connect-part:風は死を喰らい事を成す【次回予告】
夜の闇というのは、後ろ暗い事情を持つ者たちの味方だ。
バラスタイン辺境伯領。
そのチェルノートに
より正確を期すならば、それは何者かが動き回り巻き起こした風である。
しかし、肝心の風を巻き起こした者の姿はどこにも見当たらなかった。時折踊るように舞う
「どうだ?」
ふと、風の一つが声をあげた。
「使えそうなものはあるか?」
「いや」
応えたのも、やはり風である。
「どれもこれもグチャグチャですよ」
突然、
それは【断罪式】の爆風から逃げ遅れた住民の死体だった。
「ったく。『断罪の劫火』とやらも、もう少し
「……仕方ない。
「ですね。――っと、」
ふと、“風”の一つが慌てたような声を上げた。何かを探すような気配のあとに「すみません先任導士」と、そばにいる“風”を呼び止める。
「
「――急の事だったとはいえ、命綱を忘れるのは感心しないな」
そして、
突如として、虚空に男の顔が現れた。口元を
だが、見る者が見ればその
頭だけの男は懐から木片の入った樹脂ケースを取り出して、隣に立つ“風”へと渡した。受け取った“風”も、やはり虚空からマスクで覆われた頭だけを
途端、ふたつの頭は光を屈折させる
「……ふぅ、生き返る。ありがとうございます、先任導士」
「次は無いぞ。それより早く終わらせる、時間もあまり無いだろう」
「了解です」
言って“風”は比較的原形を保っている死体を選び出し、その胸元に
そしてそれが数十体に及んだ頃、先任導士と呼ばれていた“風”が「よし」と声をあげた。
「起点はこれくらいでいい。あとは勝手に増殖する」
「いつ起動させるんで?」
「早い方がいい……が、動いている所を見られては奇襲が成立しない。埋葬されるまで待つしかないな。交代で状況を注視しろ」
「はい」
先任導士は最後に軽く周囲から
“風”たちが使った魔導式。それは未練がましく肉体にこびりついた魂の一部を固着させ、その構成魔導式と魔力を改変――死体を術者の命令に従う
そして、そのような魔導式を扱う者たちなど一つしかいない。
チェルノートに
「それにしても……」
「この程度の数では、作戦の達成は難しいのでは?」
「なに、正面から戦って勝とうという話ではないのだ」
応えたのは、先任導士と呼ばれていた
「それに万が一の
「……『門』は連合の領土に作ればリスクを冒さずとも済んだのでは? そうすれば反撃を警戒する必要も――」
「馬鹿を言え。
ふと先任導士が言葉を切る。
見れば、既に空が白みだしていた。遠くに明けの明星が見える。そう時を置かずに夜明けが訪れるだろう。
「引き上げるぞ」
「はっ」
号令と共に“風”と化した死霊使い
彼らは〔透過迷彩式〕だけでなく〔音響制御式〕まで使って、視覚的にも聴覚的にも完璧な偽装を施してはいる。だが、突風に巻き上げられた
そうして、まさに風のように立ち去ろうとしていた
「これは――ずいぶんな掘り出し物だぞ」
言って、先任導士が持ち上げたのは陽光を浴びてきらめく銀の
それは30㎜徹甲焼夷弾によって、花火のように身体を吹き飛ばされた騎士の肉片。
炎槌騎士団が一人――ガブストール・アンナローロと呼ばれていた頭部である。
~前話のあらすじ~
リチャードの示した刻限が迫る中、マリナとエリザは逆襲を開始する。
マリナが担いだのは魔導式を施した対空機関砲。それは憂国士族団とマリナが計画した炎槌騎士団を打ち倒す策だった。騎士を次々と撃ち落としたマリナだったが、その前に
――しかしそれでも尚、リチャードは倒れない。万事休すかと思われた時、リチャードを倒したのはエリザが振り下ろした農作業用の鍬だった。
そして炎槌騎士団を退けた二人のもとへ、シュラクシアーナ家の航天船が現れる。
~次話予告~
招集される査問会。
ブリタリカ王、シャルル・ラウンディア・ロビスド・ブリタリカの真意とは。
運命はエリザベートに憎むべき
次回、メイドin異世界《ファンタジア》
――第4話『そしてメイドはいなくなった』――
※第4話はカクヨムにて第5話を掲載後に、公開します。