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第05話 森の移動

 
 集落を出て夜の森を歩く二人。
 ベンガームンドという集落の男に誘われて夜の森を抜ける事になった。

 真っ暗で何も見えないね。俺ってこんな怖そうな森で一泊したんだな。このビビりの俺がよく一人で辛抱で来たよな。
 昨日も色々あって疲れてたからすぐ寝てしまったっていうのもあるんだろうけど、衛星達が守ってくれてるって安心感もあったよな。

 森の中はホントに真っ暗で、足元も見えないし、前を歩いてるはずのベンガームンドさんすら見えない。服を離すなよと言われてベンガームンドさんにしがみつき集落を出て、十分ぐらい歩いてからベンガームンドさんがたいまつに火をつけた。

 ようやくお互いを確認する事ができたけど、これって……もしかして魔物や凶悪な動物を誘き寄せたりしない?

「ベンさん、そのたいまつって魔物を誘き寄せないんですか?」
「誘き寄せるだろうな」
 ダメじゃん! 夜の魔物は活発なんだろ? 他の手を考えようよ。

「しかし、火が無いと前が見えん。見えなければ魔物にただ蹂躙されるだけだ。こればっかりは仕方が無い。それと『さん』はいらねぇぞ、ベンって呼んでくれりゃあいい」
「わかった。じゃあベン。ちょっと待って、俺が今何か考えるから。だから火を消して」
「お、魔法か。それは助かる、少しでも戦闘は少ない方がいい」
 そう言ってベンさんはたいまつの火を消した。

 魔法だって光に反応する奴だったら同じだよ。違うと思ってんのかね?
 ここは衛星さんの出番だね。結構な無理難題でも答えてくれるもんね。今回も期待してるよ。

 ベンさんには聞こえないよう、小さな声で衛星達に言おうかと思ったけど、二人だけだし森は静かだし、ここまで近いと聞こえるよね。
 そうだ! 日本語で言ってみるってどうだろ。俺は日本語で衛星に話しかけた。

《明かりが欲しいんだけど、魔物達からは気付かれないようにしてほしいんだ。できる?》

『Sir, yes, sir.』

 あ、やっぱりできるんだ。ホント頼もしいよ、うちの衛星君達は。

「なんだ今のは。聞いた事無い言葉だったが、呪文ってやつか」
「う、うん。ま、そんなとこだね」
 やっぱり日本語ならわからないんだ。これは今後も使えるな。
 衛星が前に二個、横に一個ずつ配置して光を出してくれた。

「ほぉ、こりゃ明るいな。これは助かるぜ」

 確かに明るいけど、そんなに明るくてもいいの? 俺達は助かるけどホントに魔物は寄って来ないの?
 でも、衛星達は返事したもんな。もう信じるよ、何か裏技でもあるんだろ。

《あっ、あと、もし魔物が寄って来るようだったら退治してね。もちろん解体&収納もだよ》

『Sir, yes, sir.』

 追加でまた日本語で衛星に頼んだ。明かりは確保したけど、臭いや音でも寄ってくるもんね。


 それから二時間、休みなく歩いた。
 魔物とのバトルはもちろんナシ。周りには唸り声や鳴き声は聞こえてたんだけどね。また衛星達が倒してくれたんだろ。
 もう一昨日からどれぐらい倒したんだろうね。

 一旦休憩を取り、更に二時間歩いた。足元が明るいから昼間の様にすいすい歩けるとベンは喜んでいる。しかもまだ一度も魔物と出会わない事に、「これだけ出くわさねぇと、嫌な予感がするぜ」って言ってたけど、その予感はハズレだからね。
 衛星達がいなかったら間違いなく出会ってるから。

 もう少しで夜が明けるから、明けたら一度仮眠を取る事にしようとベンから提案された。断る理由も無いので、ここで休む事にした。

 食事は用意してくれていると言ってくれたが、さっきのパンと干し肉だったので、俺が用意した。
 俺じゃなくて衛星君だけどね。

 メニューは洋風がいいだろうと思ってパスタにしてもらった。カルボナーラ。
 もちろん椅子と机もあったし、皿やフォークもある。スープはリクエストしてないが、白ワインを頼んだ。もちろん水もね。

