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第01話 転生したのにチートじゃない?

 
 う……重い……
 ……
 く、臭い!
 おえぇっ! なんだこの臭いは! しかも重くて動けないぞ!

 ここはどこなんだ! 最悪の目覚めだぞ。動けないし、耐えられない匂いだ。
 昨日何してたとか、なんでこんな状態なんだとかは、この際どうでもいい。まずはここから動きたい。

 うおりゃあぁぁぁ――――!!

 上には無理だが、横へは動いた。
 隙間か? 光が見える。よし、もうちょっと。

 どりゃあぁぁぁ――――!!

 ずずずずるずるー

 やっと出て来れたー。何だったんだこれは……

 うわ―――――――――――!!!

 這い出てきた足元には、人間の死体が山の様にあった。
 自分でその死体を踏んいる事に気づくと、飛び上がって驚いた。そのままバランスを崩し、死体の山から一気に下まで転げ落ちた。

 な、なんだこれは! 死体の山じゃないか! 俺はあの中にいたの? うっそだろー! なんでなんでなんで?
 目の前には小山になってる人の死体の山があった。一体何百人の死体が積まれているのだろうか。どうやら俺はその中に埋もれていたみたいだ。

 おえぇぇぇ―――おろろろろー
 気持ちの悪さと怖さで吐いた。
 な、なにこれ。い、いやだ、早くここから離れたい。でも上手く立てないよ、腰が抜けて立てないよ。足に力が入らない。

 あわわあわわと情けない声を出し、俺は必死に這ってその場から離れた。
 もう何も覚えてない、必死に手足を動かした。途中から何とか立てるようになると今度は必死で走った。息の続く限り走った。どこに向かうとかどうでもいい。兎に角さっきの場所から離れるんだ。

 俺は必死に走った。死の恐怖が追いかけて来る。
 どこをどうやって走ったかも覚えてない。それだけ必死だった。
 人間、必死になると意外と頑張れるもんだ。三十分は全力で走ったと思う。

 もうどうやっても動けなくなるまで必死に走って倒れた場所は池の畔だった。
 息が整う気配はない。必死に空気をまさぐる。大きく荒い息がいつまでも治まらない。


 ようやく息が治まってくると考える余裕が少し出てきた。

 さっきの所には戻りたく無いし、先へ行くしかないか。
 足も血だらけだ。山の中だし、裸だし。なんで俺は裸なの? ホント、昨日は何してたっけ? 全く思い出せないよ。それより水が飲みたい、身体も洗いたい。さっきまでの異臭が身体に染み付いててまだ臭いんだ。
 少し落ち着いて来たら痛みが感じられるようになってきた。何か靴の代わりになる物は……こんな山の中にあるわけないか。
 あー、ここはどこなんだろね。

 服になる物も何か欲しい所だけど、周りには誰もいないし、今のところはいいかな。大きな葉っぱで隠すとかする必要も無さそうだね。

 池の畔にいる事を思い出し池に近寄って見る。凄く綺麗な水で十分飲めそうに見えた。身体を洗う前に一掬い飲むと凄く美味しかった。

「ひゃーうっめ――――! ようやく人心地つけたよー」

 水も飲めたし、先に身体を洗わないと臭くてたまらないね。
 水は冷たかったが少し身震いするほどで、全身を水で何度も洗った。石鹸がある訳でもないので、何度も何度も洗わないと匂いが落ちなかった。

 ガサガサッ

 え? 誰か来た?

 俺はすかさず下半身を両手で押さえた。

 ガサガサ……ズザザザー!

「なっ……」

 出て来たのは人間では無かった。鹿やサルでも、ましてウサギでも無かった。
 デ、デカい……なんだこのデカい奴は! ブタ? イノシシ? なんで二足歩行なんだよ!

 体長は二メートルを超えてると思う。横もガッチリした体格をしてらっしゃるね。手には何を持ってらっしゃるのかなー。槍に見えるのは気のせいっすよね?

