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研究所の転移装置でどこか不明な地に跳ばされ、
ふと気がつくと、そこは砂漠だった。

周囲360度、砂漠なためどこをどう行けばわからないで
みんなで困っていると、
傍の親友がその双眸をらんらんと輝かせて、
こちらを見ている。

「なぁ、ここは21世紀の日本みたいな
世界じゃないだろぅ?
ドラキチを出しても大丈夫じゃないかな?」

たしかに、上空から見渡せば、どこに何があるかなど、
一発でわかるだろう。
だがこのメンバーで空を飛べないのは
「コンゴ」くらいだ。
露原イツキはよほど、ドラゴンに乗った
竜騎士になりたいのだろう。

こちらとしても、否定する理由も特にないので
認めることにした。

「しっかし、正直この世界(リージョン)に
体長50メートル超のドラゴンが存在しているなど
ありえんだろう。」

マテリアルな世界が消滅し、すべてがデータとなった
宇宙で何がどうなるかなどわからんが、
まぁ、しょせん仮想世界だからな。

こいつは、21世紀の日本でさえ、
「竜に乗っていない竜騎士は差別されている。」
と発言し、「始まりの大陸」では一応、
常識人に見えたこいつが、
どんだけ性格破綻してるか理解してしまった。


「仮想世界だし、まあいいだろう。」
こいつと議論すると、論理性がないため
議論が成り立たない。
とっとと、ドラゴンに乗せて上空に行ってもらおう。
そのほうが面倒が少ないだろう。

「我を呼び出したのか。何か大きな災いでも迫って居るのか?」
巨大なドラゴンは言った。

「いや、どらきち 単に偵察するために上空に行くだけだ。」

「そのようなささいなことで、我を呼び出すでない。」

「はい、はい、おまえは 長い時を生きたウルティメットドラゴンでは
なくなったんだ。お前の名前はドラキチだ。
クレインなんぞ五匹居るから、クレインAやクレインCだぞ。
お前にはいちおうの敬意を払って、ABCDEはつけていないだろ
少しは感謝しろよ。」

「わ~い、ドラキチだ!」
露原は大喜びだ。

「お前は主ではないのだぞ、露原どの。」

「いやおまえ露原の乗り物としての機能しかない気がするぞ。」

「たしかにドラゴンは強いけど、インフルエンザウイルスも
戦闘値70億だぞ。戦ったらお前負けるぞ。」

「どらきち~、さみしかったよ
私達は恋人みたいな感じだよね。」


「照れるでござるな。」

「あなたの同族には感謝してるわ。金貨26億枚も
儲かったんだから。」

「それはひどいでござる。英島どの。」



「わかった、上空から偵察してくれ。」
ドラキチを出してやると、竜騎士・露原は
大喜びで上空へ飛び立っていった。


「南西に20キロメートルくらいのところに
人工物の道がある。」
竜騎士・露原は魔法を使って、状況を知らせてきた。

ペットとの感覚共有でその景色を見ていた
俺の感想としては、
道路が石畳であることや、
馬車のわだちがあるところからして、
中世の雰囲気が漂うが、
周囲が砂ばかりと言うのは
異様な光景だ。

ついでに枠をひとつ消費し、スラリンも出してやった。
もっとも、俺はスラリンと日常的に交流できるが、
奴は愛するドラキチと会うことすら困難だからな。

俺たちはとりあえず、機工士のフェデリコの情報を頼りに
砂漠のオアシスの都市ラグーサを目指すことにした。
このあたりはセレスティア王国の領土で
覇権国家エスカ帝国と紛争中らしい。

