【水鏡】
夢を見た―――
悪魔の夢。
そう、それは悪夢。
闇に浮かぶ満月。
滴る血。
人々の叫び声。
恐怖が辺りを包み込む。
殺すことを楽しんでいるこの身体の持ち主。
多分、村人への復讐なんだろうけど酷すぎる。
子供まで容赦なく殺してる。
口の中に血の味が染み込む。
憎しみの味。
そして、干からびる死体。
!!
ヴァンパイア――――
この身体、もう人じゃない!
『永遠の罪』ってこういうことか。
だから、迷っていたんだ。
生きたいけど、人ではいられない。
いつか、これと同じ思いをしたことがある。
え?
何言ってるんだろうそんなはずない。
私、人を殺したことなんてないのに・・・。
パシャン
湖に来て血を洗い流している。
ふと空に目がいく。
月が綺麗に出ている。
水が汚れを落としてゆく。
顔を洗おうと水に顔を近づけたその時・・・
!!
水鏡に、この身体の顔が映る。
それは、あのウォルトと同じ顔だった。
だけど、私にも似ている・・・。
私に?
私の顔を、男の子にしたらこんな感じだろうか。
ただ、瞳だけは違っていた。
憎しみに燃えるような、後悔に駆られるような・・・
私はこんな瞳を知らない。
ちがう。
遠い過去に見たことがある。
これと同じ瞳を。
いつ?
いつだったのだろう?
い・・つ・・・・
――――――――――!!
目が覚めた。
何なのよあの夢。
え・・・っと
何の夢だっけ?
ヴァンパイア?鬼?の夢・・・
ウォルトが鬼?
うーん。ちがう
ヴァンパイア!!
そうだ、彼がヴァンパイア
彼がヴァンパイアなら私の願いが叶う
もし本当にヴァンパイアなら・・・
ん?
今、
私は、傍にあった時計に目をやる。
げ!!
やばい・・・。
もう授業始まってるんじゃないの!!
バタ バタンッ
慌てて着替えをすませる。
そして、階段を駆け下りる。
「華雪、どこいくんだ?」
お兄ちゃんが呑気にそう言ってる。
「お兄ちゃんどうして起こしてくれないの!!遅刻しちゃうじゃない」
「今日、日曜だろ」
え?
ピタッ
かあああぁぁぁ
顔が赤くなる。
そうだ、今日は休みだ。
「何、慌ててんだ?」
「ハ、ハハッ・・・ちょっと勘違い・・・」
私はそのまま、Uターンして部屋に戻った。
その夜。
うつらうつらとしていた時・・・
コツン コンッ
ナニ?
窓に何かがぶつかる音がする。
ここは二階なのに。
キィ
窓を開けてみた。
その窓の外に彼がいる。
ウォルトだ。
そして、公園のほうを指差した。
あそこに来いって事?
私は、こっそりと家を抜け出した。
外は、とても寒い。
雪がちらほらと落ちてくる。
前にウォルトがいた。
「あなた、何者なの?」
「君には、わかってるだろう?あの夢で・・・」
この人、やっぱり・・・
「ヴァンパイア?」
「そうだよ」
冷たい瞳でそう答える。
「だったら、私も連れていって」
ウォルトは、ちょっと驚いた様子だっだ。
「どうして?」
「いつもあなたを待っていた。『今』という時間を閉じ込めて、異質なものになりたかった」
それが、私の願い。
まっすぐと、ウォルトを見据える。
「クスッ」
急に彼は笑い出した。
「君は、何も知らないんだな。
人を糧にして永遠を生きるのはただ、悲しいだけだ」
そう言ったウォルトの蒼い瞳は哀しみをたたえていた。
「それでも・・・!」
「間違えるな。君は俺と同じじゃない」
彼は静かにそう言った。
私が彼方と同じ?
――――――――
彼は、私の・・・
私は、彼の?
遥かな記憶 あれは・・・
いつ?
むせかえる血の香り。
満たしきれない望み。
永遠の痛みと後悔。
いつだった!?
過去?ちがう。
もっと、昔・・・
私の
彼は私の前世。
「あなたは、私の・・・」
ウォルトはそっと、私の唇に人差し指をあてる。
「君は、君だよ。それ以外のものにはなれない」
私の願いは彼の願いだった?
異質な者を望んでいたのは彼の方だ。
「だから、連れては行けない」
そして、唇が唇に少し触れた。
「もう、この町を離れるから、お別れに・・・」
彼の唇は血の味がした。
私は、動けなかった。
彼は過去の私。
私が、願っていたのは・・・
彼はそのまま、雪の中に消えていった。
決して振り向かずに・・・