 イノシシの化け物をジッと見てると、目の端に何か赤い文字が出てきた。

 【judge】

 その赤い文字に目をやると透明なパネルの様なものが目の前に表示された。

 ――オーク:LV9 ♂ 11歳
 HP:56 MP:12 ATC:45 DFC:40 SPD:26
 スキル:――
 武技:二連突き
 魔法:――
 称号:はぐれ

 ナニコレ。GAME? チートなファンタジー小説? ネトゲ?
 オークって……確かに見た目はよくゲームやマンガで見る奴だよ。なんでここにいるんだ? ドッキリにしてはリアルすぎるよな。俺を裸にしてまでするような事でもないし。
 とりあえず、ここは……逃げるしかないだろ―――!

 え? おい。
 逃げようと振り返ったらいつの間にか別の奴がいた。

 ジッと固まって見てると、やはり【judge】という文字が出て来て、その文字に目をやると同じように透明なパネルが出てきた。

 ――オーガ:LV16 ♂ 19歳
 HP:114 MP:33 ATC:132 DFC:116 SPD:120
 スキル:――
 武技:大上段斬り
 魔法:――
 称号:はぐれ

 ダメじゃん、こっちの方が強いし。剣もこっちの方が破壊力ありそうなものを持ってるし。ナニコレ、いきなり詰んだ?

 因みにオレのステータスってどうなのよ。
 こういう時ってどう言うんだっけ、ステータスオープンとか言うんだっけ。

 あ、出た。まさかとは思ったけど出たよ、念じるだけでもいいんだ。俺ってチートな転生者って奴じゃね?

 ――#星見__ほしみ__# #衛児__えいじ__#(人族):LV1 ♂ 16歳
 HP:14 MP:16 ATC:12 DFC:11 SPD:14
 スキル:【鑑定】
 武技:――
 魔法:――
 称号:【転生者】【衛星の加護】


 ……詰んだ。

 弱い上に武器も無い。こんな状態でどうしろと。
 もうどうしようもないね。終わったよ。
 なんか【衛星の加護】って付いてるけど、どうせ大した事ないんだろ? くそ、なんか腹がたってきた。転生者ってチートじゃないのかよ! イヤだイヤだ! このまま死ぬなんてイヤだー!

「加護っていうぐらいなら俺を助けてみろって!」

 あー、大声出したらちょっとはスッキリしたよ。どういういきさつで転生したのかとか、前はどんな奴だったのか思い出せないけど、転生してすぐ死ぬのか、そういう転生者も中にはいるよな。それが偶々俺だったってだけか……残念だよ。もう逃げ場もないし、諦めるしかないのか……。

 カチッ キュイーン カチャ
『#RECOGNITION SYSTEM__レゴニッション システム__# check OK!』

『We are going to start that now.』シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュン!

 え? 誰? 英語? 人がいるのか?
 何かが出た音もしたけど……
 だいたい俺、英語分かんないし。

 あ、なんか俺の周りを小さな球が回ってる? 直径五センチぐらいかな、十二個の玉が俺の周りを回り始めた。いきなり出てきた球達はバラバラで俺の周りを回っている。頭の上を回る奴がいたり、手を回る奴もいた。足や胴を回ってる奴もいる。

 この球が俺を助けてくれるの?

 オークを見てオーガを見た。そしてまた球を見た。無理だね、どう考えてもウィナーはオーガだろ。挟まれてる俺に逃げ道は無いし、オークもちょっとオーガにビビってる感じがするよね。

 ブオォォォォ―――!

 先にオークが自分を奮い立たせるためか咆哮を上げた。
 俺の獲物に手を出すんじゃねーって言ってるように感じるのは気のせいか?

 ゴアアアァァァァ―――――!

