結人の誕生日とクリアリーブル事件2㊺
日曜日 日中
翌日となり、結人は藍梨と一緒に外へ出ようとしていた。 藍梨は支度ができ、結人が外靴を履いているところを見ながらそっと口を開く。
「ねぇ、今日は夜月くんを取り戻しに行くの?」
「あぁ、そうだよ。 それまでは、伊達と一緒にいてくれるか?」
「直くん?」
「真宮でもいいんだけど、真宮は念のため俺たちの方にいてほしいからさ」
「分かった」
そんなことを話しているうちに結人も準備を終え、家から出た。 伊達に藍梨を任せるため、携帯を取り出し電話をする。
―――あれ・・・繋がんねぇ。
しばらく繋がるまで携帯を耳に当てるが、着信コールは鳴り止む気配がない。
「伊達の家に、一度行ってみるか」
藍梨にそう言い、二人は伊達の家まで足を運んだ。
そして家に着きチャイムを鳴らすが、そこから出てきたのは伊達ではなく伊達のお母さん。 『直樹くんはいますか?』と尋ねると、お母さんは難しそうな表情を浮かべた。
「直樹、結人くんのところへ行ったんじゃなかったの?」
「え、俺っすか?」
「怒った顔をして『今から友達のところへ行く』って言って、さっき出て行ったばかりなのよ」
「え・・・」
その瞬間、結人の心には次第に不安が募っていく。
「友達って言っていたからてっきり結人くんのところかな思っていたんだけど、違ったのね」
苦笑を浮かべるお母さんに、一礼してこの場から離れていった。
「直くん、どこへ行っちゃったんだろうね」
「・・・」
伊達の行く場所に心当たりが全くなかった結人は、とりあえず同じ組で彼のことを一番よく知っていそうな未来に電話をかける。
『おー、ユイか? まだ12時過ぎだし、集合するにはまだ早いだろ』
「あぁ、そのことじゃなくてさ」
『ん?』
13時に集まるようにと言われたこととは違う用件を、彼に尋ねた。
「伊達知らないか?」
『伊達? いや・・・今日は特に連絡もないし、知らないけど』
「ッ、そうか・・・」
―――伊達の奴・・・どこへ行ったんだ?
―――普通にダチと遊びに行っているならいいけど、怒った顔をしながら出て行ったって・・・何かあるはずだよな。
『で、伊達がどうしたんだよ?』
「藍梨を今日任せようと思ってさ。 でも電話しても出ないし、家へ行ってもいなくて」
『ふーん・・・。 こんな大事な時に、か・・・』
“大事な時”という発言を聞き一瞬引っかかるが、あえて突っ込まずに次の言葉を待つ。
『そういや、昨日伊達はそのまま帰ったのか?』
「昨日?」
『あぁ。 伊達も夜月がクリーブルに入ったっていうこと、クリーブル集会へ行ったんだから知っているはずだろ』
「あぁ・・・。 うん、昨日確かに伊達は『俺も倉庫へ行きたい』とは言っていたけど『あまり関わらせたくないから』って説得して、帰ってもらったよ」
『やっぱりそうか・・・』
「?」
そして未来は、結人にあることを尋ねた。
『昨日夜月がクリーブルに入るって知った時、伊達はどんな様子だった?』
「様子?」
そう言われ、昨日のことを思い出す。
結人は精神的なショックをかなり受けていたため、あの時のことはあまり憶えていないのだが――――伊達が思っていた以上に怒っていたことは、僅かに記憶に残っていた。
そのことを思い出した瞬間、結人の顔色は一瞬にして変わり――――
「あ・・・」
『どうした? 何か思い出したのか?』
「もしかして、伊達は夜月のところへ行ったんじゃ・・・」
『は!?』
突然そのような考えが頭に浮かび、結人はより不安の中へと陥っていく。
―――マジかよ、もしそれが本当だったらどうする!
―――伊達は夜月を喧嘩してでも止めるつもりなのか?
―――そんなの無理に決まってんじゃんか!
『おいユイ、どうす』
「伊達は昨日、夜月に対して相当怒り狂っていたんだ。 このままじゃマズい、伊達は今頃夜月と一緒にいるのかもしれねぇ!」
『え? ちょ』
「伊達は今でも怒っているみたいだし、夜月も今は正気を持っちゃいねぇ。 このまま二人を会せたらマズいことになる!」
『俺はどうしたらいい?』
「今すぐにみんなに連絡をして、伊達を捜し出せ!」
『了解!』
その命令を聞いた直後、未来はすぐに電話を切った。 そして結人は藍梨の腕を掴み、走って仲間である真宮のところへ向かう。
そして家へ着きチャイムを鳴らし、彼が部屋から出てきたところで彼女を前へ突き出した。
「真宮、伊達がいなくなった。 だからこれから伊達を捜す」
「え?」
「それまで藍梨を預かっていてくれ! それと、今日は一歩も外には出るな!」
結人はそれだけを言い、藍梨を置いてこの場から立ち去った。 夜月と伊達が出会ってしまうのも時間の問題のため、走りながら次の仲間に電話をする。
「もしもし、優か?」
『うん、そうだよ。 どうしたの?』
「悪い、今日も一人で悠斗の見舞いへ行ってくれねぇか?」
『え? まぁ、それは構わないけど・・・』
「じゃあ頼んだよ。 それと、優たちは心配いらねぇから」
『うん・・・?』
「じゃあ、またな」
今日も悠斗の見舞いへ行くことができないと判断した結人は、なおも松葉杖を使って喧嘩ができない優に頼みを入れた。 そして次に、もう一度伊達に電話をかける。
―――くそッ、早く繋がれよ・・・!
いくら電話を繋いでも、コールが途切れ彼の声は聞こえない。 虚しく着信コールが流れ続ける中、結人には更に不安が募っていく。
―――もしかして、クリーブルに捕まったんじゃ・・・。
そんな嫌なことが思い浮かぶが、気持ちを何とか持ち堪え伊達を捜し続ける。
―――昨日はあれだけ夜月に怒っていたんだ、だから夜月に会いに行ったに違いない。
―――だったら、アイツがいるところに伊達もいるっていうことだよな?
―――夜月が行きそうな場所・・・どこだ?
不安な気持ちに支配されながらも、必死に伊達を捜し続けた。