第15回「事実がハッタリの土台となる」
「失礼、ルテニアのマーカス管区から参りました。オブライエン管区長から至急お伝えしたいことがあり、市長にお取次ぎ願えればと思います」
「オブライエン管区長の……。かしこまりました。少々お待ちください」
受付の女性に告げると、彼女は早足でその場を後にした。
なかなか悪くない面だったな、と思う。どんな世界でも、受付には容姿で採用した人材を置くものだ。また、天は結構な割合で二物を与えるから、その受付が同期の中でも抜けて頭がいいこともある。
僕としては、彼女がぐだぐだと言って回答を引き伸ばし、貴重な時間を浪費しなかったことに好感を抱いた。小さいことだが、重要なポイントだ。
「いったい誰だ、オブライエン管区長というのは」
即断即決の権化たるプラムが尋ねてきた。いいでしょう、答えてあげましょう。
「僕が勇者のパーティーにいたことは知っているね」
「もちろんだ」
「そこにメル・オブライエンという女戦士がいた。見かけはちっこいのに執念深く、何より怪力でね。彼女の父親がフランコ・オブライエン。ルテニア王室と太いパイプを持ち、各地の政治家から裏金を受け取って便宜を図るのに長けた男だ。だが、単なる小悪党じゃない。それができるだけの力はある。彼の名前ならば、きっと取り次いでもらえると思ってね。無理そうなら、静かに押し入ろうと思ったが」
「なるほど、経済なやり方だ。しかし、静かに押し入るというのはおかしな使い方だな。そちらは経済ではない」
これは言うとおりだ。「頭痛が痛い」に近いものを感じる。
まあ、僕としては自分の存在が明るみに出ないことが最善だから、押し入ってしまった方が早かったかもしれない。
ただ、その場合のリスクも考慮に入れると、正規のルートで会見に入るに越したことはなかった。
一息ついて周囲を見回すと、興味深いものが目に入った。
「僕はこの街の市長の名前さえ知らなかったが、自己顕示欲が旺盛なようで助かったよ。見ろ、パンフレットだ。ブライアン・メドラーノ。すでに四期目とは、ずいぶん羽振りが良さそうだな」
「清廉潔白でない可能性が高いわけか」
「政治家に清廉潔白なやつなんていないよ。そういうのはさっさと荒波の中で食われちまうからな。むしろ、どれだけワルに徹することができるかで価値が決まる。本物のワルは肝も太い。ぜひとも、僕の期待に応えてほしいものだ」
それから一分もしないうちに、受付嬢が帰ってきた。
「お待たせしました。市長のもとへご案内します」
「ありがとう」
僕が答えた横で、プラムが何かを言った。
おそらくは独り言のようだったが、僕にはこんなふうに聞こえた。
「まったく、経済だ」