遠くに目をやれば、山賊らしき集団も見える。
当然だが我々には近づいてこない。

ドラキチは体長50メートルを超える
ウルティメットドラゴンだ。
複数の強力な魔法が使用可能、
防御は生物の域にない、
HP100万オーバー

こんなものの飼い主に喧嘩を売るやつがいるとしたら
間違いなく自殺志願者だ。
俺を除けば、残りの8人にサシで極龍に勝てる奴は
いない。

「おい、露原、そこらに山賊の方々が、
いらっしゃるだろ?ここに招待してもらえるかな?」

山賊の頭目は、目の前にいる巨大な竜が
どこから現れたのか、見当もつかなかった。
これだけ大きければ遠くからでも視認できるはずだ。

噂に聞く、魔王軍の「バフォメット」とかいう
化け物ドラゴンかとも思う。

「あー、そこの山賊さん。ここいらの事情を聞きたいので
一緒に来てもらえますか?」
露原は棒読みで、山賊に同行を促す。

お礼に金貨100枚差し上げますよ。

是非もないようだ、山賊はおとなしくついていくことにした。

あからさまに怪しいが、こんなドラゴンを
飼いならしてるやつが、おれ相手に嘘を言う
理由もないしな。
山賊は観念して話し出した。

「いまこの国は戦争中なんです。
俺らは農民だったんですが、
兵士として連れて行かれて、
戦いの最中に装備を持って逃げたんです。」

「それからは路を通る商人を武器で脅して、
金品を巻き上げてるけちな盗賊です。」

「そのドラゴンは、噂のバフォメットかと思いましたよ。
近隣の大帝国エスタ、
このセレスティア王国に攻め込んできてる
連中なんですがね、こんなドデカイ竜を飼ってるらしいです。」

わかった、ありがとう。
俺はそう言って、金貨100枚を渡して、
山賊を解放してやった。

しばらく歩くと、それなりに大きな門扉が見えてきた。

おいお前ら、どこから来たんだ。奇妙な格好をしているな
異邦人か

「傀儡掌!」

「はい、どうぞ お通りください。証明書を発行させていただきます。」
操られた兵士はあっさり通してくれた。


竜騎士も上空を乗り回して、満足したのだろう
街に入るためにドラキチを回収しペットゲージに入れた。
後ろ髪を引かれるのか、寂しそうだが、
そこは無視する。

砂漠の真ん中の街なので、
アラブ風かと思えば、

「へぇ~、綺麗な町だな。てっきり砂漠の町だから。
荒廃しているのかと思った。」

「おいおまえ、砂漠地方の人に失礼だろ。」

白亜の石の壁と石畳の綺麗な街並みだった。
例えるなら「イタリアのヴェネチア。」だ。
水路をうまく使い、水を有効利用している。
どうやら、遠方の山から地下の水路で、
引き込んでいるようだ。

「なぁ、お金はどうするんだ。」
黒魔道士(英島とよ)が聞いてくる。

印旛が取り出したゲームの金は最低単位が金貨1枚だ。
金の含有量は30gと言った所か。
おそらくは純金だから、12万円相当だろう。

中世の基準なら、金貨は12万円、銀貨は
銀自体の価値は3千円、領主の信用を含めると
5千円相当だ。銅貨は170円程度だ。

「金貨26億枚って・・・。」
英島が計算して驚いた。

「げっ!300兆円以上じゃないかい。」

ちなみに実物財産の21世紀初頭の
地球の価値は「40000兆円=4京円」程度だ。

「とりあえず、金貨は両替が必要だな。」
俺は両替商に足を向けた。

データのみの世界であるため、
「アイオーンシステム」の恩恵で
コミュに問題はない。
自動で意思を伝える、言葉の壁はゼロだ。

「金貨5枚だが、銀貨と銅貨に替えたい。」
両替商にそういうと、銀貨90枚と銅貨600枚が
返って来た。
領主が銀の含有量を調整する銀貨に比べ、
教会の発行する金貨は含有量が一定で、
値下がりも値上がりもしにくい。
両替商としてはごまかす余地が少ないのだ。

ちなみに現代のように 通貨は多く出回っておらず、
旅人などが使う、希少性の高いものだ。

ゲームの中みたいに、薬草1個金貨1枚とかだったら困るよね。
それはまずない、あの価格は異常だ。
薬草1個12万円だぞ。高級栄養ドリンク60本以上買える価格だ。
この町なら、おそらく 銅貨1枚で10個は買えるぞ。

お金はあるので、客引きは無視して
最高級の宿にとまることにした。
スライムはペットとして飼う者も多く、
問題はなかった。

すらりん!
かわいい~ かわいいわね~
女共が黄色い声でスラリンにまとわりつく。

(こいつが普段何を考えているか知らないんだろうな。
召喚物とは5感共有してるし、頭の中身丸見えだからな)

(しかし、スラリンは なぜおれに恋をしているんだ
ペット的な感情か、父親とでも思っているのか)

(卵か、卵が孵ったときにはじめて見たのがおれだったからか!)

