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「陛下 良い知らせと悪い知らせがございます。」
宰相のハラルは言った。

皇帝も悪い知らせなど聞きたくないだろうが、
言わざるを得ない。

「エスカ帝国軍の精鋭80万が壊滅しました。
臣下の報告によれば、魔王軍らしき数万のモンスター
が森の奥部から出現し、それらには
槍も剣も通じず、弓なども無意味。
何も出来ずに壊滅しました。」

「その強さからして、そこいらを徘徊している
野生のモンスターなのは明白。
やはり魔王軍の仕業では?」

皇帝もそう思いたいがありえない。
エスカ帝国は魔王ザルエラに忠誠を誓っており
その尖兵である。この世界を統一し
魔王様に捧げるために戦っているのだ。
このことは魔王様に報告が必要だろう。

「それでは良い知らせのほうを。」

「こちらへお越しください。」
宰相は敬意を持って呼びかけた。

「私は 竜騎士ロマノフと申します。」
そう、004の露原樹である。

「竜騎士殿はエスカ帝国正規軍がモンスターの群れに襲われて
いるところに単騎突撃し、打ち破ったのです。」
宰相は興奮気味に話す。

竜騎士の戦力の是非が、宰相の命運を決めるだろうからだ。

皇帝は彼の強さがどの程度かはわからないが、
連れているドラゴンは人生の中で見た最強の存在だろう。
魔王様以上とも思える。
今後の戦いに竜騎士ロマノフが居れば
頼もしいこと、この上ない。

宰相はあることを思いついた。
「皇帝陛下、久方ぶりに 御前試合など開いては
いかがでしょうか?将兵や民衆も戦意が高まりますし、
敗北から目をそらせます。」

なぜなら、

皇帝は言葉をさえぎる様に言った。
「この竜騎士殿が、モンスターを滅ぼさなければ
将兵は生きては居ない。
エスカ精鋭80万を上回る戦力、という訳だな。」

「その通りでございます。さすがは陛下。」

宰相は振り向くと竜騎士ロマノフを覗った。

「いいぜ、ちなみに死んでも、その女、
大賢者ネーデルが居れば蘇生できるからな。
遠慮なくやらせてもらう。」

白魔道士ネーデル、咲耶蘭はご随意にとのことだ。

帝都は久しぶりに沸いていた。

伝説の竜王 バフォメット と 極龍 ウルティメットドラゴン
の対決だ。
種族的にはバフォメットが圧倒的に強いだろうが、
竜騎士に帝国兵が勝てる見込みはまずない。
1勝1敗で盛り上げるつもりだろう。
民衆の多くはそう考えていた。

竜騎士に 「挑戦」するのは 4騎士の一人
土のニグルムだ。
土のと付いているだけあって 武器は槌
ハンマーだ。槍との相性は悪い。
まず、勝つ見込みはないだろう。

酒場や賭場での掛け率は
バフォメット1に対しウルティメットドラゴンは3
竜騎士1に対し、ニグルム1000だ。
これは、国を救ってもらった恩も理由かもしれないが。

おれは、ペットである極竜の感覚を通して、監視していた。
遠隔監視などではなく、ペットや召喚物の見たもの聞いたものは
リアルタイムで情報が入ってくる。
寝ているときも入ってくるので、うっとおしい。

竜騎士は裏切ったわけではなく、瓢箪からこま、棚から牡丹餅か、
彼自身の意志でエスタ軍のために孤軍奮闘したため
王都に赴いたとき、エスタ軍の将校に感謝され、
本国の皇帝に謁見が可能になったのだ。

御前試合は壮絶だった。
バフォメットがブレス フレア 物理攻撃などあらゆる攻撃を
正面から仕掛けるも、無傷。
爪で眼球に命中しても、瞬きすらしなかった。
戦闘力10億の雑魚ウルティメットドラゴンと
戦闘力5000の竜王バフォメットの差だ。

御門ヤマトの性格からして、わざと負ける気はないようだ。
バフォメットも戦闘力5000、常識外の強さだが、
初期ステータスのウルティメットドラゴンと同程度だ。
竜王ゆえに同格が居らず、戦うことが無かったのだろう。
体力の衰えた、年老いた竜に過ぎない。
極龍が神速で羽ばたくと、衝撃波で
バフォメットは粒子と成って消えた。

これは、大賢者ネーデルでも蘇生できない。
御門に責任があるとはいえ、俺からも
皇帝に謝罪しておこう。
ドラキチをよこせとか言われたら嫌だからな。
竜騎士は緊張感ゼロでニグルムとの戦いを待っていた。

人間対人間、本物の武器は使わない、練習試合だ。
そもそも、ニグルムに勝機などないのだ。
真剣勝負は死ねと命ずるのと同義、
さすがに皇帝もそこまではいえなかった。

ニグルムが死ねば、戦意はがた落ちだろう。
メリットがない以上しない。
それが結論だ。

竜騎士は、殺すつもりはないが、少しお遊びをすることにした。

竜騎士は槍で戦わず、ニグルムの持つ
イミテーションの槌で戦うというのだ。
当然槌の戦い方など知らない。
周囲の民衆が見ても、一目瞭然だ。

踏み込むニグルム、槌を振り下ろした瞬間
ニグルムは槌と槌をぶつけ、竜騎士が無手になったのを見た。
元々一撃目を棄てる目的の振り下ろしと、
武器として使い続ける目的で、二撃目を考慮した
戦闘では、ニグルムに勝ち目は無かった。

竜騎士ロマノフは腰に刺した、木製の棒2本を
左右から、そっと首に当てるのだった。

その瞬間、ニグルムは負けを認めた。

わーっっつ!!
観衆は最高に盛り上がった。

竜騎士ロマノフは大賢者ネーデルに近づくと聞いた。
「あの竜王とか言うの蘇生できる?」

「白魔法では無理ね。時間魔法なら可能かも。」
竜騎士は極龍、ドラキチに近づくと、
(遠隔で時魔法よろ)と言ってきた。

俺は召喚士のスキルとして、召喚物を通じて
魔法を行使できる。
ドラキチに麒麟とフェニックスの能力を上書きし
魔法を放った。(リバーシ)(レイズ)
同時に2つの魔法の行使だ。
少し疲れるが、自分の責任でバフォメットを
滅殺したのだ、しかたない。

ネーデルは一芝居打つと、バフォメットは蘇生した。
ぉおおおー!!
観衆は沸き立ち、皇帝の戦意を高める目的は
達成され、無事御前試合は終わった。

2日後、帝国軍は30万の兵力をセレスティアへ
向けた。

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