【風の中】
あれから、なぜか3人で帰る事が多くなった。
「冷夏、帰ろうよ」
雷那がいつものようにそう言ってきた。
「あ、ちょっと待っててくれる?日誌を書いて、職員室に持っていくから」
黒板を消し終わった私は雷那の方を見ていった。
雷那は私の席に座っている。
「日誌は書いてあるよ」
「ありがと、雷那」
私は、なるべく急いで職員室に行った。
雷那は教室で待っててくれてる。
「水城」
急いでいたのに先生に、呼び止められてしまった。
しばらく先生とお話タイムになった。
いつ、職員室を出たのか覚えていない。
「おそーい。何してたの?」
気がつくと、雷那が怒った顔をしていた。
雷那の隣には転校生がいる。
「先生に、呼びとめられてて・・・・」
ボーとした頭で答える。
「どうかした?元気がないみたいだけど」
え?
そう言ったのは転校生の方だった。
「先生に何か言われたの?」
雷那も心配そうに言ってきた。
「別になんでもないよ」
にっこりと笑って答えた。
「そう?じゃ、帰ろ。ハイ、冷夏のかばん」
雷那は私にかばんを差し出した。
「ありがと」
先生、なんて言ってたっけ?
夢を見た――
妖精の夢。
幼い私がいる。
そして、妖精も・・・・。
私が妖精を呼んでる。
「・・・・・ム・・・。フー・・・。フゥー・・・ム」
――――――――――――――!!
目が覚めた。
涙がこぼれ落ちる。
フゥーム・・・・。
あの頃読んだ童話の中の名前。
その名前で妖精を呼んでた。
今夜も月が出てる。
窓を開けてみた。
キィ
かすかな音がした。
妖精はそこにいた。
月の光の中で、こちらを見ている。
樹の枝に妖精はもたれていた。
あの頃と同じ、子供のままの姿で・・・・。
「思い出した?」
妖精は、哀しげな瞳で私を見つめる。
私は何も言えなかった。
「まだ、みたいだね」
妖精の瞳が揺れる。
まだ?
何?何を思い出せばいいの?
ザアァァァァ
風が樹々達を揺らす。
また、消えてしまうの?
妖精が、月の光に溶けていく。
「待って、待ってよ!!フゥーム・・・」
彼が消えてく瞬間こっちを見たように思えた。
それは、気のせいだったのだろうか?
フゥーム―――
パタパタッ
風にカーテンが揺れてる。
朝の光が入り込んでくる。
夢?
フゥームの事は?
あっ
フゥーム?フウム・・・ふうむ・・
私が気づくように?
あれは夢じゃなかったの?
なぜ子供のままの姿をしていたんだろう?
妖精は何を待っているんだろう?