妹リサの洗礼
あれから5年の月日が過ぎて、セラ達3人は15歳の収穫祭の日を迎えていた。
セラの妹リサも今年10歳となり、洗礼を受けスキルに目覚める予定だ。
「セラおねえちゃん、今日は私が主役なんだから去年みたいに騒ぎを起こさないでね」
「ははは……自重しておくわ」
5年の間にセラは美しく成長した。 白く透き通る肌は更に磨きがかかり、藍色の髪は後ろで馬のしっぽの様にまとめられている。 背丈も160cm近くまで大きくなっているが、村の若い連中が残念に思う事が1つだけ有った。
それは胸の大きさが、リリアの半分程度しかないことである。
ちなみに先程リサが言っていた去年の騒ぎというのは、洗礼でスキルを覚える事が出来なかった女の子にセラが
「私とキスしても良いなら、何か1つ役立ちそうなスキルをあげる」
っと言い出すと、大勢の村人たちの目の前でスキルを与えてしまったのだ!
当然村中は大騒ぎとなり、セラが得た称号も露呈しかけた。 しかしトマス達が懸命にごまかしたので称号まではバレなかったが、セラの異常さはより知れ渡る結果となった。
「でもリサ、どうしても欲しいスキルが有ったら相談してね。 私はリサの頼りになるお姉ちゃんなんですから!」
「頼りになるというか、心配の種の方が正しいかも」
「ひど~い!そんな事を言う悪い妹はこうしてくれる!!」
リサを片手で抱きかかえると、セラは村の服飾工房へ向かい駆け出した。
神の試練の後で知ったのだが、セラは魔力以外の上限も10倍となっていた。 お淑やかとは程遠くなってしまったが、いざという時に大切な者を失ってからでは遅い。 セラは魔力を上げる訓練の合間に、他のステータスを上げる様にした。
そして現在、彼女のステータスはこうなっている。
力=350(上限500)
魔力=5250(上限9999)
体力=400(上限650)
素早さ=390(上限500)
冒険者として名が通っている者の平均ステータスが150~180で、洗礼の時に村に来た冒険者くずれみたいな連中は高くてもせいぜい60~70。
この時点でセラは超一流の冒険者、もしくは国一番の猛者すら凌駕する力を備えているが、単独で行動することは決して無い。 何故なら、セラの後ろには頼もしい2人の仲間(彼女)達が居るからだ。
リリアが鉄壁の魔法障壁を張り、リィナがMPポーションを次々と作り出す。 そのお陰でセラは力を思う存分発揮出来た。
【ラクスィの3女神】
冒険者でもないのに既にこんな異名が付いてしまっている3人だが、実際のところ女神ではなく破壊神という認識の方が強い……。
服飾工房に到着したセラはリサを降ろす、工房の前では店主の仕立屋ゴブリンが待っていてくれた。
「それじゃ、頼んでおいたのを出して。 仕立屋ゴブリン」
仕立屋ゴブリンは店の奥に一旦戻ると、中から綺麗な包みを1つ持ってきた。
「リサ、これが私からあなたへのプレゼント。 これを着て、洗礼を受けてちょうだい」
「おねえちゃん、これ開けても良い?」
「どうぞ、そうしないと着れないしね」
許しが出たので早速包みを開けてみると、中に入っていたのは純白に染め上げられたワンピースのドレスだった。
「これは!?」
「えへへ、ようやくミスリル繊維に様々な色を染色出来る様になったの。 だから、最初にあなたに着て欲しかったんだ」
普段は得意気に話すセラが照れくさそうにしているので、リサも何だか気恥ずかしくなる。
しかし、そのお陰で好意を素直に受け取る事が出来た。
「ありがとうおねえちゃん、これ着てみても良い?」
「うん、洗礼の開始まで時間も無いから急いでね」
工房の試着室で着替え始めたリサは、ここである違和感に気付いた。
(あれ? 何でこのドレス私のサイズにピッタリなの?)
記憶を辿ってみるが採寸された覚えが全く無い。 着替え終えたリサが不思議に思っていると、仕立屋ゴブリンの目が妖しく光った。
「どうやらサイズもピッタリみたいね、寝ている間に採寸させた甲斐が有ったわ」
今、聞いてはいけない言葉を聞いた気がした。 リサが恐る恐るたずねる。
「あの、おねえちゃん。 寝ている間に採寸させたって一体?」
「実はね、1週間ほど前にリサが寝ている隙を見て仕立屋ゴブリンに採寸させたのよ。 あなた、1度寝ると朝まで起きないでしょ? ゴブリンも採寸しやすかったみたいよ」
うなずく仕立屋ゴブリン、言葉が通じない筈なのにセラとは何故か気が合うのだ。
「おねえちゃん……今度から採寸する時は、私が起きてる時にして」
「良いけど? だけどそろそろ時間よ、急いで教会に行きなさい」
「あっいけない! おねえちゃん、また後でね!」
「転ばない様にするのよ」
教会へ走っていくリサを見送ると、セラも洗礼の儀式を見に行こうとのんびりと歩き始めた。 ……すると
「セラ、ちょっと待ってくれ!」
急に呼び止める声が聞こえたので振り向くと、今年16歳となり先に成人を迎えたタシムが駆け寄ってきた。
「ハァハァ! こんな所に居たのか……随分と探したぞ」
「どうしたのタシム、私に何か用?」
「ああ、お前に聞きたい事が有ってな」
「私に聞きたい事?」
セラは首をかしげた、このタシムから質問される様な事をした覚えは無い。
「お前、来年16歳になったらリリアやリィナと一緒に村を出るって本当か?」
「ああ、その事? ええ本当よ、私たち3人は村を出て冒険者になるの」
「行くな」
「はぁっ!? 何であんたにそんな風に命令されなくちゃいけないのよ!」
だが苛立ちを募らせるセラの思考を停止させる言葉をタシムが言い放った。
「俺、お前のことが好きなんだ。 来年成人したらこのまま村に残って、俺の嫁になってくれ!」
まさか男から告白される日が来るとは、流石のセラも予想していなかった・・・。