 木を伐り直径五メートルぐらいの広場を作り出し、その中央に用意された机と椅子を見た時のベンさんの顔。人間の口ってここまで開くもんなんだと感心したね。

 さすがに作ってる所はベンさんに見られないように衛星達には言っておいたよ。あれはどうみても魔法じゃないよね。

 「魔法ってこんなに便利だったのか、いやいや世間は広いな」と驚いていたが、机の上に用意されていたパスタをいざ口にすると「なんじゃこりゃー!」とか「美味い!」とか「こんな味、初めて食ったぜー!」とか「これは葡萄酒か! なんだこの美味さは」とかとにかく喧しい。

 その度に魔物が寄ってくるから静かにって言ってるのに聞きゃしない。
 だってここまで一度も魔物に出会って無いんだから気も緩んでるんだろうね。

 交代で仮眠を取ろうという事になり、見張りも魔法で対処できると言ったが、そこは安心出来なかったのか、ベンさんは折れてくれなかった。

 だいたい俺が見張りをしたって何の役にも立たないんだけどね。

 先に俺が見張りをする事になった。
 見張りは衛星達がやってくれるから、俺がする事は何もない。飯を食った後だし、これだけ周りが暗くて静かだと眠たくなってくる。
 暇つぶしと今後の衛星対策の為に、衛星に弓を作ってほしいと頼んだ。

 衛星は一瞬で作ってくれ、俺に運んでくれる。
 できた弓は『トロントボウ:ATC55』上下対象の洋弓と呼ばれる形の木製弓だった。

 んー、これはこれで格好いいんだけど、俺の好みとは違うんだよな。
「これさ、洋弓だよね。和弓ってできない?」

 衛星はすぐに作ってくれて、目の前には和弓と洋弓の二つの弓が揃った。

 後は矢だけど、荷物になるよな。衛星みたいに収納ができるアイテムが欲しいよな。異世界の定番アイテムボックスね。
 これだけ色々作れるんなら、アイテムボックスも作れるんじゃね?

「あのさ、お前達の収納みたいな事ができるアイテムが欲しいんだけど、作れる? 希望としては、大きさはベルトに付けられるぐらい小さな物で、念じるだけで収納できるような物がいいな」

『Sir, yes, sir.』

 やっぱりできそうだよ。こいつらにできない事ってあるのかなぁ。ホント凄いやつらだよ。

 収納アイテムはポシェットタイプで縦五センチ横十センチ程度の小さな物だった。蓋の部分は肩下げ鞄によくあるような生地が垂れてカバーしてあるような造りだった。生地はもちろん魔物の皮だ。革製鞄として見ても、中々洒落た感じだった。

 矢と矢筒も作ってもらい、矢を矢筒に入れると背中に担ぎ、弓を調べた。
 まずは洋弓を手に取り弦を引っ張ってみる。うん、半分も引けないね。
 洋弓は諦めて次は和弓。なにかしっくり来るものがある。
 弦を引っ張ってみた。

「ん!」

 おお⁉ 引けたぞ! 俺って才能アリ?

 よし! 今度は矢を射ってみよう。
 背負った矢筒から矢を一本取り出し、ベンさんが寝てる反対側の木に狙いを付けて矢を番え弦を引く。

 ギリギリギリギリ

 シュッ! スコココココココココ――――――――ン

 え?

 狙いは大きくはずれた。はずれたんだが、俺が射った矢は何本も木を貫通して行った。

 なんだー! この威力は―――!
 狙いをはずれたのは仕方が無い、だって弓を射るのなんて初めてなんだから。
 木を何本貫通したんだよ! 威力ありすぎだろ! こんなの怖ぇーよ。
 こんな近くの木にも当てられないんだよ? 前に人がいたら危ないじゃん!

【鑑定】
―――神樹の和弓
ATC:350
発動技:マルチプレックス・スプリット(多重分裂)
補助:プル・サポート

 ……どれをツッコんだらいいんだ。攻撃力? 発動技? 補助? 名前も『神樹の和弓』って、どこに神樹があったんだよ! どこから取って来たんだよ!


