第8回「破壊神の初仕事」
「おい、神。ロンドロッグを知っているか」
まるでインタビュー番組のように30分ほど語った後のことだ。プラムがそう切り出してきた。彼女はどうあっても僕を名前で呼びたくないらしく、神呼ばわりしてくる。神様なんてのはそれくらいでちょうどいいのかもしれない。
「それなりの規模の商業都市だね。かまどの神であるテンガを祀った神殿がある。一度行ったことはあるが、さほど」
「その近くにチャンドリカ城という廃城がある。昔の人間が作った城で」
「プラム」
「気安く名前を呼ぶんじゃない」
「僕は発言を被せられるのが嫌いなんだ」
「私はお前が嫌いだ」
「残念ながら、僕は君のことが好きだ」
「なっ……ん」
ようし、やりこめてやったぞ。
ここまでのやり取りでもわかる通り、プラムは攻められると弱いタイプのようだった。いいね。すごくいい。僕の心をときめかせてくれる。読書して、彼女をいじって、それで日が暮れたっていいくらいだ。いや、日が暮れたってどっちも継続するけどね。
ただ、指摘した通り、言葉を遮られるのは好きではない。僕は会話の主導権を握りたい方だ。この点では、上手く彼女に打ち勝っていく必要がありそうだった。
「チャンドリカのことは知っている。『人形道楽』と呼ばれた富豪が建てた城で、有り余るほどの人形を飾って暮らしていたという。だが、晩年になるにつれて気が触れたか、ついに家族と使用人を皆殺しにした上、自らも命を絶ってしまった。ロンドロッグの街の人間は気味悪がって近づかなかったらしいが、モンスターは違ったようだな。今では彼らの住処になっていると聞いた」
はぁっ、とプラムが大仰に息を吐いた。
「伝聞で知った風な口を利くな」
「君のスリーサイズは84・59・82と見たが」
「推測で語れという意味でもない。まったく、経済じゃないな」
僕の体型観察は結構な経済だと思うのだが、どうだろう。
「僕が知っている情報はロンドロッグで聞いた程度であることは認めよう。しかし、そこまで言うからには、別の真実があるんだろうね。ナイスバディのプラムくん」
「チャンドリカを根城にしようとしたのは人間の野盗やモンスターの一団も同じだ。それどころか、有力な拠点になりうるとして、国家的な規模で確保の動きもあった。だが、上手くいかなかった」
「大規模な軍隊さえも通れないような何かがあり、しかも、僕の耳に入らないように緘口令まで敷いている」
「そうだ。これは最高レベルの機密情報だ。チャンドリカは城そのものが生きていて、今までに食ってきた魂をすべて使役している。館の主や名もなき冒険者はもちろん、軍隊だって使える」
「一方的に相手の駒を使えるようなものか。そいつはえぐいな」
「この厄介な『何者か』を『破壊』できるのは、お前くらいのものだと思うが」
わかった。
プラムは僕の知恵袋なのだ。
彼女の言うことに従っていれば、「面白いところ」に連れて行ってくれる。
アルビオンめ、面白い少女を僕に付けてくれたものだ。人生が楽しくなってきた。僕は本も好きだが、生きた体験はもっと好きだ。だからこそ、シャノンたちと旅をしていたのだし、それが息苦しくなったから止めたのだ。
「人を乗せるのが上手いな。いいだろう。僕は強い興味を持ったぞ。破壊神としての初仕事はチャンドリカだ」
僕は立ち上がり、部屋を出る。プラムも後についてくる。
嬉しいね。すごく嬉しい。心が通じるのは何にも勝る喜びだ。
では、破壊神としての初陣を飾りに行こう。