第02話 球の正体
もしかして、この球って……
「お前達って衛星?」
球達がまた丸の形になった。
やっぱり。じゃあ、俺の『衛星の加護』ってこの球の事だったんだ。
これで俺の安全は保障されたんじゃね? だってさっきも魔物を一気に四体も倒してくれたんだよ? 俺ってやっぱりチートなんじゃないの?
四体も倒したんだから、さぞかしレベルも上がってるよね?
――#星見__ほしみ__# #衛児__えいじ__#(人族):LV1 ♂ 16歳
HP:14 MP:16 ATC:12 DFC:11 SPD:14
スキル:【鑑定】
武技:――
魔法:――
称号:【転生者】【衛星の加護】
はい? なーんも上がってないんですけど? レベル1のまんま? なんで?
確かに俺は蹲ってただけだけどさ、全く上がらないってのは無いんじゃないの?
実際、上がって無いんだからこれ以上言っても仕方がないんだけど。
この球達が俺の味方で、お願いを聞いてくれる奴って分かっただけでもいいか。俺の身を守ってくれる味方がいるんだもんね、心強いよ、気も楽になったね。
で、この球……衛星、星だね。この衛星達って何ができるんだろ。今見せてもらったのは、魔物を倒す事、土魔法? 何かの力で台を造って熱も加えてたね。解体もやって浮かべて運びもしてた。
あと、俺の言ってる事は分かるみたいなんで、丸とバツでの意思疎通もできるみたいだね。
「お前達って何ができるの?」
衛星達は俺の前に浮かんで一列になった。
「……言葉は話せないみたいだね」
衛星達が丸を作った。
『Sir, yes, sir.』って言ってたじゃない。でも、普通に話す事はできないって事なのか?
「じゃあ、俺の願いを聞いてくれるみたいだけど、何ができるの?」
衛星達がまた一列に並んだ。
「あ、そうか、話せないんだった。……じゃあ、いっぱい言ってみるからできる事をやってみてよ」
衛星達は丸になった。
「あ、もしかして回数制限とか無いよね? 願いは三回までしか聞けないとか」
今度は衛星達はバツになった。回数制限は無いみたいだ。
「よし、じゃあ言うよ。まだお腹が空いてるから料理を食べたいんだ。肉はさっきのでもいいけど、塩コショウをして焼いて大きさは一口大、焼き加減は中にも火が通っていて表面は少し焦げ付きがある程度。できればステーキソースをかけてくれたら尚よし。もちろんお皿に入れて箸かナイフとフォークで食べたい。あとは……服だね。肌着は着心地のいい物で、服はカジュアルっぽいのがいいかな。俺はパンツはボクサーパンツ派だからね。あと、靴もね。魔物が出て来るんなら装備も必要だから、武器や防具も欲しいね。なるべく軽くて丈夫な物ね。武器は刀が格好良さそうでいいかな。結構言ってみたけど、出来る事をお願いしていい?」
『Sir, yes, sir.』
あ、やっぱりお願いに対しての返事はしてくれるんだ。ちょっと機械っぽい音声だけどね。
凄くたくさん言ってみたけど、出来る事が確認したかったので全部できなくてもいいんだ、どこまで出来るかを確認したいんだ。
返事と共に散って行った衛星達。さっき倒した魔物で何かしている奴。森の中に入って行った奴。十二個の衛星達が皆バラバラに活動を始めた。
少し待つと、順番に衛星が色んな物を浮かべて俺の元に運んでくれた。
まずは皿に乗った肉。
一口大に切られた肉が大きな皿に盛られて運ばれて来た。うん、皿のサイズは言わなかったね。直径五十センチぐらいあるよ。
大きな皿に山の様に盛られたサイコロステーキ。後は味だね。
箸もナイフとフォークも持って来てくれた。箸は木製だけど、ナイフとフォークは何で造られてるんだろ、白いんだけど。
興味があったので、箸は後にしてナイフとフォークを使ってみた。
何これ! 切れ味抜群のナイフに、大した力もかけずに刺さって行くフォーク。肉が柔らかいのか? いや、食べてみると思ってた通りのステーキの硬さだ。でも、何だこの美味しさは! さっきと全然別物じゃないか! A5ランクの肉も食ったことはあるけど、この肉はそれ以上かも! しかもソースが掛かってる。どこにあったんだ? 注文したのは俺だけど、こんな何にも無い所で調達して来るこいつらってなんなんだよ。
でも、このソースって赤すぎない? もしかして血? ……いや、作るとこを見て無いし、美味いからいいんじゃね?
