第17回「野望、果てしなく」
メドラーノは話しながら、盛んに身振りを加える。聴衆に言説を納得させる、「力ある」動きだった。
「ハスラム継承戦争。あれは醜い戦争だった。醜ければ醜いほど、第三国で商売する立場としてはありがたくなる。私たちも大層儲けたよ。だが、ラルダーラの働きは非常に目覚ましいものがあった。その残虐性を含めて、だ」
「市長、貴方は野心家ですな。どうやらこの程度の街で収まる器ではないらしい」
「どういうことだ」
プラムの言葉を聞いて、僕は嬉しくなった。彼女の知らないことがあると、何だか丁寧に教えてあげたくなるのだ。これもまた父性というものかもしれない。もっとも、汚い見方をすればマウントを取りたいだけでもある。
「彼は国を築こうとしているのさ。単なる商業都市として繁栄していくだけなら、各国から引く手あまたの傭兵団と契約する必要なんてない。だが、それをしているということは」
「侵略の意図がある」
「解放と言ってもらおうか、お嬢さん」
プラムの言葉に、メドラーノがすかさず訂正の意を示した。
「人間らしい言い回しだ」
君の言い草も、充分な人間らしさを秘めているんだけどね。
僕はそれを告げることはなかった。今はそれよりも優先すべきことがある。ハスラム継承戦争で名を馳せた、とてつもない「殺意に満ちた傭兵団」であるラルダーラ。彼らを是が非でも獲得する必要がある。
「では、市長。僕の要求は二つだ。ラルダーラをチャンドリカの救援に向かわせること。僕の指揮下でね。さらに、ロンドロッグの地下権を認めること」
「君がどれだけの力を持っているかわからない以上、素直にうんとは言えないなぁ」
メドラーノが一歩二歩と後ずさり、手を突き出す。たちまち光があふれ、二体の筋骨隆々な男が現れる。浅黒い肌に禿頭の輝く、「疑似人」とでも言うべき立ち姿。
「召喚魔法……」
「このご時世だ。私も多少は『やる』ようでないと、そうそう生きていけなくてね。神を自称する者の力、確かめさせてもらおうか。ああ、申し訳ないが、この部屋をあまり汚さないようにしてもらえるかな。君が練達の者なら、それくらいは朝飯前だろう。もしも、それが不可能なようであれば、私はすぐにでもラルダーラに通報させてもらう」
この市長、本当にやばいやつだ。そうでなければ、今という時代を生き抜くには不適格ということなのだろう。
「貴方に通報させた方が話は早いかもしれないが、わざわざ僕に機会を与えてくれたんだ。きっちり見せてご覧に入れよう」
彼の課題を受けることに対し、ためらう必要など何もなかった。
圧倒的に勝つ。ただそれだけを行えばいいのだ。僕という神の名のもとに。