 ちょっと時間が経つと考える事ができた。俺もまぁまぁ免疫が付いてきたみたいだな。

 弓を手に持ち隅々まで眺める。
 でもこの弓は……アリだよな。うん、アリだ。俺が使いこなせるようになればいいだけだ。
 この弓があればレベルアップも夢じゃないかもしれないぞ。そうだ、衛星達を出し抜けるかもしれないよな。よし! 目指せレベル2だ!

 それから夢中で弓の練習をした。
 もちろん発動技も試した。ボソっと小さな声で「マルチプレックス・スプリット」って言ってみたよ。

 技が発動されると放たれた一本の矢が無数の矢に分裂して行く。十本やニ十本ではきかなかったと思う。少なくとも俺にはそう見えたような気がする。早すぎて見えなかったけど。強力すぎるよ……
 よーし、これがあれば俺にだってレベルアップは遠い夢じゃなくなって来たぞー

 見張りは二時間ずつの交代だったが、我を忘れて練習をしてた為にベンさんの見張りの時間まで弓の練習をしてしまった。
 凄く集中し過ぎたみたいだ。元々俺にはそんなに集中力は無かったと思うんだけど、武器が和弓だったからなのか、環境のせいか、それとも転生のせいか。もしかしたら衛星がまた何かしてたのかもしれない。少なくとも回復はしてくれてたようだから。

 四時間後、ベンさんは俺が起こさなくても起きて来た。そして怒られた。
 交代をする約束だったのに、起こさなかった事を怒られた。
 今はまだ午前中? だろうからバタートーストを衛星に用意させたら怒ってた事も忘れて夢中で食べてたね。
 食事中に弓の練習で集中してしまって起こしそびれた事を伝えると、後で少し手ほどきをしてくれると言ってくれた。ベンさんはメイン武器は剣だが、弓も少々扱えるそうだ。

 行き先も聞いてみた。ベンさんもあまり大きな町には行きたくないから、知り合いがいる別の村を目指すと言っていた。訳アリ達が集まる集落にいたんだからね、なんかあるんだろうね。

 途中に知ってる町があるから、俺をそこまでは送ってくれると約束してくれた。

 あと、死体の山についても知らないか聞いてみたら、戦死者じゃないかと言われた。戦争で戦死すると身ぐるみはがれて山積みされて纏めて焼かれるのだそうだ。他にも儀式の生贄で同じような事をすることもあるが、今は戦争中だから戦死者なのだろうと教えてくれた。

 俺は戦死者だったのかなぁ。生贄かもしれないのか。何の儀式なんだろ、召喚とか? あれ? 勇者召喚とかって、生贄を使ったりするんじゃ……
 俺が勇者? いやいや、生贄の方だから。まだ生贄と決まったわけでもないし、戦死者かもしれないし。ベンさんも戦死者が濃厚って言ってたじゃん。

 ちなみにベンさんは勇者召喚は知ってたけど、どうやって召喚するかは知らなかった。当たり前か、そんなの知ってるのって、王族か城にいるお抱え魔導士って相場は決まってるからね。庶民がそんな事を知ってるはずもないよね。

 それから一週間で森を抜け街道に出た。あと一週間もあれば町に辿り着くだろうという事だった。
 なにげに道をよく知ってるよね。ベンさんの秘密に関しては何も聞いて無い。逆にベンさんも俺の事を聞かない。一緒に村に行かないかとは誘われたけどね。あれだけ毎回美味い食事ができるんだから誘わないはずもないよね。その代わりに弓と剣を指導してくれて俺の熟練度は上がったと思う。弓の精度もかなり上がったから。

 あと一週間で町か。ベンさん以外の人にも衛星は見えないんだろうか。

 ここまでの戦闘機会は0。もちろんレベルは1。和弓でも衛星を出し抜けなかったよ。だって獲物が見えたら、もう解体してんだもん。
 なんて過保護な転生者なんだろ、俺って。


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