(人間のメスによい感情を抱いてないことは黙っていよう)

(それがスラリンのためだ)
腹が減っていたので食事のために外に出た。
宿に付設されたものもあるのだが、
市井の様子も知りたい。

「米はないのかよ~、ご飯食べたい。」
英島はぐちぐちと文句をたれていた。

「このパン、小麦じゃないよ。」
豆とトマトのスープはうまいが、
肉は香辛料も塩も香草も少なく、
ややにおいがきつい。
「まあ、けっこういける味だぞ。」
竜騎士はそう言ってがつがつ食っている。
9人分で銀貨2枚は、俺たち的には非常に安い。

装備のない奴に装備を作るため、旅行ガイドに近い
情報屋に金を払い、鍛冶屋の場所を教えてもらった。
店に入るとどういったものがほしいか聞いてきた。

「素材は鉄か銅だ。」鍛冶屋はそういった。
少し期待したが、ミスリルやオリハルコンは無い。

そこで、竜燐の鎧から取った素材と、
ドラゴンローブの革を使って作ってもらうことにした。
文明の進んだ別のリージョンで、チタン合金の盾
に細かい穴のついたものを依頼してそれをもってきていた。
そのリージョンで、作らなかったのは、竜燐の出所を聞かれたり、
盾の加工など目立つからだ。

すると鍛冶屋は不機嫌そうに文句を言ってきた。
「裁縫屋に行け。」
この世界で装備するフェイクの装備もほしかったので
俺たちは鍛冶屋で安い武具を色々と買い込み銀貨10枚をわたし
その店を後にした。

裁縫屋は区画が違うので、急ぎ足で20分ほどだった。
無事にチタン合金の盾に竜鱗を特殊カーボンの糸で縫いつけ
ドラゴンの革でチュニックとグローブを作ってもらった。
材料持込のため、手間賃は金貨1枚だった。
竜の革を譲ってくれと懇願されたが、それは断った。

店から出ると、アイテムで外見変更を行い、
竜燐の盾はキーホルダーに、チュニックはイヤリングになった。
いわゆる変身アイテムだ。

この世界は仮想世界であり、現実の地球の記録をベースにしているので
通常の人間は 魔法が使えるということはない。

魔法を使用するのには条件があり、空想でケーキを食べ、
それを実際の感覚で、甘くておいしいと感じなければいけない。
到底常人には無理だ。

宿屋の通路を歩いていると声をかけられた。
その人はセレスティア王国の女王の使者で、この町ラグーサの領主に
騎士団を貸してほしいといったのだが、ナシのつぶてだったらしい。

見事な装備を着ており、9人で1泊金貨3枚の宿に泊まる我々を
一流の傭兵だと思ったのだろう、声をかけてきた。

王都はエスカ帝国の侵攻を受け陥落寸前だという。
俺は使者の耳に口を寄せ、こう言った。

「あなたと同行している人物、王女殿下にお会いしたいのです。」

使者は、顔面蒼白になりながら、狼狽したが、
会えることになった。
俺たちは協力を申し出、あっさり承認された。

「たとえエスカ帝国軍を全滅させても、
新たな兵が、次々と送られてくるだけでしょう。
戦闘は無意味です。」
俺は現状を正確に明言した。

「我々は、滅ぶしかないと言うことですか。」
王女は大粒の涙を流し小さく呟いた。

「考えがあります。お任せを。」

「お願いいたします。」
そういうと王女は崩れ落ちた。

エスカ帝国の最精鋭3千は砂漠の都市ラグーサを目指していた。
王都はすでに落ち、王族は皆殺しにした。
完全に征服するには、逃げた王女を殺す必要がある。
国民の心を完全に折るのだ。

「敵兵は見えるか?」ルクス将軍は副官ピレスに聞いた。
王女は数人で逃げ出した。
領主が味方しなければおわりだ。
領主とて、王国が滅びたあと、次々に来る軍勢を
すべて滅ぼすなど不可能だ。

「閣下、おそらく戦闘にはなりません。」
「まぁ、そうだな」
進軍はのんびりしており、歩兵は談笑しながら歩いている。
仕方ないとはいえ 緩みきっている。

軍の先頭を行く歩兵はあるものを見つけた。

「%♯!%$!」

そこからは一方的な虐殺だった。

しおり