第18回「破壊の意志」
僕はメドラーノが召喚した「兵士」を、触れただけで消し去った。この程度の力ならば、僕にとって破壊するのは造作もないことだ。
だが、すぐに新たな兵士が現れた。この肉体美を誇る彼らは、メドラーノの趣味の表れなのかもしれない。いや、他人の趣味にまで口を出すのはよそう。僕としては、召喚魔法が使えるようになったころ、美少女ばかりを呼び出したせいでメルにさんざん罵られた古傷がうずく。彼女のことは評価していないとはいえ、自分の趣味嗜好を批判されるのは傷つくし、苛立つものだ。
「アクスヴィルにヴィジャヤ魔法学院という学校があるのを知っているかね。あそこは私の母校でね。とにかく厳しいことで知られていて、毎日毎日、嫌になるくらい怒られたものだ。私は誰かに怒られるのが大嫌いだから、本当に何度辞めてやろうかと思ったよ。だが、そこで二つ褒められたことがある。一つは演説の上手さ。もう一つは多重召喚魔法だ」
「消えたそばからまた召喚。神……こいつは」
「魔力供給の効率化が尋常じゃないみたいだな。市長、僕は貴方を侮っていたようです。単に見てくれがいいだけの紳士かと思いきや、こんな力をお持ちだとは」
実際のところ、この召喚サイクルの早さは充分に一線級と言えるものだった。自分が得意にしている分野に関して、また好ましいと思った魔法について、力を注ぎ込んだのが功を奏したのだろう。
「君こそ大したものだ。私が召喚したのは熟練兵程度には頑丈な兵士だというのに、一瞬で消し去ってしまった。とはいえ、私に触れるまで来てくれないことには、アクスヴィルに楯突こうとは思えないね。住んでいたことがあるくらいだ。多少の愛着は持っている」
「神、どうする。時間をかけるのは経済じゃないぞ」
プラム、君は実際のところいいやつだな。僕が「本当に」苦戦していると考えているようじゃないか。
「時間なんてかけないさ」
そうだ、安心していい。
僕ははっきりとメドラーノと、彼の呼び出した兵士たちを視界に捉えた。あちらから攻撃してくる気配はない。あくまでも防衛に徹するつもりのようだし、それが最も特性を生かしているのだろう。ロンドロッグの市民は幸せなのかもしれないと思ったし、ちゃんと人を見る目があるなと感心した。
「ふむ、どのようにするのかな」
「市長。残念ながら、貴方にとっては第二の故郷かもしれない場所に、反逆していただかなくてはならなくなる」
僕は脳内で何重にも魔法を折り重ねた。それはついに僕の体から吹き出す炎となり、ついに人体発火人間のように全身を包むまでになった。
問題はない。自分が傷つかない程度の中和魔法も同時に組み込むことくらい、僕にとって容易なことだ。
「なんて熱量」
「人は雨が降る時に傘を差す。傘がなければ、コートを着る。コートもなければ、黙って歩く。僕もそうだ。今もそうだ。僕はただ、雨の中を歩く」
僕が兵士を炎で焼き消す。
兵士が現れる。
炎が再び兵士を焼く。
それでも兵士は現れる。
さながら地獄絵図にも似た繰り返しが何度も、何十度も続いていく。
だが、僕は前進する。宣言した通りに、降り注ぐ雨粒も意に介さず、自由さに身震わせながら進む少年のように。
「お、おおっ」
いったい何十体の兵士を焼き消されたかわかるまい。メドラーノはさらに後退しようとして、とうとう部屋の隅に追い詰められた。追い詰めたのは僕だ。僕は彼に手を伸ばす。その上等な衣服に炎が乗り移りそうな瞬間に、魔法を終了して元の僕に戻る。
僕の手のひらが、メドラーノの肩に触れた。
「こんにちは、市長。僕がまだ成り立ての破壊神、リュウだ。さあ、ラルダーラのもとへ案内してもらおうか」