本当の意味での新しい人生の始まり
「実は俺、そこに居るボッチに呼ばれた転生者で、しかも前世じゃ40歳過ぎても彼女1人出来なかった男だったんだ!」
セラは誤魔化す事をしなかった、2人に嘘をつきたくなかったのだ。 子供相手に何でそこまで? と言われるかもしれないが、それがセラなりの誠意のつもりだった。
「………」
リリアが口を真一文字に閉じて、沈黙を貫く。 どんな非難や罵声を浴びる事も覚悟した上で打ち明けた。 彼女の口から最初に出る言葉次第で、セラは16歳を待たずに1人で村を出る事になるだろう。
「セラ、私を騙して楽しんでいたの?」
予想通りというか、リリアの口から出た言葉はセラが今までしてきた事を問い質すものだった。
「ちがう! 最初は確かにやましい気持ちも有った、女の子と初めて手を握れて天にも昇る様な気持ちにもなったり、初めてキスした日なんて興奮して寝付けなかった。 でも今はリリアやリィナの事をそんな風に見ていない、いつまでも一緒に居て欲しいと思う。 もしかしたら好きになり始めているのかもしれない、2人のことを……」
上手く説明出来たとは思えていないし、都合の良い言い訳に聞こえたかもしれない。 だが、それを判断するのはセラではなくリリアとリィナだ。
「言いたい事はそれだけ?」
「うん、それだけ」
少しずつ冷静さが戻ってきたので、言葉遣いも直ってきた。 セラの言葉を反芻する様にリリアはしばらく目を閉じていたが、やがて両目を開くとセラの顔を正面に見据えて最終判断を下した。
「セラ、私の前まで来て目を閉じて」
(やっぱり、今まで黙っていたから怒らせちゃったな。 でもこれも自業自得だ、ボッチの事もあれこれ言えないや。 平手打ちの2・3発は仕方ない)
好きになり始めていた2人との別れの儀式のつもりでセラはリリアの前に立つと目を閉じた。
しかし、どれだけ待っても平手が飛んでくる気配が無い。 薄っすらと目を開けようとした時、両頬に手が添えられるとリリアはセラに唇を重ねたのだった。
「!?」
驚くセラ、するとリリアが天使の様な笑顔を振りまきながら答えてくれた。
「えへへ♪ 私に叩かれるとでも思った? そんな事なんてしないよ、だってこれでセラが私の王子様だってはっきりと分かったんだから」
「王子様?」
「セラ、私が父さんとこの村に来た日の事を覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。 村の人達、リリアの瞳の色が左右で違う事を怖がってた」
「そう、でもセラはこの瞳の事を綺麗と言ってくれたわ。 凄く嬉しかった、でもね私がセラの事を意識し始めたのは収穫祭の日からなの」
リリアは少しだけ頬を染めて、キッカケを語る。
「冒険者くずれに攫われそうになった時に助けに入ってくれたセラを見て、私ね胸がドキドキしたの。 まるで絵本に出てくる王子様みたいに格好良かったから」
「………」
「そして怖くて震えていた私にあなたがキスしてくれた時、こう思えたの。 『セラが男の子だったら良かったのに』って」
セラの目を見つめながら、リリアは告白した。
「あの日からセラは私だけの王子様なの、だから前の人生が男の人だったとかは関係無い。 私はセラの事が大好きです!」
勢い良く抱きつくリリアを抱きとめながらも、未だに状況が掴めないセラ。 すると今度は、リィナがセラに歩み寄ってきた。
「私に女の子同士の良さを教えてくれたのはセラ様です、今更普通の恋愛に戻れる筈が有りません。 ですから、最後まで私の面倒を見てくださいね」
そう言うと、セラの頬にキスをする。 2人が許してくれた事でセラの心は大分軽くなった。しかし……
(本当にこれで良いのか?)
蚊帳の外に置かれていた神々は、ポカーンとした顔で様子を見ている。 とりあえずセラが野に放たれるのが先となったので、神々が頭痛の心配をする必要は暫く無さそうだ。
『さてと話も上手くまとまったみたいだし、我らも帰るとしよう』
リアジュウが切り上げて帰ろうとすると、セラが礼を言った。
「あの……色々とご心配をお掛けしましたが、一言言わせてください。 この世界に転生させてくれて、本当に有難うございました!」
『うむ、この娘達と仲良くするのだぞ』
「それで……その、もう1つお願いを追加してもいいですか?」
セラが何かもじもじしているのが、逆に怖い。 それでもリアジュウは念の為に聞く事にした。
『お願いの内容による、どんな願いだ? 言ってみろ』
「はい……あの、女の子同士でも子供を作れる様にする事は『却下に決まっておろうが!!』
とんでもない願いを言い出す転生者だ、それを可能にしてしまえば倫理感だけでなく生態系にも影響が出てしまう。
『くれぐれも変な気だけは起こさない様に、最悪は我らの総力を上げて討ちに来ねばならなくなるからな』
最後に念押しして神々は去っていった。 残された3人は改めてずっと一緒に居る事を誓い合うと、少しだけ背伸びをして大人のキスを試してみるのだった。