江と好
からっ
からり、かちり
「そんながいちゃ!」(そうだよ)
「しゃーん、なにい?」(それ、何)
素麺《そうめん》に山葵《わさび》を入れよう……と食卓には、見知った|チューブ《わさび》が無い。目を逸らすと、《《見つけた》》。
あえかな氷の残るつゆを前に、身を乗り出している幼馴染に聞いた。
床に置いてある盆《ぼん》から目的のチューブを手に取った幼馴染が、私に問うた。
「あれ、あんたのなーん?」(あれ、あなたのと違う?)
「なーん、違うちゃ」(いいや、違うよ)
母の浴衣への目配せ。
目が合うと、上気した顏を隠すように小さくなった幼馴染は、意を決し―――
「ちょっこし付き合わん? 今夜は、だいてやっちゃ」
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注釈:ちょっと付き合って。今夜はおごるよ。という意味です。
おごる:自分の金で他人にごちそうする、という意味で使っています