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誰もいない街を歩き。
誰もいない電車に乗り。
誰もいないバスに乗った。
外は、すっかり夕方だった。
夕陽の中、まぶしい顔の愛が笑う。
「ずっと一緒にいようね」
「うん」
「お兄ちゃんも、約束してね……」
「え?」
そのとき愛とは違う女の人の声が僕の耳に入ってくる。
それは、遥か昔に交わした約束のように記憶が甦る。
「どこにも行かないって」
「うん」
「約束して下さい」
「私から離れないって……」
「うん」
「大切にしてくれますか?」
「あたりまえじゃないか」
何だろう……
どうしてだろう?
その声がとても懐かしい気がする。
とても、とても懐かしい気がする。