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第04話 仲間GET?

 
 町に入るニ時間前、ツインテールの女盗賊だけを衛星に起こしてもらった。

「ん、んん~……」
「起きたみたいだね」
「! 誰だい、あんた!」
 もう三度目のはずなんだけどなぁ。

「俺はエイジ。君たちを捕えた冒険者だよ」
 お、なんか俺って格好いい! こういうの言ってみたかったんだよね。

 まだ身体の縄は解いて無い。暴れられたり逃げられたりすると面倒だからね。
「あたい達を捕えただって? あんたがかい」
 そう言ってツインテール娘は辺りを見回した。
 馬車からは見える位置だけど、少しだけ離れた所に衛星に運んでもらったんだ。他の奴らが起きないとも限んないしね。衛星が眠らせたんだから大丈夫だとは思うけど、念のためね。

「みんなはどこに行ったんだい。あんたの仲間が見張ってのかい」
「他の盗賊団の人達は、あそこの馬車に乗ってるよ。全員眠ってるけど君のように拘束されてるよ」
「ちっきしょー、ドジ踏んじまったなー。これであたいも奴隷落ちか」
 やっぱり奴隷になってしまうんだな。可哀相だよな。

「ねぇ君、名前はなんていうの? なんで盗賊なんてやってたの?」
「名前ー? そんなもん聞いてどうすんだよ。なんであんたにそんな事言わないといけねぇんだよ」
 それは御尤も。確かにおっしゃる通りです。

「君の運命は俺が握ってるんだよ。言う事を聞いた方が利口だと思うんだけどな」
「それはどういうこったい」
「あの盗賊団、トコトコ団だっけ? ……プッ。あいつらを突き出すのは決定なんだけどね。君ってこの辺の事をよく知ってそうだからさ、俺が雇ってあげようかと思ったんだよ」

 なんでこんな事を考えたかというと、やっぱりこんな若い#娘__こ__#が奴隷なんて可哀相だと思ったのが一つ。
 後は仲間が欲しかったんだ。今回一人でホント寂しくて心細かったんだよ。
 別に仲間じゃ無くても友達でもいいんだ。今の俺には友達なんていないからね。アイファ? まだ友達って程じゃないと思うよ。今の所、食事に行く約束はしてくれたけど、まだ行ってないしね。

「今なんで笑ったんだよ。それに雇うって、あんた大丈夫かい? あたいは盗賊なんだよ」
「だからなんで盗賊をやってたのか聞いてるんだよ。あと名前もね」
「なんでって、そりゃあ……生きるためだよ」
「生きる為? 他に仕事は無かったの?」
「あたいら孤児に仕事なんてあるわけねーだろ! あんたあたいをなめてんのか?」

 孤児なんだ、孤児だったら仕事が無いの? そういう世界なの?
「だったら俺が雇えば仕事ができるじゃん。そうだなぁ、月に金貨十枚でどう?」
「金貨十枚~⁉」
 あれ? 少なかった? 宿で泊まるのに一泊銀貨十五枚だろ? 一週間で金貨一枚ちょっとじゃん。それに飯も食わないといけない訳だし、欲しいものも買ったりすると金貨十枚ぐらいだと思ったんだけどな。

「わかった、じゃあ金貨二十枚でどう?」
「二十枚⁉ あんた大丈夫か?」
 まだ少ないのか?
「じゃあ、金貨四十枚ならどう?」
「……」

 なんか睨まれてるんだけど。怒ってる?
「ゴメン、じゃあ金貨百枚だ。これでどう? まだ足りない?」
「ひゃ、ひゃ、百枚~⁉ あんた本当に金貨百枚くれるんだろな。それが本当なら雇われてやってもいいぜ」
 おっ、やったね。やっぱり少なかったんだ。やっと納得してくれたね。

