の読み書きや計算だって教えてやりたい。
この子達が、自力で生きていけるように。いずれ必ずくる別れの日のために。
「それまで、この子達の笑顔が曇ることがないよう頑張らなきゃな」
手が足りない。時間も足りない。
でも、子供達も手伝ってくれているし、きっと何とかるだろう。だから……。
「次は、ノルドとオーリエンの間の街道に分体100体な」
「俺が酷い?!」
「あっちの方の地図がまだ空白なんだよ」
危険を冒して探索している他の分体やリージェ達には悪いが、いつまで続くかわからないこの平穏な村での生活を今は楽しもうと思う。