結人の誕生日とクリアリーブル事件2⑰
13時過ぎ 沙楽総合病院
結黄賊の仲間がそれぞれの場所へと向かっている中、松葉杖を突いて必死に前へと歩こうとしている一人の少年――――瀬翔吹優は、沙楽総合病院へと足を運んでいた。
―――みんなの分まで、頑張って悠斗の見舞いをしなきゃ!
優は片足のヒビは治ったものの、もう片方の足の骨折は治っておらず未だに松葉杖とお友達状態。 自分がそんな状況に置かれながらも、結人の命令には頑張って従おうとしていた。
結黄賊の基地から病院まではそんなに遠くはないのだが、優はまともに歩けないため倍の時間をかけて目的地へと向かう。
―――悠斗の背中の怪我は、大丈夫かな。
彼の怪我を心配する気持ちと、今から彼に会えるという楽しみな気持ちを持ち合わせながら、優は悠斗の病室の目の前まで辿り着いた。
―コンコン。
「悠斗、入るよー!」
「優・・・」
ドアを開けると、すぐ目に飛び込んできたのは当然悠斗の姿。 だが彼は布団の中には入っておらず、ベッドに腰をかけている状態だった。
その光景を見て、優は思わず声を上げる。
「悠斗、駄目だよ! ちゃんと布団の中に入って、安静にしていなきゃ!」
そう言いながら、松葉杖を器用に使い彼の前まで足を進める。 そして悠斗を布団の中に戻そうと、片足で立ち松葉杖を壁にかけ、彼を支えようとした瞬間――――
「優! 未来は?」
「え? ・・・知らないよ」
触れようとする前に、悠斗は優の両腕を掴み険しい形相で未来の名を口にしてきた。
どうしてここで他の仲間の名が出てきたのか分からず素直なことを口にすると、彼は俯きながら掴んでいる両手を力なく下ろしていく。
それに違和感を覚えた優は、そっと尋ねてみた。
「・・・悠斗? 未来が、どうかしたの?」
「・・・未来が、危ない気がする」
「え?」
小さな声で聞き返すと、悠斗は勢いよく顔を上げ優に向かって言葉を放った。
「優! 頼む、未来を助けてくれ!」
「え、でも・・・」
「頼むよ・・・!」
「ッ・・・」
思ってもみなかった展開に、言葉を詰まらせる。 そう言われても優の足は正常でないことは互いに理解しているため、一つの提案を口に出した。
「分かった・・・。 じゃあユイに、電話してみるよ」
―――繋がるか、分からないけど。
「ありがとう」
そして優は、結人に電話をするため一度病室から出る。 通話可能な場所まで足を運び、携帯を取り出した。
―――そう言えば・・・今頃ユイは、何をしているんだろう。
―――今電話しても、きっと忙しくて電話に出る状況じゃないんだろうなぁ・・・。
―――まぁ・・・駄目元で、電話してみるか。
―――それにしても、悠斗はどうして未来のことが心配なんだろう。
様々な感情が生まれ出し困惑する中、とりあえず結人への通話ボタンを押す。
―プルルル、プルルル。
―――・・・出ない、かな。
『ん、もしもし?』
「ッ、ユイ!?」
まさか出るとは思わず、心の準備をしていなかった優は驚いて声が裏返ってしまう。
『どうしたんだよ、そんなに驚くことか?』
電話越しからは、楽しそうな結人の笑い声が聞こえてきた。 そんな彼に、恐る恐る口を開く。
「え・・・。 ユイは今、大丈夫なの?」
『まぁ・・・多分な。 今のところ、被害はねぇよ』
「そっか・・・。 じゃあ今は、どこにいるの?」
『どこ? さぁ・・・。 クリーブルのアジトかな』
「アジト!?」
『まぁまぁ、俺は大丈夫だって。 何とかここから抜け出して、みんなのところへ戻るからよ。 それで、俺に何か用か?』
「あぁ・・・」
結人の現状が気になりそちらへ意識が向いていたため、電話をした本当の用件を忘れてしまっていた。 ここで悠斗の件を思い出し、早速彼に相談する。
「あのさ。 ・・・『未来が危険なことに巻き込まれそうで心配』って、悠斗が言っていたんだけど・・・」
『未来が?』
「うん」
『未来・・・。 未来・・・』
優が未来の名を口にすると、結人は何かを考えているのか突然彼の名を連呼し出した。 すると突如、電話越しからは張り上げた声が聞こえてくる。
『あ、悪い! キャッチ入った』
「え?」
『まぁとりあえず、未来の件は了解した。 悠斗がする未来への勘は大抵当たっているから、アイツが危ない目に遭いそうなのは本当なのかもな』
「う、うん・・・」
『だからまぁ、誰かに連絡して未来を捜しに行かせるわ。 それでいいか?』
「え、いいの?」
『もちろん。 未来だって、仲間だろ。 じゃあ悪い、キャッチ入っているからそろそろ切るわ。 悠斗の見舞い、頼んだぞ』
「あ、了解!」
慌てて口にすると、電話は結人によって強制的に切られる。
―――これで・・・よかったのかな。
話せる時間が短くあまり納得いかないまま通話が切れてしまったため、複雑な気持ちを抱えたまま悠斗の病室へ戻った。
「優! ユイは、何だって?」
「大丈夫だよ。 ユイがみんなに連絡して、誰かを未来のところへ行かせるって」
「そっか・・・」
そう言うと悠斗は安心したかのように、優しい微笑みを見せた。 彼は先程促したおかげか、今はちゃんと布団の中に入ってベッドに腰をかけている。
「そうだ、今頃みんなは大丈夫なの?」
優がベッドの近くの椅子に腰をかけると、悠斗がみんなの話を持ち出した。 その問いに、丁寧に答えていく。
結人は一人で指定された場所へ。 夜月と北野はクリアリーブル集会へ。 御子紫、コウ、椎野は今朝指定された場所へ。 真宮は行動できないため藍梨と一緒にいる。
未来は一人用事を済ませに行き、残された優は悠斗の見舞いへ来た――――と。
「そっか。 みんな、今はバラバラなんだな・・・」
一通り説明し終えると、悠斗は再び心配そうな表情を見せた。
優は不安な気持ちを与えないよう彼の前では頑張って明るく接しようと思ってはいたのだが、実際はみんなのことが気になって仕方がなかった。
そして悠斗は病室の窓へ視線を移し、小さな声で呟く。
「・・・みんな、無事でいてほしいな」