「じゃあ、縄を解くよ。暴れないでね」
「あたり前ぇだ! 女に二言は無ぇぜ。雇われてやるって言ったんだ、絶対ぇ暴れやしないぜ」
 ずっとこの口調だね。こっちが本来の話し方なのかな? 孤児だって言ってたし、そうなのかもね。

 ナイフで縄を切って拘束を解いてやった。
「はい、じゃあ、これが約束の金貨百枚分の白金貨だよ」
 白金貨一枚をツインテール娘の前に出した。
 確か金貨百枚で白金貨一枚だったよね。金貨だと今は百枚も持ってないからね。

「お、お、おおおお! し、白金貨! 初めて見たぜぇ。あんた凄ぇ金持ってんだな。このまんまだと落としちまうかもしれねぇし、直接ポケットになんか入れるも怖ぇよ。あんた、なんか入れもんは持って無ぇのか?」
 入れ物か、入れ物ね。あ、この収納バッグならいいんじゃない? 衛星に作ってもらお。

《衛星、これと同じ収納バッグを作ってよ》

『Sir, yes, sir』

 パサッ

 衛星が俺の持ってる収納バッグと同じものをすぐに作ってくれた。

「はい、これに入れなよ」
「い、今のはなんだよ、魔法かい?」
「うん、ま、そんなとこだね」
「ちっちぇ鞄なんだな」
「あ、これは収納バッグだから結構入るよ。たぶん、あの馬車だって全部入ると思うよ」
「しゅ、収納バッグ~? あんたそんなんも持ってんのかい? そ、そ、それもあたいが貰ってもいいのかい?」
「うん、欲しいんならあげるよ。その代わり約束は守ってよ」
「女に二言は無ぇって言っただろ。あたいを信用しろって」

 あんまり信用はしてないんだけどね。でも、これから信用できる仲になれればいいとは思ってるよ。

 ツインテール娘は収納バッグを受けとると、白金貨を収納バッグにしまった。


「名前は? まだ教えてくれないの? もう俺が雇ったんだから、教えてくれてもいいんじゃない?」
「すまねぇ、まだだったね。あたいはキッカってケチな女さ。以後お見知りおきを」
「うん、キッカだね。俺はエイジ、よろしく」
「エイージだね。しっかし呼びにくいねぇ、通り名は無ぇのかい?」
「通り名って……通り名は無いけど、ニックネームなら最近付いたかな。イージって言われる事が多いね」
「じゃあ、あたいもイージって呼ぶよ」
 やっぱりか、やっぱりイージになるのか。エイジってそんなにいいにくいのか?

 あと、これだ。これは絶対に聞いておかないと。

「キッカさん。これだけは正直に答えてください」
「なんだよ、全部正直に答えてるぜ。あと、さんもいらねぇから」

 べんさんも同じ事を言ってたね。
 
「わかった、じゃあキッカ。君さ、町の門って通れるよね。犯罪歴って無いの?」
「犯罪歴? 町の門って検査の事を言ってんのかよ。あれは殺しとか強盗に強姦、奴隷屋に人を売ったりしなきゃ出ねぇよ。ちっとぐれぇの盗みなんかじゃ出ねぇのさ」

 やっぱりだ、やっぱりこの#娘__こ__#は重罪人じゃ無いんだよ。もし重罪人だったら流石に仲間には出来ないと思ったんだ。
 でも、町に入る時って検査されるのに町の中で出会ってるから罪人判定されてないと思ったんだよね。だから仲間にできそうだと思ったし、雇っても問題ないって思ったんだよ。

 これなら雇ってもいいよね。

「それなら、俺の方の条件はクリアだよ。キッカからは何かある?」
「あたいからは……何もねぇよ。金貨百枚も貰ったんだ、これ以上言っちゃあバチが当たっちまうよ」
「あるんだね」
「……」

「何でも言ってみてよ。俺の出来る事なら考えてみるし、出来ない事なら出来ないって言うからさ」
「……いいのかい?」
「うん、言ってみて」
「あいつらの事なんだ」
「あいつらって?」
「あたいと一緒にいた奴らの事なんだけど、あいつらも助けてやってくんねぇか」
「んー……」