 それに答えるようにオーガも咆哮を上げた。
 儂の獲物に手を出そうとしてるのはお前じゃーって言ってる気がするよ。

 なんで、こんなにお気楽なのかって? そりゃ、全然現実味が無いからだよ。これがピストルを持ったテロリストなんかだと、もっとビビってるかもね。基本的に俺はビビりだから。

 オークは槍を両手で持ち、俺の方に槍先を向けて突進して来た。
 オーガも大きな剣を持ってオレに向かって走って来る。
 もう池に飛び込むしか逃げ道がないよ。そんなに泳ぎは得意じゃないのになぁ。
 あれ? 結構ビビってないよ、俺ってこんなに肝が座ってたっけ? 否! ビビりです。
 でも、もう終わったって諦めたら意外と楽に状況が見れるもんだね。

 バッシャ――――!!

 今度は何? おわっ! 池からでっかいナマズみたいな魔物が出て来たよ。ポーニャって出てるな。こいつも俺が目当てなのか? 大人気だよ、おい。

 クエ―――――ッ!!

 今度は空から? デッカイ鳥だなぁ、こいつも魔物…だね。ワイバーンって出たね……ワイバーンって竜じゃないか。狙いはやっぱり俺? 何の食物連鎖だよ。俺しか狙ってないから連鎖になってねーし!

 さぁ、ドンとこーい。もう逃げられないのが分かったからね。開き直るしかねーよ。

 一番目に俺に辿り着いたのはオークだった。

 うわっ! やっぱり無理!
 俺はしゃがんで手で頭を抱え、身体を丸めて衝撃に備えた。もちろん目は瞑ってる。

 ドサッ   ドサッ   バシャーン   ドスン

 音はその四回だけ聞こえ、それっきり音がしなくなった。辺りは静まり返っている。
 俺はそーっと顔を上げ、周囲を確認した。

 四体の魔物が倒れている。
「え? なんで倒れてるの? 相打ちか?」

 俺は動かずにジッと身構えているが四体の魔物は一向に動かない。
 もしかして死んでる?
 俺はそーっとオークに近付き確認してみた。額に穴が開いていた。こ、これは死んでるね。続いてワイバーンとオーガも確認したが、同じく額に穴が開いていた。

 誰がやったのか? と周囲を見渡すが、何も気配を感じない。倒した魔物を取りに来る気配が無いということは、こいつらが相打ちだったって事か? そんなに都合よく?

 オークの突進をオレがしゃがんだ事によって、オークの槍がオーガの額を突き刺し、そのオーガン持ってた剣が倒れた反動で飛んで行ってワイバーンの額を突き刺し、ワイバーンが落ちて来てポーニャの額をワイバーンの爪が突き刺し、ポーニャが勢い余ってその髭でオークを突き刺した、と。

 うん、そんなわけ無いね。

 ま、考えてても仕方がない。どうやら俺は助かったみたいだ、この後どうするかが先だな。

 俺のチート小説の知識だと魔物の死骸は処理しないと別の魔物を誘き寄せるはずだ。だからこのままには出来ないが、どうやって処理するの? しかも池の中の魔物をどうやって取るの?
 あいつを取りに行って、またあんな奴が現れたら怖いじゃないか!

「どうやってあんな所の奴を取ればいいんだよ、誰かこっちへ寄せてくれよー」
 誰もいないのについ愚痴が口から出てしまった。

『Sir, yes, sir.』

 球が一つナマズの魔物のポーナの所に飛んで行き、向こう側に回ると、ナマズの魔物をこっちに向かって押して来た。

 え? 誰? 誰かいるの? 誰の声? 誰があの球を動かしてんの?
 こういう時、俺の知ってるチート世界の話だと、頭に声が響いて色々教えてくれたりするんだけどな。

 シ―――――――――――ン

 そこまではチートじゃ無かったか。
 でも、さっきも英語が聞こえたよな。誰なんだろ。

「さっき英語で話した人、出てきてくださーい。あなたが魔物を倒してくれたんですよね?」
 また魔物に出て来られたら怖いので、そんなに大きくない声で周りに問いかけてみた。