「んぐっ……み、水をくれ……」
『Sir, yes, sir.』
衛星の一つが地面に降りると、そこからコップが生えてきた。いや、生えて来た訳じゃ無いんだけど、生えて来たように見えた。
地面から徐々にコップの形になりながら、せり上がって来たんだ。
コップにはすぐに水が注がれ……どこからって? 衛星の一つがコップの上に行き、水を出したんだ。
この衛星達って、凄ぇ~よ。なんでもできるんだね。
まだ食べてる途中だったけど、今度は服が運ばれて来た。
凄っ! 普通にボクサーパンツを持って来てくれたよ、どこにあったんだ?
色は好みじゃ無いけど十分だよ。このちょっと茶色い感じって、なんとなくさっきのワイバーンの色に似てるんだけど……まさかね。
せっかくだから早速ボクサーパンツを穿いてみた。最高の着心地だ! 気持ちいい。
シャツも長袖だったけど、凄く着心地がいい。ズボンも同じ茶系の色だったけど、ゴワゴワ感は全くしない、それでいて肌触りも良く、楽に足を動かせるものだった。
上着はジャケットだった。カジュアル感が出ていてお洒落なジャケットだ。前ボタンは留めない方が格好良さそうだね。
靴もあった。これも履き心地がいい。でも丈夫そうだ。全部革製品のようだけど、柔らかい肌触りが気持ちよく出来ていた。もしかして造ったのか?
さっきの四体の魔物を見ると、それぞれ少しずつ減ってる気がする。まさかねぇ、あんな魔物からこんな良い物が造れるわけ無いよね。
最後に運ばれて来たのは装備類。最初に目に入ったのは刀だった。真っ白な刀身に真っ白な鞘、さっきのナイフとフォークに似てるけど、鉄じゃ無くても切れるものなのかな? ナイフとフォークの切れ味は抜群だったけどね。
セラミック包丁でも刃の部分は白いのによく切れるもんね。それと同じかな?
鑑定ってできるのかな? さっきステータス鑑定はできたみたいだけど、こういう装備類も鑑定できたりする?
試しに言ってみよう。
「【鑑定】」
――刀
オーガセイバー ATC:200
enabling:Air Slash
ゴメン、わかんない。全部日本語にしてくれない? 鑑定って日本語で言ったじゃん。
――刀
オーガセイバー 攻撃力:200
発動技:エアスラッシュ
あ、変わった。なにこのサービスの良さ。嬉しいんだけど、なんなのって感じがするよ。
でも、凄ぇーな、この刀。攻撃力200って……俺の攻撃力って12なんだけど。
この刀を持つ事で、俺の攻撃力が212になるの? 凄いね。自分を斬らないように注意しなくちゃね。俺の防御力って11だし。
エアスラッシュって離れた敵に刀を振るだけで空気の刃がいくつも出るやつだろ? 強力すぎないか? 自爆しないように気を付けないとね。
そんなのリアルでやった事なんてないよ、できるとも思って無かったしね。まずは練習だね。
装備の方も、誂えたように身体にフィットした。レザーアーマーは胸部だけなにか硬いものが付いてたけど、それ以外は革だし、動きを制限しなかった。ガントレットは肘から拳までをガードしてくれてるし、拳の部分も硬くなっていた。パンチでもダメージを与えられそうだ。
レガースは膝上から足の甲までをガードしてくれてるし、ぴったりフィットしてるから動き回っても全然ずれない。
太ももの部分は短パンの様に履くプロテクターがあった。鑑定すると、太ももガード:防御力50となっていた。中世西洋の鎧ってより、サバゲーとかコスプレみたいだ。ベルトも付いていて、刀の鞘や、投擲武器や回復薬などアイテムなども付けられるようになっていた。うん、格好良い。
防具は全部革製だったから軽いし、色も茶やグレーだったから目立ちにくいね。
凄いよ俺、さっきまで裸でいたとは誰も思わないって。
え? あ、防御力はもちろん凄いよ。どれを取っても俺の防御力より高いもん。
もう気分はチートな最強冒険者だよ、冒険者じゃないけどね。でも転生者ってのは間違いなさそうだよ。
装備を全部装着し、刀は手に持つ。まだ肉が残ってたので、もう少し食べたが全部は食べきれなかった。
「どうしよう、せっかく作ってくれたけど食べきれないよ。後で食べたいし、魔物の肉も勿体ないよな。どうしたらいい?」
もう衛星に聞いてみた。こいつらなら何とかしてくれそうだったから。
『Sir, yes, sir.』
衛星が残っているサイコロステーキの上に来ると、一瞬で肉も皿も無くなった。
あ、もしかして収納?
