四通目
片瀬と駐車場に戻ると、もう空が暗くなり始めていた。泣きすぎたせいでずきずきと痛む頭を抱えながら車に乗り込む。
「ごめんね、泣かせるつもりはなかったんだけど」
「うん、わかってる」
片瀬に悪気がないことも、片瀬が今、すごく後悔していることも全部、ぎゅっと寄った眉間のシワから伝わってくる。
「ごめんね」
「うん」
片瀬はもう一度謝ると、ゆっくりと車を動かした。2人とも泣きすぎて喉がかわいてしまったので、とりあえずコンビニに向かう。周りに何も無い山道をひたすら下って、車通りの多い道に出たところでやっとコンビニを発見した。駐車場に車を止めても、片瀬はなかなか動こうとしない。
「片瀬?」
「夏恋チャン、これ、坂崎からの手紙。
読んで待ってて」
片瀬が差し出したのは、カバンの中に何通も入っている茶色い封筒だった。私が紅茶を片瀬にリクエストすると、片瀬は「変わんないね」とやっと小さく笑って、車を降りていった。
『約束の場所でちゃんと片瀬と誓ったか?』
一文目から、衝撃的だ。でも、なんとなく片瀬はあんなこと進んでしなそうな気もしていた。大好きな右上がりの字をさらに読み進める。
『俺の予想だと出来ないな
夏恋、俺のことまだ好きだろうから。』
その自信はどこからくるだと、つっこみたいのに相手がいない。また、胸がいたんで泣きそうになるのを必死にこらえる。
『でも、片瀬良い奴だからな。
だから、俺のことなんか早く忘れて、次の恋すること。俺との約束な』
滲んだ文字をなぞったあとが、手紙にまだ残っている。泣くくらいならこんなこと書かないでよ。今度は涙があふれるのを我慢出来なくて、せっかく洸がなぞった字がまた滲んでしまう。慌てて、涙を拭って手紙を手元から上にあげる。
『まあ、今日までは俺のこと好きでいて。
次の場所は、地元で一番星がたくさん見える場所
P.S.
夏恋が俺のこと忘れても俺はずっと好きだから。
だから俺のこと忘れていいよ』
馬鹿な事言わないでよ。
いつも隣にいて、私が泣きたい時のそっと抱きしめたくせに。私のこと1番笑わせたくせに。
忘れられない魔法をかけたくせに。