 仲のいい奴らがいるんだね。別に助けてもいいんだけどさ、このまま放免する訳にはいかないよね。だって、また盗賊をするんだろうし、そうなると誰かが被害を受けるかもしれない。俺が雇えばいいんだろうけど、雇っても何をさせればいいんだろ。

 そんな事を考えていると、俺が渋っていると思ったのかキッカが頭を下げてきた。

「頼む! お願いだ! あいつらとは同じ孤児院で育った仲なんだ。ずっと一緒にやってきた仲間なんだ。ここで見捨てるなんて、やっぱりあたいにゃできねー。この金も返したっていいんだ、なんとかお願いできねーか」
 そう言って土下座をするキッカ。

 別に助けてあげてもいいんだよ俺は。いや、ホント。
 ただ、助けるにしても、このまま放してまた何かやったら俺のせいにされそうだよね。だから何かいい方法が無いかと考えてるんだけど……

 キッカに頭を上げてもらって、その辺を聞いてみることにした。

「ねぇキッカ。そいつらってこのまま放しちゃうとまた盗賊しない?」
「ぐっ……しないとはいいきれねぇな」

 やっぱりそうだよな。でも、それってさっきキッカも言ってたけど、仕事が無いからなんだよな。じゃあ、仕事があれば盗賊をしないのかな?

「仕事があれば盗賊はしないかな?」
「そりゃ、仕事があればこんな割りに合わねぇ仕事なんてするわけねぇよ」
「冒険者は? 冒険者になって依頼を熟せば報酬が入るじゃん」
「冒険者にはなってるさ。これでもあたいはEランクの冒険者だ。あたいだって初めはマジメにやってたんだけどさ、やっぱりあたいらには無理だったんだよ」

 キッカの話では、初めは真面目に薬草採取などの依頼を受けて頑張ってたんだそうだ。
 でも、薬草採取なんかでは報酬も安いからずっとお金には困ってたらしい。
 そこで、討伐依頼をしようとするんだけど、武器も防具も無い。買おうと思ってもお金がない。素手では魔物に敵わない。そう思って採取依頼を熟すが報酬が安い。
 そして、薬草採取をしている時に出会った盗賊に声を掛けられ、盗賊団のパシリに成り下がったって事だった。

 盗賊達は町に入れないから、町に入れるキッカ達はちょうどいいパシリだったみたいだ。

 キッカ達は盗賊団の名前を名乗らせてもらう代わりに、町での買い出しや上納金を納めていたそうだ。

 因みに、案内係はキチンと登録をして案内をしていたそうだけど、弱そうな奴を七筋目に送り込んでいたと教えてくれた。俺ってやっぱり弱そうに見えるんだね。
 「なんでそれを知ってんだ」って言われたから、俺の事は覚えて無いんだろうね。
 お年寄りを送ったことは無いぜって自慢してたけど、あんまり自慢にもなってないと思うんだけどね。


「わかったよ、キッカ。キッカの知り合いも助けるよ。何人いるの?」
「ホントか! 二人なんだ。恩にきるよ」
「でも、条件を三つ付けるよ。これを聞いてくれたら俺も応援するから」

「な、なんだよ、条件って」
 条件と言われたキッカが身構える。キッカも初めて見る白金貨一枚をポンと出す男が出す条件だ、どんな条件を突きつけられるのかとキッカの顔が緊張で固まる。
 ゴクンと生唾を飲み俺の言葉を待っている。

「そんな難しい事じゃないよ。一つはキッカにはさっきお願いしたように、この辺りの事を俺に毎日付いてもらって教えてくれる事。一ヶ月ぐらいは一緒にいて欲しいと思うんだけど」
「ああ、それぐらいなら訳ないぜ。一か月分の報酬ももらったんだしよ。でも、まだあるんだよな」
 キッカはまだ緊張を解かない。