 シュシュ――――――――
 俺の前に球達が浮かんで一列に並んだ。

「お前達じゃないんだよ、さっき何か話した人なんだよ」
 出て来ないみたいだね。もうどっかに行っちゃったかもしれないね。

 でも、この魔物達をどうやって処理すればいいんだろ。安心したら腹も減って来たな。
「お腹がすいたな」ボソッと呟きが出てしまった。
 誰もいないんだけど、こういう寂しい時ってつい口から声が出ちゃうよね。

『Sir, yes, sir.』

 目の前に浮かんでいた球達が四方向に別れて飛んで行った。向かう先は死んでる四体の魔物。
 別方向なので、全部を見る事は出来なかったが、オークだけは見る事が出来た。
 球がオークに近付くと、球はオークの周りを目で追えない程高速で回りはじめ、みるみるオークが解体されていった。

 呆気に取られてその様を見ていたが、ハッと我に返って他の死骸を見ても同様に解体されていた。

「凄ぇ~、そんな事ができるんだ。それって俺に食えって事?」

 球達が集まって丸の形になった。

「へっ? 俺の言ってる事がわかるんだ」
 俺は笑顔になる。

「でも残念だ、生って俺には食えないよ。せめて焼いてくれたらね」

『Sir, yes, sir.』

 球が一つ離れて行き、地面に降りると地面が円柱状に隆起して来た。直径二メートルはあるだろうか、高さは一メートルぐらいだ。光沢もあって頑丈そうに見える。
 球が戻ると別の球が土の円柱の所に降りて行った。
 二番目に出て行った球が、初めの球が造った円柱の台の上に止まると、台の上が赤くなって来た。
 続いてまた別の球が解体したオークの肉に近付いて行く。
 三番目に出て行った球がオークの肉の上で静止すると、球に引き寄せられるようにオークの肉が浮いた。
 浮いたオークの肉はそのまま球に運ばれて赤くなった台の上に乗った。

 ジュッ! っと肉が焼かれる音がした。肉の焼ける美味しそうな匂いもしてくる。
 ふら~っと焼けてる肉の元に自然と足が向いた。

 デッカイ肉の塊が台の上で焼かれている。

「これを食べてもいいの?」
 また球達が丸を作る。

 でも、どうやって食べるの? かぶりつき? 匂いは美味しそうなんだけど、食べれるのかなぁ。

「このままじゃ食べれないよ、ひっくり返せない?」
『Sir, yes, sir.』
 肉の塊がひっくり返った。

「やっぱりお前達が話してるの?」
 球達が丸の形を作る。

「へぇ、そうなんだ。俺を助けてくれたのもお前達なの?」
 球達が一度バラケて再び丸の形になる。

「ホント? ちょっと信じられないけど、実際に魔物達は倒されてたからね。信じるよ、助けてくれてありがとう」
 球達はグニャグニャな軌道でゆっくりバラバラに飛び始めた。照れてるのかな?

「じゃあ、頂くよ」
 焼いてくれた魔物の肉は、ちょっと焦げてたけど、まぁ許せる範囲だ。
 俺は肉の塊にかぶりついた。ちょっと焦げてる味はしたけど、味付けをしてない肉だったから、いいアクセントになって、まだ食べれなくは無かった。

 三口程食べたら生の部分が出てきたので、食べるのを辞めた。まだお腹は空いてるんだけど、美味く無かったし、生の部分を食べた事でさっきのオークを思い出して食べる気が薄れた。

 もうちょっとどうにかできないかな。この球達は俺の味方みたいだし、俺の言う事も聞いてくれるみたいだ。さっきも助けてくれたし、こうやって肉も焼いてくれたしね。

 あっ! この球って、もしかして……

しおり