「それって収納ってやつ?」
衛星達が丸の形になった。
やっぱり。俺はチートじゃ無かったけど、俺の加護の方がチートみたいだね。いや、俺もこれからレベルが上がるとチートになるかもしれないじゃないか。諦めるのはまだ早いぞ。
「じゃあ、魔物の死骸も収納できる? まだ肉もありそうだしさ、また何か造ってもらう時に役に立つかもしれないじゃん?」
『Sir, yes, sir.』
四つの衛星がそれぞれ分かれて行き、四体の魔物の死骸はすべて収納されたようで、何も残っていなかった。
ホントこの衛星ってチートだわ。味方で良かった。
「あ、その収納って時間経過しないとかいうやつ?」
また衛星達が丸の形になった。
やっぱり衛星がチートなやつだよ。もちろん収容能力は無限っておまけ付きなんだろうな、聞くだけ無駄だね。
さて、衛星のお陰でお腹も膨れたし服も装備も手に入れたし。俺はこの後どこに行けばいいんだろうね。
移動もそうだけど、先に刀にはある程度は慣れておかないといけないね。
「衛星達! 今から刀の練習をするからさ、もし魔物が襲ってきたら守ってね」
『Sir, yes, sir.』
衛星に守りをお願いして、刀の練習に入る。
場所はここでいいよね、鞘をベルトにさして、まずは抜刀の練習。
シュラリン!
へへ、なんか格好良い。慎重に鞘に戻して再び抜刀。へへへー
次はそのまま振ってみる。剣道なんかやったことないけど、自分では中々様になってるんじゃないかと思うんだよ。振るとびゅって風を切る音もするし。
よし、一度木を斬ってみよう。
シュッ!
森の入り口の木を斬ってみた。
スパーっと斬れた。手に感触が残らない程の切れ味だ。これって、武器がいいからじゃね?
「ちょっと衛星さん? さっきの食事の時のナイフを貸してくれない?」
衛星の一つが俺に近寄ってきて、ナイフを出してくれた。
俺はそのナイフを持って、今斬った木の隣に立っている細めの木に向かってナイフを振ってみた。
シュッ
スパーっと同じ様に木が切れた。うん、やっぱり武器のお陰だった。おれの実力じゃ無かったね。
いや! 装備も実力のうちだ! 後はどれだけ俺が武器に負けない技術を身に付けるかだ!
よし! 素振りだ。いや、その前にエアスラッシュの確認だな。
どうやったら出るんだろうね、教えてくれる人がいないから分かんないね。
何度か空気の刃をイメージして刀を振ってみたが何も出ない。
これは熟練度が足りないとか、そういうやつじゃないかな。もっとイメージしながら振ってみよう。
池に向かって何度も何度も振り続ける。何度も何度も振り続けるが一向にエアスラッシュの出る気配がしない。それでも振り続けた。
そりゃそうでしょう。こんなチートな技、やってみたいに決まってるじゃん!
ずっと空気の刃のイメージで振り続けるが出ない。休憩もせず、池に向かってずっと振り続ける俺。
もう日が暮れかかる頃になり、辺りも少し暗くなって来た。
ずっと振り続けてるけど、まだまだいけるな。俺ってこんなに体力があったか?
しかし、一向にエアスラッシュが出る気配はない。
くっそー、なんで出ないんだよ! こんなに頑張ったのは久し振りなんだぞ!
「出ろよ!」
ブン
「出ろって」
ブン
「エアー」
ブン
「スラッシュ」
ブン
「もう」
ブン
「エアスラッシュってばー」
ブン
シュシュシュシュシュシュ――――― バシャバシャバシャバシャ―――
「あ、出た……なんで?」
感動より、なんで? という疑問が先だった。
……まさか? いやいや、そんな事は無いと思うよ。
まさかぁ、そんなはずは無いよねぇ。
俺は刀を構え、振ってみた。
「エアスラッシュー!」
ブン
シュシュシュシュシュシュ――――― バシャバシャバシャバシャ―――
出た。うっそだろー、言うだけ? エアスラッシュって言って振るだけ?
厨二か!!
その後も、何度かエアスラッシュを練習し、だいたい狙ってところに行くようになって、最後に木に向かって狙いを定めてエアスラッシュを決めて、練習を終えた。
狙った木の隣だったけど、十本の風の刃だったから周辺の木も斬られて、狙ってた木も一緒に斬れたから良しとしよう。
練習を終えると、また衛星にお願いして肉を焼いてもらった。
今日はこのままここで野宿だね。寝袋もお願いしてみたら造ってくれた。
警備の方もお願いして、転生だと思う一日目はすぐに眠りについた。