第15話 お嬢様、ゲームをする。(中編)
『プレイヤー全員の意識を確認しました、これより魔法スゴロクのルールをご説明致します』
「ちょっと待って!!」
俺はとりあえず状況把握を優先すべく、木箱の言葉を遮る。
『如何なさいましたか? 周防ミコト様』
俺は何故か俺の名前を知っている木箱に問いかける。
「俺達、状況がまったく飲み込めていないんだけど。まずはそこから説明して貰えると助かる」
『それでしたら、そちらにおられますサクラノヒメ様に聞かれた方が理解が早いかと思います』
「了解了解」
名指しされた事でサクラさんは部屋の中央に浮遊している木箱の隣にいき、コホンッと咳払いをする。
「えっと、私の神眼で分析した結果コレは大昔に冥界の女神様が作った魔道具である事が分かりました。その名も魔法スゴロクver.2.0(改)ちゃんです。そう、それは太古の昔。冥界の女神であるイヴ・アンリミテッド・デスサイズが――」
~以下省略~
「――という訳でこの魔法スゴロクちゃんは長い時を経て世界を渡っていき、より魔力の高い人間、今回の場合はエリちゃんの所にたどり着いて、ついさっき起動したって訳、以上!!」
「へ~」
「へ~」
「へ~」
正座でサクラさんの話を聞いていた俺達はとりあえず適当に返事する。
いや長いよ、どんだけ尺使うんだよ。その話だけで小説が一冊書けちゃうよ!!
「でも今の説明だけじゃ私達の服装が変わってる理由が分かたなかったんだけど?」
アリシアさんの言う事に俺は確かにと思った。
俺はともかく、3人の服装はバスローブ姿から各々がいつも着ている派手なドレス(サクラさんは巫女服)になっている。
あの手足の付いてないスゴロクちゃんが着替えさせてくれたとは思えないし、着替えさせる意味も特に見当たらない。
『それについては私からご説明致しましょう、ルールの説明もありますので』
「いや、まだ俺達はスゴロクをするって決めた訳じゃ――」
『まずここは皆様のいた現実の世界ではありません』
「無視かよ」
いや、でも今このスゴロクちゃんサラッとやばい事言わなかったか?
現実の世界じゃない? What that?
『ここは私が作り出した疑似空間です、そして今貴方達の魂は肉体から切り離されておりこのゲームの中に囚われています』
「は?」
無機質且つ事務的口調で次々とビックリワードが炸裂してくる。
「なるほどの、この大広間も服装も妾達の記憶を読み取って再現した物という訳か」
『ご理解が早くて助かります。皆様に快適にゲームをプレイして頂けるよう尽力するのが人工魔導プログラムたる私の役目ですので』
「囚われてるって言ったけど、まさかクリアしないと外に出られないなんて言わないわよね?」
俺が危惧していた事をアリシアさんが先に口にしてくれた。
こういう展開だとありがちだし、最悪死ぬとかいうのが通例だからな。
しかしスゴロクちゃんの答えは意外にも『ご安心下さい、プレイするかどうかは皆様自身でお決めになれます、もしプレイしないのでしたらすぐに現実世界にお戻し致します』という物だった。
なんだ出られるのか、よかった~
これで現実世界に戻れるぜ。
「じゃあ皆さん、さっさとこの訳の分からない空間から脱出して――」
『しかし出てしまわれると折角ご用意した報酬が無駄になってしまいます。残念です』
ピクリと女子3人の肩が動くのを感じた。
「ほう報酬とな、
『はい、ゲームを一番最初にクリアされた方にはどんな願いでも叶えられる権利が与えられます』
「……」
「……」
「……」
果たして7つの球を集めてデカい龍を呼び出すのと、この訳の分からないゲームをクリアするのとどっちが楽か、俺はそんな事を考えながらギラギラ目を光らせる3人の女子を眺めていた。
◇
「(このゲームをクリアすればエリザベートなんかに頼らなくてもナイズバデ~を手入れる事ができる!!)」
「(このゲームをクリアすればエリちゃんの悪ふざけに付き合わなくても幻の同人誌がガッポリ手に入れる事ができる!!)」
「(と、この
『何が何でも一番最初にゲームをクリアする!!!』
という3人の心の声がヒシヒシと伝わってきた。
ああ、これはゲームをプレイする流れですね分かります。
「よかろう、そのゲームとやら受けて立とうではないか!」
「そうね、暇潰しには丁度いいんじゃない?」
「言っておくけどやるからには手は抜かないよ?」
向かい合いながらバチバチと目線で火花を散らせる3人。
こうなってしまえば例えアルマゲドンが起こっても止められない。
「あ~ もうさっさと終わらせたいんでルールの説明をお願いします……」
『畏まりました。では魔法スゴロクの簡単なルールをご説明致します』
するとスゴロクちゃん、つまり木箱を縛っていた鎖が砕け散り折りたたまれていた部分が開いてゆく。
床に落ちたその平なボードは俺が地球で見た事があるような普通のスゴロク盤だった。
ボードの上にはサイコロが1つ置かれている、どうやらこれを振ってプレイするようだ。
しかし、このボードには看過できない特徴が1つあった。
「これ、イベントマスが無いですね」
スゴロク盤にはスタート地点からゴール地点まで合計で50マス程用意されていたが、どのマスにも文字らしき物は見当たらずイベント等の内容が明記されていなかった。
『イベントに関しましてはその都度ランダムで決定されます、詳細は私の方でお知らせいたしますのでご安心下さい』
「ちッ! これでは狙ったイベントマスに行くためにサイコロを振れないではないか!!」
「ちッ! これじゃあ狙ったイベントマスに行くためにサイコロを振れないじゃん!!」
「アンタ達、イカサマする気満々なのね……」
『ゲームの流れですが、順番にサイコロを振って頂きゴールを目指して下さい。一番最初にゴールした方が優勝となります。ただ――』
そしてスゴロクちゃんはこのゲームの最も恐ろしい部分、魔法スゴロクと言われる所以を口にする。
『ただ、全てのイベントマスの内容は現実になりますのでご注意下さい』
◇
スゴロクちゃんの説明は意外にも単純でサクラさんの無駄話よりもずっと短った。
ゲームのルールは単純、サイコロを振り、イベントを消化して、各々ゴールを目指す。
しかしながらイベントに書かれた出来事は現実になる。
現実世界じゃないのに現実になるって表現はなんとも分かりにくいが、とにかくその全てが具現化し俺達の身に降りかかるそうだ。
ただ、今の俺達は魂だけの精神体なので肉体をいくら損傷しても死に至る事はないらしい。
しかし五感の感覚は現実と変わらないので痛い事は痛いのだという…… 何故そこを再現したのか……
まあそんな訳で魔のスゴロクは開始されたのだった。
順番はエリザベート、アリシアさん、サクラさん、俺の順である。
「ふっ フッハッハハ! 愚か者共め、如何なる事態になろうとも妾の魔法をもってすれば勝つことなどブレイクファースト前じゃ!!」
そう言いながらサイコロを床に放るエリザベート、出た目は6だった。
どうやら誰が今どこのマスにいるかは4色に色分けされた駒で示されるらしい。
この場合はエリザベートの赤駒が動きスタート地点から6マス目へと一人でに移動していく。
『ああ、いい忘れていましたけどこの空間では皆さんの特殊能力は一切使用できませんので悪しからず』
「へ?」
驚くエリザベートの頭上から一枚のペラ紙が舞い落ちてくる。
そして床に落ちたその髪にはこう書かれていた。
【このマス目に止まった者はサイコロを振るごとに吐血する病にかかる】