第14回「ロンドロッグ潜入」
ロンドロッグの中に入るころには、砲声も遠いものとなっていた。とはいえ、同じ戦域を共有していると言えるほどには、二つの拠点は近い関係にある。一大ダンジョンを構築するのには最適だと感じた。
「結構な規模だが、本当に掌握できるのか」
プラムはロンドロッグの規模に危惧を抱いたようだ。もしも、この街の力が使えないとなると目論見は外れ、チャンドリカを見殺しにしてしまう可能性もある。それは僕もわかっていた。
「政戦両面で引っ張ってやればいいんだ。まずは市庁舎を押さえる」
「どこにあるのか知っているのか」
「知らん」
「頭が悪い」
「待て。ちょっと離れてるんだ」
僕は天に人指し指を立て、つぶやいた。
たちまち、僕に雷が落ち、光が全身からほとばしった。電流は指先から心臓までを駆け巡り、やがて大地へと拡散していく。
「何をした。あまり経済なやり方には見えないが」
プラムが少し心配そうな語調に変わっていた。
おやおや、可愛いところを見せるじゃないか。
「周辺一帯の地図を読み取った。『天の目』という、僕オリジナルの魔法だけどね。エコーやレーザーを利用して……とにかく辺りは把握した。市庁舎らしき建物も見つけたぞ。行こう」
僕はプラムを促し、走り出した。
「神は本当に元人間なのか。私には異様に思えることがある」
「人間さ。別の世界で生まれ、死に、ここに流れ着いた。君も同じような境遇なんじゃないかな、プラム。この世界で生まれたとしても、本当にこの世界で生きていていいのか。そんな風に思わなかったかい」
「勝手に他者の生きてきた歴史を類推するな」
気分を害したらしいのがまたたまらなく心地よかったので、僕は続けることにした。
「これは失敬。僕としては、君から似たものを感じるんでね。阻害される者。決して溶け込めぬ者。集団の中にいて、一人だけ違う線の上に立っている気持ちがする。ここが自分の居場所ではないと、本能的に感じ取っている。しかし、見えない。自分の生きる場所が。自分の進むべき道が」
「神が私の何を知っているというんだ」
「知らないさ。何も知らない。だが、これから知ることはできる。僕らは同じ時間を共有している。今のところ、その壁を飛び越えて、さらなる存在に超越する気配はない。ならば、わかり合えることもあるだろう。……よし、ここだ」
間違いなかった。ちゃんと市庁舎である旨の掲示がある。目的地に到達したのだ。
もちろん、違う建物であったとしても、プランBは用意してあった。幸い、それを使うことはなさそうだ。まずは市庁舎から掌握し、次に軍隊を支配下に置く。速やかな行動が必要だった。