「うん、次は二つ目だね。二つ目は仲間も含めて、もう二度と盗賊はしないと誓って欲しい。その為には俺も協力はするからね。なんなら仕事が見つかるまで俺が雇ってもいいし、冒険者がしたいって言うんなら装備を提供する事も考えてもいいよ。俺もパーティを組んでくれそうな人を探してるしね」
「ホントかい! それならあいつらにも誓わせるぜ! あたいはもう盗賊は懲りたし、あいつらもそれは同じだと思うしよ。仕事があるんなら盗賊なんてしやしねぇさ。装備がありゃ、冒険者だってやりたいって思ってたんだ。そんな有難てぇ話ならいくらでも聞くぜ」

 キッカの仲間か、雇ってもいいんだけど仕事なんて無いんだよね。
「キッカが助けたい人って二人だった?」
「そうだぜ、二人だ。ケンとヤスってんだ。孤児院の頃からあたいの子分なんだよ。頭は悪いが気のいい奴らなんだ」
 もしかしてあの漫才コンビか? それしか見てないんだけどね。

「ふ~ん、二人だけでいいんだね」
「ああ、あとは親分から借りてた子分だ。あたいには助ける義理は無ぇよ」
「いいの?」
「ああ、あいつらは役に立たねぇくせに文句ばっかり言いやがってよ。あたいは知ってんだ、あいつらは親分があたいらを見張らせるために付けた奴だって事はな」

 助けるのは二人か。よかった、少なくて。二人ぐらいなら何とかできそうだよ。
 まだキッカの愚痴は続く。

「しかもあいつらは、あたいが誘き寄せた獲物に吹き矢で痺れさせたり眠らせたりするだけなのにドジって怪我ぁしやがるし。あたいもよくは覚えてねぇけど怪我しちまったしな。あんたに捕まってちょうど良かったのかもしんねぇな」

 なんかちょっとグサグサと胸の辺りが痛くなるんだけどなんでだろ?


「最後の一つなんだけど」
 俺がそう言うとキッカは再び身構えた。
 身構えるほどでもないけど、これはキッカの事だし真剣に聞いてもらった方がいいかな。

「キッカのその話し方なんだけど、もう少し女の子っぽく話して欲しいんだ。案内係ではそうしてたよね? できる?」
「わかったよ、そんなのはいつもやってんだ。簡単なこった」
 ホントかなぁ。今もできてないんだけど。

 三つの条件も飲んでもらったし、ケンとヤスを衛星に起こしてもらうと、キッカにも手伝ってもらって事情を説明して、拘束を解いた。
 ケンとヤスにも収納バッグと白金貨を一枚ずつ渡し、一ヶ月の契約を了承してもらった。
 二人とも泣いて喜んでたな。突き出されなかったのが、泣くほど嬉しかったんだね。
 キッカも一緒になって喜んでたよ、仲間っていいなぁ。



 町に戻ると、門の兵士に事情を説明し、常闇盗賊団は馬車ごと引渡した。
 馬車五台と馬十三頭も預かってくれると言ってくれたので、そのまま預かってもらう事にした。

 盗賊団は眠ったままなので、キッカもケンもヤスも、何か言いたそうだったけど、何も言わずに黙っていた。もし、盗賊団の誰かが起きたとしても、口まで縄で拘束されてるからね。

 町に入ると、三人とは今後の事も話し合いたかったし、宿に戻る事にして冒険者ギルドには寄らなかった。
 先に三人の分の部屋を取り、隣接されている食堂で今後について四人で話し合うのだった。

 さっき、部屋を取った時に思ったけど、一泊銀貨十五枚だと思ってたけど五枚だったよ。三日分を初日に払ったから勘違いしたんだね。
 ちょっとした勘違だ。でも、結果としてキッカと契約できたんだからオッケーだね。

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