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「は?僕を養子に?それ、ローファスさんの弟になるっていうことですよね。お断りです!」
「キリカ、カーツ、お前たちも誰かに連れていかれないように気をつけろよ。かわいい子を見つけると自分の者にしたいっていう金持ちは世の中わんさといるんだ」
ローファスさんがキリカちゃんとカーツ君を抱きしめた。
「あ、ドレスが皺になっちゃうのよっ!」
むぎゅっとローファスさんのほっぺをキリカちゃんが押す。
「あー、すまんすまん。はー、仕方がない。貴族どもの相手は憂鬱だが……。ユーリの作ったシャーベットは最高なんだろう?2度も気絶するほどのうまさだって自慢されたぞ。出てくるのを楽しみに頑張るか!」
と、腕をぐるんぐるんと回して部屋を出ていくローファスさん。
……馬子にも衣裳……いや、言葉の使い方は間違ってるんだけど。黙って立っているだけなら立派な公爵のご子息なのですが……。あれ?おかしいな。養子じゃなくて、実子なんだっけ?そういえば、未確認ですね……。リリアンヌ様を母上と呼び、リリアンヌ様が息子といっているけど、実子とは限らないんだった。養子の可能性……消えてなかったよ。
ローファスさんがパーティー会場となっている中庭に足を踏み出すと、ざわついていた会場が、波が引くように近くから遠くへと静寂が広がる。
モーゼか!というように、口をつぐんだ人々が割れて、会場の奥にある東屋……ガゼボっていうんだっけ、そこにまっすぐと向かっていく。
リリアンヌ様とシャルム様はすでに椅子に座り、挨拶に訪れる人たちと談笑しているようだ。
そこに現れたローファスさん。
集まっている娘たち……そして奥様方までも、ほほをほんのりと染めてローファスさんの姿を見ている。
うん。黙っていればかっこいいもん。
それにしても……。見事に女ばかり。
この会場で男と言えば……。シャルム様とローファスさん、ブライス君とカーツ君と、警備の兵たちだけだ。
色とりどりの花が咲き乱れているようだ。ドレスがふわりと揺れ……。
綺麗。
……って思っていたら、なんか、ローファスさんの周りがちょっと殺伐としてる?
おほほほと扇で口元を隠しながら……うん。見なかったことにしよう。
さて、私たちに課せられた仕事をしよう。
「ねぇ、これ食べてもいいのかしら?」
「公爵家のパーティーで出された食べ物とはいえ……」
「真っ黒なものばかり」
「もしかして、何か試されているのかしら?」
チョコレート菓子たちを前に、ひそひそと話をしている人たち。
うん。そうだよね。チョコ尽くしなので、黒いです。あーれーも、黒、それーも、黒、どーれーも黒、ぜんーぶ黒。
……。と、いうわけでですね。
「キリカちゃん、どれから食べる?」
「あのね、これがいいの!」
まずはおいしそうに食べてる姿を見せるのです。
「ふわー、美味しいの」
「甘いね。やっぱりチョコはバナナと合う。最高ね」
と、キリカちゃんと二人で食べる。
「あら、あの子たち食べましたわ」
「おいしいって言っているようだけど、本当かしら?」
「食べても毒ではなさそうですが……」
と、人々が興味深げに見ている。
「次は何を食べる?」
「あれがいいのよ」
キリカちゃんと一緒に場所を移動して別のチョコレートのお菓子を食べる。
「私も食べてみようかしら?」
という声が聞こえたところで、ブライス君がお盆にお菓子を乗せてさっと差し出した。
「どうぞ。チョコレートという外国のお菓子ですよ」
にこっとほほ笑む美少年にあらがえる者がいようか?
うん。10歳くらいの娘さんと、そのお母さん、撃沈です。
「外国の?まぁ、さすが公爵家ですわね。見たことのないお菓子を用意してくださっているのですわね」
「いただきます」
ほほを赤らめながら、親子がブライスくんからチョコを受け取り口にした。
「まぁ!こ、これは……なんてお味なのかしら……流石、公爵家ですわ……こんなに素晴らしいお味のお菓子は初めて食べましたわ……」
「もう一つもらってもいい?」
「もちろんですよ」
女の子にまたも笑顔でチョコを差し出すブライス君。
気が付けば、ブライス君からチョコをもらおうと人垣ができていた。
「うまいz……おいしいよ。こちらのお菓子の黒いのはカカオ豆という別の大陸から取り寄せた特別なものからできているんだ」
カーツ君の周りにも気がついたら人が集まっていた。主に、5歳前後の子供とその母親が多い。
うん。5歳くらいだと、カーツ君のほうが話しかけやすいのかも。
「お兄ちゃん、こっちのは、何が入っているの?」
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リリアンヌ様の作戦通り、美少年役に立ってます。
(´・ω・`)キリッ